ホーム ハラスメント 裁判所の判例の探し方と、判例で見る「パワハラ」「セクハラ」事例

裁判所の判例の探し方と、判例で見る「パワハラ」「セクハラ」事例

この記事のサマリー

  • 裁判所公式サイトの「裁判例情報」で判例を検索できる
  • パワハラやセクハラを明らかにするために、音声データが重要
  • 判例から学び、ハラスメントの防止や快適な職場環境づくりに活かすことが大切

後を絶たないパワハラセクハラ問題(パワハラと闘う最も有効な手段、音声データで自尊心を守ろう!を参照)。

セクハラはすでに企業が防止措置を講じる義務がありますが(男女雇用機会均等法第11条)、パワハラについては法律で明確に規定されていなかったため、法制化が急務とされていたところ、「パワハラ防止法」が今年5月29日に成立。2020年6月(中小企業では2022年4月)から施行されます。

パワハラ防止法は、正式には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」の改正で、新設される条文などを指します(パワハラ防止法で何がどう変わる? 働く人の尊厳や就労環境を守る手立てとなるのかを参照)。

さて、パワハラやセクハラの判例にはどのようなものがあるのでしょうか。

この記事では、判例の探し方を解説したあと、パワハラやセクハラに関するいくつかの判例を見ていきます。

判例は裁判所の「裁判例情報」で検索できる

まず、裁判所公式サイトにある「裁判例情報」にアクセスしましょう。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1

判例の検索対象として、次の7つのタブが表示されています。

  • 統合検索(すべての判例集が対象)
  • 最高裁判所判例集
  • 高等裁判所判例集
  • 下級裁判所判例集(地方裁判所、簡易裁判所、家庭裁判所など)
  • 行政事件裁判例集
  • 労働事件裁判例集
  • 知的財産裁判例集 

ここでは、統合検索で判例を探してみましょう。

キーワードを横に複数入力すると「OR(または)検索」となります。たとえば「パワハラ」「セクハラ」と入力すれば、「パワハラ」か「セクハラ」のどちらかが含まれる判例がヒットします。

一方、キーワードを縦に複数入力すると「AND(および)検索」となります。たとえば「パワハラ」「録音」と入力すれば、「パワハラ」と「録音」の両方が含まれる判例がヒットします。

検索結果画面では、ヒットした判例が一覧表示されます。

左側の「◯◯判例」というリンクをクリックすると判決の概要が、右側の「全文」をクリックすると判決の全文が書かれたPDFが読めます。

判例は「パワハラ 録音」で3件、「セクハラ 録音」で12件がヒット

裁判例情報で検索した結果、

  • 「パワハラ 録音」(AND検索)で3件(「パワハラ」のみで24件)
  • 「セクハラ 録音」(AND検索)で12件(「セクハラ」のみで80件)

となりました(2019年10月25日現在)。

これらの中から、3つの判例を取り上げてみましょう。

同僚職員からセクハラとパワハラを受けた女性職員

江戸川区内のAという学校の非常勤事務職員だった女性が、同じ学校の同僚である男性職員から、職務中に胸の大きさや年齢を話題にされたり、親睦会で胸を触わられるなどのセクハラを受け、さらに暴言を吐かれたり、私物の歯間ブラシを洗わされたりするなどのパワハラを受けていました。

この女性職員は、医師から適応障害(動悸、倦怠感などに伴う)と診断され、数か月にわたって通院。校長に相談してもすぐには対応がなされなかったので、男性職員に対して苦情を申し入れましたが、反省の色なし。後日、校長室で話し合いの機会がもたれたところ、男性職員は非を認め、女性職員に謝罪しました。しかし、校長は学校側としては何も対応せず、当事者間での解決にゆだねる旨を告げます。

親睦会にも同席していた用務主事の女性に相談していたところ、校長の対応を不満に思ったこの女性の夫が江戸川区教育委員会に通報。その際、実は校長室での話し合いの様子を録音していたため、証拠として録音テープを提出しました。

その後、女性職員は、男性職員からこのような動きを責められたことで体調不良に。職場を事務室から職員室に移動することが認められましたが、充分ではないと考え、東京都、江戸川区、男性職員の三者を相手に提訴

裁判所は、女性職員への合計71万7,630円の損害賠償を認めた(請求額は治療費、慰謝料、弁護士費用の合計551万7,630円)というケースです。

(平成27(ワ)37455 損害賠償請求事件、平成29年9月22日 東京地方裁判所)

社長からセクハラとパワハラを受けた女性社員

京都のとある中小企業で起こったセクハラ事件。正社員で社長秘書として雇用された女性が、社長から性交渉を執拗に要求されたり、体を触られるなどのセクハラ行為を、1年以上にわたって受けていました。

次第に社長からの要求がエスカレート。セクハラに加えて、明らかなパワハラが続き、性交渉に応じないなら会社を辞めろ、という圧力が強くなります。

女性は、辞める半年ほど前から、弁護士にセクハラを受けていることを相談。録音などの方法で証拠を集めることを勧められました。1週間後、社長の泊まりがけの出張に同行する際、ICレコーダーを準備。新幹線車内での社長との会話をICレコーダーで録音します。その後も、事あるごとに会話を録音。これら一連の録音データが、裁判の決定的な証拠となります

驚くのが、被告である社長の言い分です。肉体関係がなかったのにも関わらず、肉体関係があった、愛情の表れだったと裁判で主張したのです。さらに、音声データの男性の声は、被告本人のものではないと主張。何らかの方法で、意図的に被告の音声に近い周波数に変換して作成されたという反論をしたのです。

裁判所での声紋鑑定の結果、音声データの男性の声は、社長と同一人物である可能性が極めて高く、合成や修正、加工された部分はないとされました。被告側は「高調波技術を用いた音声診断」と題する書面を提出し、同一性を否定しようとしますが、裁判所からは認められません。

結果として、女性側の主張がほぼ認められ、被告側の主張が否認される結果に。裁判所は、原告への合計630万円の損害賠償を認めた(請求額は2,292万円)というケースです。

(平成17(ワ)1841 損害賠償請求事件、平成19年4月26日 京都地方裁判所)

学校でのセクハラの疑いや処分に損害賠償を求めた男性教員

鳥取県の国立米子工業高等専門学校(米子高専)で起こったセクハラ(スクールハラスメント)に関する事例です。ある女子学生より、体育教官(48歳)からセクハラの被害を受けたと学校側に投書があったことで事件が発覚

4年間にわたり、水着姿で屈伸運動をさせる、廊下で後ろから抱きすくめられるなどの行為が約6回あり、不快な思いをしていたとのこと。体育の担当教官を変えて、再発防止に努めるように強く要求。

学校側は、体育教官を女子学生のクラスの担当から外し、セクハラ対策委員会を立ち上げて事実関係の調査に乗り出しました。

体育教官は事実関係を否定しつつ、「無意識にやったことで、不快に思われたとしたら、それは否定できない」と証言。対策委員会は「セクハラとして疑う事実は残る」と判断し、口頭での厳重注意処分(セクハラにもとづく処分ではなく、学生指導上の問題という処分)としました。

翌年、地元の新日本海新聞社が、校長らに取材を行った上で、朝刊にこのような経緯を記事として掲載。内容や表現に不満を抱いた校長が新聞社に抗議し、全校集会で新聞記事について言及。耳目を集めることとなり、体育教官はその年度末に退職することに。

と、これで事態が収束するかと思いきや、そうではありません。

体育教官は、学校側の一連の対応は、自身の社会的評価を著しく低下させ、名誉を毀損する不法行為であるとして、損害賠償を求めたのです

主に、

  • 投書をしたとおぼしき学生は、素行不良ですでに他校に転校した女子学生であり(この点は事実誤認。後述参照)、生活指導の一貫でいさかいがあったこと
  • そのことから自分に報復するために嘘の投書をしたためたこと
  • 校長に投書した学生は誰か、どのような内容かを聞いても説明がなかったこと
  • 女子学生の体育クラスの担当から、本人の了承なく外したこと
  • セクハラ調査委員会は、自分に投書の内容を知らされず、さらに不在のまま行われたこと
  • 新聞記事に関する新聞社への校長の抗議や対応が不十分であったこと
  • 厳重注意処分を受けるに至ったが、調査によってセクハラの事実は認定できないにも関わらず、投書があった責任をとれ、ということと同義であること

といった点が主張されました。

また、厳重注意処分がなされたあとの教官(教員)会議で、校長は「体育教官にセクハラ行為があり、その教官を厳重注意処分とした」と報告。これは、80名以上の出席者の大半がその体育教官と特定できる表現であり、厳重注意処分の理由とは異なると主張。

教官会議後に校長が「平成13年度を振り返って」という校長談話の中でもこの処分について取り上げ、会議の議事録に添付する体裁にしました。この校長談話のコピーが新聞社に投書されたことが、新日本海新聞社の新聞記事につながっているようです。体育教官はこの点も争点にしましたが、校長談話の内容は録音したテープと同一であり、体育教官がセクハラ行為をしたと断定したものではないとされ、違法性を否認されます

なお、学校への投書は、実は転校した女子学生ではなく、別の2人の女子学生から匿名でなされたそうです。そこには、すでに触れたもののほかにも、教育や生活指導の域を明らかに超えた、セクハラと思われても仕方のない行為が複数書かれていました。

結論として、セクハラ対策委員会や教官会議の経緯に大きな問題はなく、校長からの厳重注意処分の手続きなどは適法になされたこと、セクハラ行為の多くが認定されたことから、体育教官の訴えは棄却されました。

(平成14(ワ)201 国家賠償等請求事件、平成16年4月20日 鳥取地方裁判所)

まとめ

判例から、パワハラやセクハラの存在を明らかにしたり、発言内容を裏づけたりする証拠として、音声データが極めて重要であることがわかります。

働き方改革や女性の社会進出の点からも、企業はもちろん、公共団体や教育機関などあらゆる組織で、ハラスメントの防止に向けた取り組みが急務です。

2020年6月からの「パワハラ防止法」の施行に向けて、ハラスメント防止のために体制を整備する際は、法律的な要件だけを満たせばよいわけではありません。

過去の判例から学び、ハラスメントを未然に防ぐための具体策に活かすこと、快適な労働環境を保つためにできる工夫を見出すことが大切です。

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