政治家や著名人などの相次ぐ暴言問題やパワハラ事件。
これらの問題では、実際の録音データが流出したケースが少なくありません。暴言やパワハラが常態化しており、周りの人が耐えかねて、何かのとき(自己防衛、告発、報復など)のために録音を実行したことは、想像に難くないでしょう。
それでは、令和時代になってから起こった5つの暴言問題を見ていきましょう。
1. 「日本語わかる奴、出せよ!」
(河野太郎 前ワクチン担当兼行政改革担当大臣)
自民党総裁選をひかえた中で、『週刊文春』が明らかにした暴言問題です。2021年8月24日のオンライン会議で、資源エネルギー庁の幹部職員に「日本語わかる奴、出せよ!」という暴言を発したとのこと。パワハラ発言はその後もたびたび続いたそう。
実際の音声が、YouTubeの「文春オンライン」公式チャンネルで公開されています。
【音声】河野太郎大臣パワハラ音声 官僚に怒鳴り声「日本語わかる奴、出せよ」
その後、9月29日に自民党総裁選が行われ、1回目の投票で河野氏は岸田氏と1票差で2位に。2回目の決選投票では岸田氏が257票、河野氏は170票と大差で敗退。
このパワハラ発言が結果に大きく響いたかどうかはわかりませんが、当初は河野氏が圧倒的優勢といわれていただけに、ある程度は影響したかもしれません。
2. 「完全に干すから」
(平井卓也 前デジタル改革担当大臣)
2021年4月上旬の内閣官房IT総合戦略室のオンライン会議で、五輪アプリの事業費削減をめぐって「デジタル庁は(五輪後も)NECには死んでも発注しない」「今回の五輪でぐちぐち言ったら完全に干すから」などと発言。「ちょっと一発、遠藤のおっちゃん(NEC会長)あたりを脅しておいたほうがいいよ」とも。
朝日新聞と週刊文春が録音データを入手したことで、明らかになりました。
実際の音声が、YouTubeの「朝日新聞社」公式チャンネルで公開されています。
「ぐちぐち言ったら干す」「脅しておいて」平井大臣、五輪アプリめぐり、会議で発言
3. 「ホームレスの命はどうでもいい」
(メンタリストDaiGo氏)
2021年8月7日のライブ配信で、「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら、あの、猫を救ってほしいと僕は思うんで」「別にホームレスの命はどうでもいい」「正直。邪魔だしさ、プラスになんないしさ、臭いしさ。ねえ。治安悪くなるしさ、いない方がいいじゃん」といった問題発言を連発。
さらに、8月11日の配信でも同様の発言を繰り返し、8月13日の配信では炎上について触れつつ、引き続き「僕にとってはホームレスはいらない存在」と発言。
これまでTwitterなどでも行っていた自身の高額納税に関する発言や、優性思想につながるような差別的な発言も相まって、世間の耳目を集めることに。
問題発言の書き起こしが以下の記事で読めます。
メンタリストDaiGo「ホームレスの命はどうでもいい」と差別発言。炎上後も「辛口だから」と言い訳
4. 「会社における内部統制は俺じゃ」
(宮地正剛 株式会社Casa代表)
東証一部上場企業、株式会社Casaの宮地正剛社長が社員を罵倒していたことが、『週刊文春』2020年12月3日号の記事と音声公開で明らかに。
その後、現役社員や元社員から告発とともに新たな録音データが続々と編集部に寄せられました。
たとえば、次のようなパワハラ発言が明らかになっています。
- 6月28日、15人ほどの役員会議の場で、「今、この会社における内部統制、判断基準は俺じゃ、ということだ。規定じゃない、俺なんだ。俺がすべてなんだ」と発言
- 7月17日、50人ほどが参加する朝の会議で、四半期決算の説明ができなかった社員に対し、「クソサラリーマンというのは、しょせん他人事だから当事者意識がないし、責任感がない」「上場してるいうても、俺の会社や」と発言
- 9月4日、役員に対して、「お前、預貯金いくらあるんや? 全部出さんかい。それとも何か? 一回俺がくれてやった金、ポケット入ったらもうお前のもんか? 俺が食わしとるん違うんか? なら返さんかい」と発言
- 9月5日、地方の支店長に対して、「おいコラ! お前ぶち殺すぞ、コラ!」と罵倒し、「顧客管理いけんのか! 口もきけんのか、コラ! それこそ集金しかできへんってか? コノヤロー。だから街金くずれ言われるんだろうが」「ポンコツがそもそもアポなんか取れんのかい」と発言
録音データの一部 (複数)が、YouTubeの「文春オンライン」公式チャンネルで公開されています。芝居がかった言い方も含めて、かなり味わい深い印象です。
5. 「頭が固い、死ね」
(笠りつ子 女子プロゴルファー)
2019年10月24日から27日に開催された女子ゴルフツアーのマスターズCGレディース開催期間中のこと。
浴場の脱衣所にバスタオルの設置が突如取りやめられていたことから、笠りつ子選手が従業員に貸し出しを要求。これまでツアー時にバスタオルの紛失が多発したことから、浴場からバスタオルを撤去していた経緯がありました。クラブハウスの副支配人が貸し出しの申し入れを拒否すると、「頭が固い、死ね」などと暴言を吐いたことが明らかに。
このことを、岡本綾子氏が新聞コラムで明らかにし、日本女子プロゴルフ協会が対応。その後、笠選手が報道陣に対し、「すべての大会主催者、運営の皆さま、LPGA、選手、ファンの皆さまに対し、大変ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」と、涙ながらに謝罪。
結果として、笠選手は協会から厳重注意処分を受けました。
番外編
令和だけでなく平成時代も含めて、忘れられない暴言問題を3つほど、番外編として紹介します。
「テープ回してへんやろな」
(岡本昭彦 吉本興業ホールディングス代表)
平成から令和に変わってから2か月弱で飛び込んできたパワハラ問題です。
吉本興業ホールディングスの代表取締役社長である岡本昭彦氏が、6月24日にタレントの宮迫博之氏や田村亮氏が謹慎を告げられた際、岡本氏がスタッフを退出させた上で「お前ら、テープ回してへんやろな」と圧力をかけたとのこと。
さらに、 記者会見を希望する田村亮氏が、岡本社長から「亮、お前ひとりで辞めて会見したらいいわ。全員、連帯責任でクビにする」などといわれたそうです。
岡本氏は発言の一部を認めながらも、「冗談といいますか、和ませるといいますか、そういうことだった」と釈明。
岡本氏の釈明会見の動画(ダイジェスト)は、以下で見られます。
吉本興業・岡本昭彦社長、パワハラ発言は「僕的には冗談で言った」 “全員クビ”発言認め涙の記者会見
「火つけてこい」
(泉房穂 明石市長)
明石市長の泉房穂氏が、道路拡幅工事に伴うビルの立ち退き交渉をめぐって、市職員に「すまんですむか。立ち退きさせてこい、お前らで。今日、火つけてこい。燃やしてしまえ。ふざけんな。今から建物壊してこい。損害賠償を個人で負え。安全対策でしょうが。はよせーよ。誰や、現場の責任者は」などと発言。
2017年6月の市長室での暴言といわれており、2019年1月29日に神戸新聞や全国紙が一斉に報じました。
その後、会話の後半部分では、現場付近で事故が多発し、複数の死者が出ていることを憂慮した上での発言であることがわかり、次第に「擁護論」が増えることに。
実際の音声が、神戸新聞NEXTで聞けます。
泉氏は報道や多数の批判を受けて2月2日に辞職したものの、3月の出直し選挙で他の2候補を大差で破って再戦。引き続き、現在も4期目を務めています。
「このハゲー!」「違うだろーっ!」
(豊田真由子 元衆議院議員)
多くの方がご存知でしょう。平成史に燦然と輝く暴言事件です。
2017年6月22日、当時衆議院議員だった豊田真由子氏が元政策秘書の男性に対し、暴言・暴行を行っていたという記事を『週刊新潮』が発表。元秘書による録音データがYouTubeの「デイリー新潮」で公表されました。
豊田氏による「このハゲー!」「違うだろーっ!」「これ以上、私の評判を下げるな!」「お前はどれだけ私の心を叩いている」などの衝撃的な発言が明らかになり、マスメディアを巻き込む大騒動に。
【週刊新潮】凶暴代議士「豊田真由子」による秘書への“絶叫暴言&暴行傷害”音声
その後、豊田氏は自民党を離党。2017年10月の衆議院議員選挙に無所属で出馬しましたが、落選。
現在は、厚生労働官僚時代に新型インフルエンザの担当外交官を務めた経験から、新型コロナウイルス問題などの感染症に関する専門家・コメンテーターとして活動しています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
もし暴言やパワハラが一度や二度であれば、当事者を録音に踏み切らせることはなかったでしょう。録音データを実際に聞いてみると、冒頭で述べたとおり暴言やパワハラの常態化しているゆえに、やむにやまれず会話を録音をしたと考えられます。
なお、相手の了解を得ない録音(秘密録音)は、法律上は違法とはされません。反社会的な手段で録音した場合などを除いて、秘密録音で収集した音声データは証拠能力があると考えられます。詳しくは、秘密録音と盗聴の違いとは? 違法性や音声データの証拠能力など、気になる点を解説 をお読みください。
泉明石市長のケースのように、全体を聞けば情状酌量の余地がある発言であっても、一部だけが切り取られ、大問題に発展する場合があります。また、ほんの一部であっても不適切な発言であることに変わりありません。
社会的な立場にある人や、管理職など責任ある立場の人は、常に「録音されているかも」と思って、言葉や表現を選ぶ必要がありそうです。