新型コロナウイルスの感染拡大は、どの業種にも大きな影響を与えています。中でも、飲食やアパレル(服飾)は大きな打撃を受けた業種です。
どちらも接客業であり、お客さんの来店を待つ業態である、という共通点があります。しかし、この「お客さんの来店を待つ」という点に根本的な限界があり、ウィズコロナの時代に生き残るためには「お客さんに来店をうながす」必要があると考えます。
具体的には、「デジタル接客」に大きく舵を切ることが、生き残りにつながるでしょう。インバウンド需要はもとより、以前のような客足はまだまだ期待できません。お客さんとデジタル上で接点を作り、行きたいお店の選択肢に入る努力が必要です。
とはいえ、独自のスマートフォンアプリを開発したり、AIベースのシステムを導入したりするのは、大きなコストがかかります。ただでさえ売上が下がったところに、大きな出費をするのはむずかしいはずです。
筆者は、飲食店の店主や商業施設のマーケティング責任者などと付き合いがあり、デジタル接客や集客について率直に話し合い、ウェブマーケティングの専門家としてアドバイスをしてきた経験があります。
この記事では、それらの人たちとの会話から生まれたデジタル接客のアイデアや実際の取り組みの中から、コストがかからずに実行できることをまとめてみます。
飲食・アパレル:SNSでのアクティブサポート
SNSを活用している店舗は、スタッフや商品へのコメントにていねいに返答するのは当たり前として、さらに「アクティブサポート」という方法で、消費者とコミュニケーションをはかるとよいでしょう。
アクティブサポートは、文字どおり「積極的な姿勢で消費者をサポートすること」です。消費者からの問い合わせを待つ従来型のサポートではなく、店舗側から消費者の疑問や不満を発見し、適切に回答することで、問題解決をはかる方法です。
SNS内で、店舗名、商品名、ブランド名などで検索し、疑問や不満が書かれていれば回答する、という手順でサポートします。もちろん、来店への感謝、褒め言葉や好意的な意見に対するお礼を書くのもよいでしょう。
アクティブサポートは、顧客の獲得と維持の両方に有効です。つまり、
- まだ来店や購入を決断していない人の後押しになる
- すでに来店や購入した人へのアフターケアになる
というメリットがあります。
また、
- 消費者の声を店舗や商品の改善に活かせる
- 消費者の心理的な動きを早めにキャッチでき、新たな行動に活かせる
といった副次的な効果もあります。
アクティブサポートに向くSNSはTwitterとInstagramです。また、Google マップでのクチコミ対応も、しっかりと行っておきたいところです。
1. Twitter
Twitterは、アクティブサポートにもっとも向くSNSといえます。ある店舗に対して、よい点も悪い点も率直に書いた投稿が多いからです。
- 公式アカウントへのメンション(@付き投稿)
- 店舗名、商品名、ブランド名が含まれる投稿
にコメントをつけることで、消費者の問題解決をはかりましょう。
また、特にうれしい投稿や参考になる投稿をリツイートし、フォロワーに伝えるのもよい方法です。
2. Instagram
Instagramも、アクティブサポートに適したSNSです。Twitterに比べると本音の意見や問題解決の機会は少ないかもしれませんが、特に実店舗型のビジネスでユーザーのさまざまな声に触れられます。
- 公式アカウントへのメンション(@付き投稿)
- 店舗を位置情報として指定した投稿
- 店舗名、商品名、ブランド名などが含まれる投稿
にコメントをつけましょう。感想や意見への反応が中心とはいえ、このような活動が顧客の維持やリピーターの増加につながるはずです。
なお、Instagramの活用する際は、通常のアカウントではなくプロアカウントに設定しておきましょう(無料で設定できます)。プロアカウントでは、インサイト(アカウントやフォロワーの分析)が見られたり、プロフィールに問い合わせ先を設定できたりするからです。
3. Google マップ
近年、Google マップで投稿されたクチコミが、集客に大きく影響するようになっています。
Google マップ上のクチコミに対して、店舗運営者から返信できます(オーナー登録が済んでいない場合は、済ませておきましょう)。クチコミの中身としてはTwitterに近く、よい点も悪い点も率直に書かれるので、問題解決の機会が多く得られるはずです。
もしかしたら悪意のあるクチコミがあるかもしれませんが、Googleのポリシーに違反していれば削除を依頼できます。ただし、実際に削除されるかどうかはGoogleの判断次第であること、簡単には削除されない傾向があることから、あまり期待しないほうがよいでしょう。普段からクチコミに対して真摯に対応することで、ファンを増やしていくのが正攻法です。
なお、筆者が見ている限りですが、店舗からの返信が紋切り型だったり、定型文のコピー&ペーストのように感じられるものが多いので、できるだけクチコミの文脈に応じた返信、問題解決につながる返信を心がけることで、ほかの企業や店舗との差別化をはかれます。
飲食:SNSでの予約受け付け
一昔前まで、飲食店の予約は「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」などのグルメサイト経由で行う人が多かったのですが、近年ではGoogle マップで調べ、直接お店に電話をする人が急増しています。
さらに、SNSを活用している店舗は、ダイレクトメッセージで予約を受け付けるところが増えています。飲食業で広く利用されており、かつ、親和性が高いのはInstagramです。Instagramの写真が決定打になり、その店舗に訪れるという行動パターンが一般的になっています。
筆者の知り合いの飲食店も、外出自粛期間中にテイクアウトの販売をはじめましたが、電話だけでなくInstagramでも予約(取り置き)を受け付けることで、大きな売上につながったようです。
予約受け付けという目的では、LINEも選択肢になるでしょう。InstagramやLINEなどの使い慣れたアプリで、メッセージだけで予約できるのは、消費者にとっても大きなメリットです。
アパレル:スマホを使ったコーディネート
アパレルが提供できる価値は、お客さんが求める洋服や、お客さんに似合う洋服の提案です。
必ずしも店舗に足を運んでもらわなくても、スマートフォンでビデオ通話をしながらコーディネートができるはずです。ビデオ通話のツールとしては、LINE公式アカウントでユーザーと無料で通話できる「LINEコール」が最有力でしょう(2020年7月にリリースされた新機能。詳しくは、LINE公式アカウントに無料で通話ができる「LINEコール」機能の概要と設定方法を参照)。
お客さんに自宅のクローゼットの前で手持ちの服を見せてもらえば、それに似合う服を提案できます。プロであれば、いくつかの服とタグを見せてもらうことで、サイズ感もかなり正確に把握できるでしょう。
もしお客さんに購入の意思があれば、ECサイトでの該当商品のURLを案内します。お客さんが質感や手触りを把握したければ、店舗への来店をうながすこともできます。
このようなスマホのビデオ通話による接客は、
- インテリア・内装
- 家具家電の修理・メンテナンス
- パソコン・周辺機器のサポート
などの業種でも活用できるはずです。
最後に
〜個人アカウントではなく店舗アカウントでコミュニケーションを〜
以上、飲食とアパレルを念頭に、デジタル接客の具体例を解説しました。
最後に、個人間のコミュニケーションリスクとその避け方について触れます。
スタッフが個人アカウントで消費者とコミュニケーションをしてしまうと、あらぬリスクが発生する可能性がありますので、あくまで店舗アカウントでコミュニケーションをしましょう。
SNS上の開かれたコミュニケーションであれば、ほかのユーザーの目があるため、スタッフに大きな落ち度がない限り、問題にはなりにくいでしょう。一方、ダイレクトメッセージは閉じたコミュニケーションであるため、何かトラブルが起こらないとは限りません。
店舗アカウントであれば、複数のスタッフが扱うので、ダイレクトメッセージであってもトラブルには発展しにくいといえるからです。
さて、この記事で触れた2つの業態、3つのやり方だけでなく、「デジタル接客」の方法はたくさんあるはず。みなさんの発想の一助になれば幸いです。