先日公開した 令和の「内部告発事件簿」5選。不正摘発や自衛手段として活用される録音データ という記事で指摘したとおり、内部告発者を守る法律として2006年に施行された「公益通報者保護法」には、
- 内部告発の対象となった相手側からの報復行為に対する罰則がない
- このことが、内部告発者に対する企業や組織内での冷遇や、不当に懲罰対象とされることにつながっているため、内部告発者を萎縮させてしまう恐れがある
という問題点があります。
来たる2022年6月1日に公益通報者保護法の改正法が施行されることで、内部告発(内部通報)や通報者の扱いがどのように変わるのかを見ていきましょう。
改正公益通報者保護法のポイントは3つ
改正公益通報者保護法のポイントは次の3つです。特に、1と2が重要です。
1. 公益通報の範囲の拡大
現役の従業員だけでなく、退職後1年以内の退職者(従業員であった者)も、公益通報に関わる不利益処分(たとえば退職金不支給)から保護されることになりました。
また、役員も公益通報に関わる不利益処分(たとえば報酬の減額)から保護されることになりました。なお、不利益処分としては解任を除くとしてますが、解任時の損害賠償請求権を認めています。会計監査人(公認会計士または監査法人)は独立的であることから対象外とされました。
通報対象事実として、刑事罰対象行為だけでなく過料対象行為と本法違反行為が加えられました。刑事罰には背任、横領、賄賂、ハラスメントなどの行為が、過料には地方自治体の条例違反などが該当します。
監督官庁が2号通報(監督行政機関への通報)の外部窓口を設置することができるように、監督権限のある「行政機関があらかじめ定めた者」(外部委託先)を2号通報の通報先に追加されました。
なお、組織内の指定窓口への通報を「1号通報」、第三者(報道機関やマスコミなど)への通報を「3号通報」といいます。
2. 公益通報者保護の拡充
労働者による2号通報では、結果として真実相当性がなくとも一定事項を記載した書面を提出すれば保護されることになりました。これは、監督行政機関の職員には職務上の守秘義務があり、情報漏えいのおそれが少ないことが理由です。
労働者が記載すべき一定事項とは、次のとおりです。
(イ)公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
(ロ)当該通報対象事実の内容
(ハ)上記思料の理由
(ニ)当該通報対象事実について法令に基づく措置等適当な措置がとられるべき
労働者による3号通報では、通報者による情報漏えいや重大な財産被害に相当の理由がある場合に保護されます。つまり、通常は1号通報(組織内の指定窓口への通報)や2号通報(行政機関への通報)がなされるところを、そうではなく第三者に通報するからには、相当の理由がなければならない、ということです。
また、通報者の保護に関する大きな前進といえるのは、通報を理由とする通報者の損害賠償義務が免責されたことです。これにより、通報対象者(たとえば経営者)が通報者(たとえば従業員)に対して、報復措置として損害賠償請求をしたとしても無効になります。
3. 事業者・行政機関の措置の拡充
事業者には体制整備や通報対応業務従事者設置の義務、同従事者には守秘義務が課せられました。
また、行政機関には2号通報への適切な措置や体制整備が義務づけられました。
改正公益通報者保護法にどう対応すべきか
改正法は、一般企業だけでなく、地方自治体や公益法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人も適用対象ですが、従業員が300人以下の事業者については努力義務とされていますので、比較的規模の小さい企業は、対応を急がなくてもよいでしょう。
ただし、企業の内部統制としては、窓口の設置や取り扱いについて決めておいたほうが望ましいことは言うまでもありません。
内部通報制度を整えておくことで、
- 社内の不正の早期発見(自浄作用)
- 行政機関(2号通報)や報道機関(3号通報)など外部への通報によって、結果的に広く社会に知られる可能性があり、会社全体への評価が下がることを防ぐ
- 消費者や取引先からの信頼感の向上
といったメリットがあります。
内部通報制度を整備する際のポイントは、
- 窓口の設置
- 担当者の設置と守秘義務(公益通報者対応業務従事者)
- 通報者の探索や探索の禁止
- 通報者に不利益処分を行わないこと
- 通報者に対して損害賠償を請求できないこと(報復措置の禁止)
といった点を明確にし、体制整備と社内周知を徹底することです。
まとめ
いかがでしたしょうか。
内部告発(内部通報)について、過去には千葉県がんセンター事件(通報者を担当の業務から外す)やオリンパス事件(通報者に対する配置転換命令)など、組織ぐるみで通報者への報復がなされてきた事実があります。
改正法の施行によって、通報者に不利益が生まれないことを願うとともに、私たち一人ひとりが公益につながる内部通報と改正法への理解を深めることが大切と考えます。