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WHOの「自殺報道ガイドライン」。知っておきたい「するべきこと」と「してはいけないこと」

この記事のサマリー

  • WHOが「自殺報道ガイドライン」で「するべきこと」と「してはいけないこと」を公表
  • 自殺について前向きな対処法を紹介する報道には、自殺を思いとどまらせる可能性がある
  • 自殺報道後に自殺者数が増加する現象を「ウェルテル効果」いい、日本でも確認されている

目次

世界保健機関(WHO)が「自殺報道ガイドライン」を公表していることをご存知ですか?

正式名称は『自殺予防を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識』で、2023年9月に公表した2023年版が最新版です(前版は2017年版)。

2023年版では、メディアが自殺について報道する際に「するべきこと(Dos)」と「してはいけないこと(Don’ts)」をまとめた「クイック・レファレンスガイド」が更新され、自殺を予防する報道の肯定的な影響を指す「パパゲーノ効果」に関する最新の研究に関する記述が増えています。

ここで「パパゲーノ効果」とは、ウィーン医科大学公衆衛生センター社会医学研究所准教授のトーマス・ニーダークローテンターラー氏らが2010年に発表した自殺の抑止効果のことで、辛い問題を抱えて死にたいと考えている人が、自殺を踏みとどまったエピソードなどに触れることで、自殺死亡率が低下するという学説です。

つまり、死にたいような厳しい状況下でも前向きな対処法を紹介する報道には、自殺を思いとどまらせる可能性がある、ということです。モーツァルトのオペラ「魔笛」の登場人物であり、自殺を寸前でやめて生きる道を選んだパパゲーノになぞらえて名付けたそうです。

それでは、自殺報道で「するべきこと(Dos)」と「してはいけないこと(Don’ts)」と、日本における自殺報道の是非について見ていきましょう。

自殺報道で「するべきこと(Dos)」

  • 自殺を考えたり自殺の危機が高まったりしたときに、どこに、どのようにして助けを求めればよいか、正しい情報を提供する
  • 自殺や自殺予防に関して、正確な情報に基づいた事実を周知する
  • 生活の中でストレスを抱えたり、自殺を考えたりしたときの対処法や助けを求めることの大切さについて報道する
  • 有名人の自殺を報じる際には、特に注意を払う
  • 家族や友人などを自殺で亡くした方、自殺を考えたことがある方や自殺未遂をしたことがある方に取材をする際には、慎重に行う
  • 自殺について報道するときに、メディア関係者自身がその影響を受けてしまう可能性があると認識する

自殺報道で「してはいけないこと(Don’ts)」

  • 自殺に関する内容をトップニュースとして扱ったり、報道を漫然と繰り返したりしない
  • 自殺の手段を描写しない
  • 場所に関する名称詳細な情報を伝えない
  • 自殺をセンセーショナルに扱ったり、美化したり、よくある普通のこととして扱ったり、あるいは問題を解決する有効な方法のように紹介したりする言葉やコンテンツは使用しない
  • 自殺の原因を単純化したり、一つの要因に決めつけたりしない
  • 見出しにセンセーショナルな言葉を使わない
  • 自殺関連の写真、ビデオ映像、録音した音声、デジタルメディアやソーシャルメディアへのリンクを使用しない
  • 遺書の詳細を報じない

日本における自殺報道の是非

日本では、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症の蔓延で生活様式が大きく変わり、人と人との交流が途絶えたり、ウイルス感染の不安が社会全体を覆ったりした影響からか、有名人の自殺が相次ぎました

2020年7月に俳優のH.M.さん、9月に女優のY.T.さんが自殺し、メディアで大々的に報じられたことは記憶に新しいところです。2022年5月にはお笑いタレントのR.U.さんが自殺したことも、各方面に大きな衝撃を与えました。

自殺報道は、自殺したいと考えている人に大きな影響を与えかねません

実際に、女優Y.T.さん、お笑いタレントR.U.さんの自殺報道直後には、自殺者数の増加が見られたという調査結果があります。

画像出典:いのち支える自殺対策推進センター「【開催レポート】第5回 自殺報道のあり方を考える勉強会 ~地方メディアが変える、地域の自殺対策~」

自殺者数の増加は、自殺した有名人と近い年齢層で顕著です。女優のY.T.さんの自殺報道後2週間では40代女性の、お笑いタレントR.U.さんの自殺報道後2週間では40代・50代男性の自殺者数が明らかに増加していました。つまり、「自殺した人と属性の近い人は、自分自身と重ね合わせて考えてしまう可能性があり、自殺報道の影響を強く受けやすい」といえます。

自殺報道後に自殺者数が増加する現象は「ウェルテル効果」と呼ばれています。社会学者であるディヴィッド・フィリップスが、ゲーテの代表作『若きウェルテルの悩み』にちなんでつけた名前です。

なお、2023年5月に起こった有名歌舞伎俳優の自殺未遂事件に関する報道の直後は、自殺者数が増えていなかったことがわかっています。

マスコミなどのメディアは、有名人の自殺(未遂を含む)を大きく取り上げる傾向があります。テレビ各局が朝から晩まで自殺報道一色という日も珍しくなく、「ウェルテル効果」が強く作用してしまうことが懸念されます。また、X(旧Twitter)や匿名掲示板などでも、流言飛語を含めて無責任な発言が活発になされることを不快に思う人も少なくないでしょう。

筆者が驚いたのは、お笑いタレントR.U.さんの自殺報道で、あるテレビ局が自宅マンション前から中継していたことです。そのマンションをインターネットユーザーたちが素早く特定し、瞬く間に情報が広がってしまいました。R.U.さんの配偶者や親戚、友人の方々の心痛はいかばかりかと、縁もゆかりもない人間なのに、胸が苦しい思いをしたことを覚えています。

まとめ

マスコミ各社はもちろん、インターネット上で情報発信をする私たち一人ひとりも、WHOが公表している自殺報道で「するべきこと」と「してはいけないこと」をよく理解する必要があると思います。

「マスコミなんて、そんなもの」と考える向きがあるとして、それを許容してしまっているのも、やはり私たちです。

誰もが自殺という不幸な選択をしないために、一人ひとりが少しずつでも、社会をよくするために行動できればと願っています。

なお、日本における自殺対策の現状については、過去記事 自殺総合対策大綱が5年に一度の見直し。自殺対策の歩みと今後の重点施策を知ろう でまとめていますので、あわせてご覧ください。

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