令和3年(2021年)5月、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が改正されました。改正法は、公布日(令和3年6月4日)から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます。
障害者差別解消法は、国際的な障害者権利条約や、障害者の自立・社会参加の支援などによって障害者の福祉を増進することを目的としている障害者基本法に実効性を持たせるための国内法として、2013年6月に制定され、2016年4月に施行されました。今回はそれ以降はじめての改正となります。
年々増え続ける障害者の数
内閣府の『障害者白書(令和2年版)』によると、障害者数は年々増えており、平成18年(2006年)には655.9万人でしたが、平成30年(2018年)には936.6万人と、約10年間で1.4倍になっています。
内訳を見ていると、2006年と比べて2018年には、身体障害者数が1.2倍(351.6万人から436.0万人)、知的障害者数が2.4倍(45.9万人から108.2万人)、精神障害者数が1.5倍(258.4万人から392.4万人)となっています。
2018年時点での総人口は1億2644.3万人、障害者数は936.6万人なので、国民のおよそ7.4%が何らかの障害をもっていることになります。このうち、身体障害者は3.4%、知的障害者は0.9%、精神障害者は3.1%という割合です。
このような統計データから見ても、障害者差別を解消するための取り組みが急務であることがわかります。
改正障害者差別解消法のポイント
今回の改正法のポイントは、次の2つです。
1. 差別を解消するための措置
差別を解消するための措置として、障害者への「不当な差別的取扱いの禁⽌」と「合理的配慮の提供」が求められます。
不当な差別的取扱いの禁⽌は、
- 国・地⽅公共団体等には法的義務
- 事業者にも同じく法的義務
として求められます。
たとえば「受付対応の拒否 」「介助者なしの⼊店の拒否」「学校の受験や入学の拒否」「物件紹介などの対応の拒否」などが禁止されます。
合理的配慮の提供は、今回の改正で、
- 国・地⽅公共団体等には法的義務
- 事業者にも同じく法的義務
として求められることになりました(改正前は、事業者には努力義務)。
たとえば「携帯スロープでの乗車の補助」「意思を伝え合うための絵や写真のカードやタブレット端末などの使用」「障害特性に応じた座席の用意」が該当します。
念のため、該当する条文を引用します。
障害者差別解消法 第8条第2項
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
ここで「障害者」とは、必ずしも障害者手帳をもっている人だけではありません。身体障害、知的障害、精神障害、その他の心や体の働きの障害(難病など)がある人で、障害や社会的障壁によって日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人すべてが対象です。
また、「事業者」とは、会社や店舗はもちろん、同じサービスを繰り返し継続する意思をもって行う人たちを意味します。たとえば、非営利法人やボランディア活動を行うグループなども「事業者」に該当します。
2. 差別を解消するための支援措置
差別を解消するための支援措置としては、次の4つがあります。
- 相談・紛争解決相談・紛争解決の体制整備
既存の相談・紛争解決の制度の活⽤、充実 - 地域における連携
障害者差別解消⽀援地域協議会における関係機関等の連携 - 啓発活動
普及・啓発活動の実施 - 情報収集等
国内外における差別及び差別の解消に向けた取組に関わる情報の収集、整理及び提供
これらのうち、事業者に特に必要なのは従業員への啓蒙活動でしょう。特に、他店舗展開をしている事業では、すべての従業員への啓蒙が徹底できない可能性があります。消費者にとっては、ひとりの従業員の態度や応対の仕方が、その会社の意思の表れである、と受け止めます。
この機会に、あらためて従業員への啓蒙活動を実施しましょう。
社会的障壁と合理的配慮
すでに触れたとおり、国・地方公共団体等や事業者は、事業を⾏うにあたり、障害者から意思の表明があった場合、過重な負担がない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮(合理的配慮)を⾏うことが求められます。
ここで「社会的障壁」の例としては、
- 社会における事物
通⾏・利⽤しにくい施設・設備など - 制度
利⽤しにくい制度など - 慣⾏
障害のある⽅の存在を意識していない慣習・⽂化など - 観念
障害のある⽅への偏⾒など
などが挙げられます。
また、「合理的配慮」については障害者権利条約で次のように定義されており(英語では「reasonable accommodation」)、障害者差別解消法の拠り所となっています。
障害者権利条約 第二条 定義
「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
合理的配慮は、事業者ごとに適切な対応が異なるので、内閣府の「合理的配慮サーチ」で具体例を参考にしてみてください。
事業者として準備できること
法律上、合理的配慮を提供する義務は、障害者差別解消法 第8条第2項にあるとおり、①「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」で、②「その実施に伴う負担が過重でないとき」に限定されてはいますが、事前に消費者や顧客からの要望を想定しておくことで、実際に意思の表明を受けたときにスムーズに対応できるでしょう。
たとえば飲食店で、建物や設備の構造として、車椅子での入店がむずかしいとします。お客さんが近隣に住んでいる方であれば、料理を配達することで納得してもらえるかもしれません。このような双方による建設的対話によって、相互理解を通じて課題解決を図ることは、内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」でも示されています。
また、筆談用具(手持ちのホワイトボードなど)、コミュニケーションボード(絵や記号で意思疎通がはかれるボードなど)、写真つきメニューなどを用意することも、障害者によろこばれるでしょう。
なお、過度な負担かどうかが問題になる場合は、考慮要素としては次のものが挙げられています。事業者にはこれらの要素に照らした適切な判断が求められます。
- 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
- 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模
- 財政・財務状況
まとめ
以上、障害者差別解消法の改正と、事業者として必要な対応について解説しました。
事業者としては、どのような場面で障害者が不都合を感じる可能性があるかを把握し、過重の負担とならない範囲で実施できるか、建設的対話によって課題解決を図るために工夫すべきことは何かを、あらかじめ検討しておきましょう。