電話による詐欺というと、身内を騙った「オレオレ詐欺」のイメージが強いかと思いますが、コロナ禍の不安心理を利用した新たな特殊詐欺が増えているようです。
たとえば、市町村など公的機関を装った還付金詐欺や、ワクチン予約の手続きを装う手口も出てきています。
一方で、各市町村では電話による詐欺対策として、固定電話へ後付けできる通話録音機の無償貸し出しをスタートしたところも出ているようです。
最新の事例と対策を知って、いざというときにご自身や身近な方の被害に備えましょう。
世情を反映する特殊詐欺の手口と事例
特殊詐欺とは、電話などを用いて非対面で信頼を得て、指定した預貯金口座へ振り込みを行う手口(現金等を脅し取る恐喝及び隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗を含む。)の総称です。
令和3年上半期の特殊詐欺件数
警察庁の発表では、令和3年1~6月末の特殊詐欺認知件数6,840件(-37件※)でした。
種別 | 認知件数 | 前年同時期比※ | |
1 | オレオレ詐欺 | 1,418件 | +373件 |
2 | 預貯金詐欺 | 1,379件 | -774件 |
3 | 架空料金請求詐欺 | 987件 | +88件 |
4 | 還付金詐欺 | 1,733件 | +970件 |
5 | 融資保証金詐欺 | 85件 | -108件 |
※令和2年の同時期との比較件数
参考:警察庁「令和3年6月の特殊詐欺認知・検挙状況等について」
全体件数としては昨年とほぼ横ばいの件数ですが、還付金詐欺が突出して増加していることに注目しましょう。
還付金詐欺とは、市区町村や年金事務所や税務署といった公的機関職員を装った加害者が、電話などで被害者に接触し、ATMに誘導し加害者側の口座へ振り込みを行わせる詐欺です。
一方、減少した預貯金詐欺は、「あなたの口座が犯罪に利用されており、キャッシュカードの交換手続きが必要である」などの名目でキャッシュカードなどを騙し取る詐欺です。
私見ではありますが、オンラインや非対面手続きが推奨されているという意識と、コロナウイルスにまつわる給付金の情報が錯綜しており、公的機関を装った金銭の給付連絡に惑わされてしまいやすくなっていることが、還付金詐欺が増えていの一因ではないかと思います。
「払い戻し」なのになぜ騙される? 還付金詐欺事例
還付金と称しているのに「どうしてお金をとられてしまうのか」と、疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。「高齢者がATMの操作に不慣れだからでは?」と思われるかもしれませんが、実はそんな方が想像しているよりも、手口は複雑で巧妙なので注意しましょう。
警察庁の公式Youtubeチャンネルでは擬似体験動画が上がっています。
6分ほどの動画です、ぜひご覧ください。
動画を見るとわかるとおり、犯行の電話は1名の1回の電話ではありません。役場の職員役と銀行員役の2名が2回にわたって電話をかけており、巧みに「それっぽさ」が演出されています。
動画の中の被害者役の女性も「還付金なのになぜ払い込み画面へ誘導させられているのか?」と疑問を口にしていますが、役場の職員ではなく銀行員役の男の口から「手続きとして必要」と語らせることで、
- 「役場の口座番号を入れる必要があり、そのために必要なのだろうか?」
- 「特殊な手続きだからそういう操作が必要なのだろうか?」
- 「イマイチわからないけど、銀行員が言うのだからそうなのだろう」
と、自らを納得させてしまうような、巧みな誘導が行われています。
公的機関からの給付金や還付金で、ATMの操作で支払われるものはありません。書面を用いて正しい手順を踏んで申請する必要があります。
しかし、冒頭では「還付案内の書類を送ったが、返送がなかったため連絡している。今日中の手続きが必要」と急かすことにより、正常な判断を鈍らせています。
コロナ禍に便乗した詐欺が増加
コロナ禍によって、人と人との交流が減少していることも、大きな要因かもしれません。誰かと世間話や情報交換をする時間が減り、「それ詐欺じゃない?」と指摘をしてくれる存在ともあまり会えずにいる方がたくさんいると思います。
ワクチン接種を希望する多くの方が、スムーズに予約できずにヤキモキしている中、公的機関を名乗り「ワクチン接種の予約枠をご用意できました。つきましては予約金が必要になるため、振り込みをお願いします」という手口もあるようです。
新型コロナワクチンの接種は無料です。予約にお金がかかることもありません。しかし、もし「インフルエンザのワクチンもお金がかかるものね」などと納得してしまえば、そのまま騙されてしまうかもしれません。
どのような状況で詐欺が起きているのかを知れば、いざというときに「おかしいな」と気づけるきっかけになります。
そのほかにも、次のような特殊詐欺があったようです。
- 会社員を名乗る男から「コロナで会社が困っていれば500万から3,000万まで融資します。」等の電話があった。
- 「80歳以上の方はコロナで補助金が60万円出ます。キャッシュカードと印鑑証明1通を用意しておいてください。」等の電話があった。
- 厚生労働省を名乗る男から、「コロナ対策の助成金が下りる。」等の電話があった。
- 女の声の自動音声ガイダンスが流れ、「新型コロナウィルスの流行で給付金があります。案内に従ってください。」等の内容の電話が一方的にあった。
- 市役所福祉課を名乗る女から、「コロナ対策の書類を送ったが届いているか。」等の内容の電話があった。
- 東京都コロナ対策本部を名乗る男から、「コロナ給付金10万円が出ますので、市役所の職員が書類を持って伺います。お時間は何時がよろしいでしょうか?」等の内容の電話があった。
- 女の声で自動音声ガイダンスが流れ、「コロナの関係で国民に10万円が振り込まれます。その代行サービスをやっています。」等の内容の電話が一方的にあった。
- 保健所を名乗る男から「コロナの検査キットを送りますので家族構成を教えてください。」等の電話があった。
有効な対策は「電話に出ないこと」と「通話の録音」
特殊詐欺の手口が複雑化しており、電話に出てしまうと犯人のペースに乗せられやすくなってしまいます。被害に遭わないためには、「加害者からの電話には出ない」ことが有効だといわれています。
また、加害者は証拠が残らないようにしたいため、録音を嫌います。在宅時でも留守番電話に設定しておくこともおすすめです。知らない番号や心当たりのない電話には出ずに、必要な内容であれば電話帳に登録してある番号や、メモなどに控えている番号にかけ直しましょう。
固定電話で番号を事前に確認するには、ナンバーディスプレイ設定がおすすめです。
筆者の知人の家の固定電話もかねてより常に留守番電話に設定しており、訪問した際にもよく電話が鳴っていました。
セールスであれば「またかけ直します」の一言が留守番電話に入っていることもありましたが、途端でガチャ切りというのも大変多く、「やましい電話はわざわざ留守番電話に残さず、次のターゲットとなる人に電話をかけるよな……」と感じました。
もちろん、特殊詐欺の加害者こそ一般的に言われている対策は熟知しているはずですから、「もしもしおばあちゃん? 実は今、事故を起こしちゃって、携帯も壊れちゃって……」などと言われても、冷静に受け止め、まずは電話に出ないという判断が必要です。
通話録音機の設置
前述の通り加害者は証拠として音声が残ることを嫌うため、「この通話は録音をします」と相手に明示することが防犯につながります。
そこで役立つのが、固定電話に後付けできる通話録音機や、迷惑電話防止機能付きの電話機です。
通話録音基は個人でも購入が可能です。
5,000円前後で購入できる機種がさまざまなメーカーから出ていますので、心配なご家庭は取り付けを検討してみてもよいでしょう。
また、最近の固定電話の中には迷惑電話防止機能が搭載されている機種も多くありますので、操作を覚えるのが難しくない場合は買い替えると安心です。
着信時に自動的に「この電話は特殊詐欺防止のため録音されています」などの固定メッセージが相手側に流れ、会話が録音されます。
また、「この電話はおつなぎできません」というメッセージを流す通話拒否ボタンが搭載されているものや、着信の際に「迷惑電話にご注意ください」といったアナウンスが流れる電話機も出ているようです。
自治体や警察による通話録音機の無償貸出しなど
最近では、多くの都道府県・市町村の自治体や警察が通話録音機の無償貸出しを開始しています。高齢者のみが対象などの条件や台数に限りがあったり、補助金の給付というかたちでサポートしている地域もあります。お住まいの地域名と通話録音機などで検索してみてくださいね。
参考:朝日新聞「詐欺電話『録音中』で撃退 長崎県警、高齢者に貸し出し」
参考:十勝毎日新聞「特殊詐欺防げ 通話録音機を無料貸し出し 豊頃」
まとめ
いかがだったでしょうか?
筆者自身も「自分はひっかからないだろう」と考えていたところもあるのですが、最新の手口や事例を調べてみるほどに、ほんの少しの勘違いや、面倒くささを感じて納得したふりをしてしまえば、誰でも簡単に騙される可能性がある、という恐ろしさを感じました。
特殊詐欺には、さまざまな手口があります。「電話による詐欺=一時期流行ったオレオレ詐欺」と限定的に考えず、身近な方とあらためて話をし、注意をうながしたり、最適な対策を考えたりしてみてくださいね。