内部告発やその後の裁判などで、録音データが活用されるケースが増えています。不正摘発はもとより、パワハラやセクハラの自衛手段として、「録音」という行為は当たり前になっている感すらあります。
内部告発とは、企業の社員や団体の職員などの関係者が、内部で行われている不正や違法行為を告発することをいいます。告発先は労働基準監督署などの公的機関、マスコミ、市民団体などが多い一方、企業によっては内部告発を受け付ける窓口やコンプライアンス窓口を設けているところもあり、それらへの相談によって事実が明るみになるケースも増えています。
それでは、令和時代に入ってから起こった5つの内部告発事件を見ていきましょう。
1. 日本郵便の恫喝事件
「どんなことがあっても、仲間を売ったらあかん」
福岡県の小さな郵便局で、ICレコーダーで録音した音声データから発覚した事件です。
旧特定郵便局長(現エリアマネジメント局長)として、九州地区でナンバー2の座にあった人物が、配下の局長に対して、
「どんなことがあっても、仲間を売ったらあかん。これ、特定局長の鉄則」
「会社はダメちゅうけど、犯人を捜す」
「(通報)してないな? 約束できるな? (名前が)あったらおれんぞ」
といった恫喝を行ったとのこと。
同じ地区内で郵便局長を務める息子の不祥事(内規違反)について、日本郵便の内部通報窓口に知らせた「犯人」を探そうと、他の局長に対して恫喝を行ったようです。
参考:「仲間を売ったらあかん。絶対に潰す」内部告発に幹部が激怒…日本郵便“恫喝事件”の呆れた内幕
その後、6人の通報者を含む計7人の郵便局長が2019年秋、旧特定郵便局長と複数の幹部局長を相手取り、精神的苦痛を受けたとして、損害賠償を求める訴訟を起こし、福岡県警も同時期から捜査を開始。
強要未遂罪の疑いで旧特定郵便局長を福岡地検に書類送検、在宅起訴に。訴訟は現在も福岡地裁で続いており、被告となった元副主幹統括局長側は、請求棄却を求めて争っています。
2. 自衛隊のパワハラ事件
「お前の骨。一本一本折ったろか?」
2018年から沖縄の航空自衛隊の基地に勤務していた元自衛官の男性が、当時の上司からひどいパワハラを受けていたことが明らかに。
「落とし前つけろって。つけるのか、つけんのか。どっちや!!」
「死ねや。殺したる。鼻の骨も頭蓋骨も折るよ」
「お前の骨。一本一本折ったろか? 全部」
など、40分間にわたり延々と暴言を受けたそうです。
ほかにも、男性が「髪の毛をわしづかみにされて頭を振り回されたり、お前のアゴはなんだ、という理由でアゴを殴られたり。6、7回ほどですね」と答えているとおり、暴力をともなうパワハラが常態化していたとのこと。
実際の録音データと男性へのインタビュー、上官への取材などが、YouTubeの「TBS NEWS」で公開されています。
参考:【独自】「お前の骨。一本一本折ったろか?」自衛隊パワハラ 壮絶な音声入手【調査報道23時】
男性は、自殺を考えたり、「上司を殺して、自分も死のう」と何十回も思ったそうです。
別の上官に相談しても、男性本人に退職を迫ったり、「反抗的な態度は取りません」という文書へのサインまで迫られたりしました。
結果として、男性は2021年3月に退職することになりましたが、自衛隊内部での調査や処分は行われていないようです。
3. 高齢者グループホームでの虐待事件
「ぶん殴るよ。うるさいんだから」
東京都江戸川区の認知症高齢者向けグループホームで行われていた虐待事件です。
施設の複数の職員が、高齢者への虐待を問題視し、2020年秋に週刊朝日に録音データを提供、内部告発をしたことで、事件が発覚しました。
録音データには、職員の
「ぶん殴るよ。うるさいんだから」
「水かけるよ、そんなこと言ってると」
「騒がなくていいから……ばーか」
「今度は……ビンタじゃ済まないからな」
といった暴言が残されています。
高齢者約20人が生活するこの施設で、コロナ禍の3~7月に少なくとも3人がけがをし、5月下旬には90代の女性利用者が救急搬送され、大腿骨の骨折と診断され入院したとのこと。ほかにも複数の利用者の不自然なケガが報告されています。
参考:コロナ禍“密室”の高齢者虐待 録音記録に職員が「ぶん殴るよ」
4. 新潟のドン・星野県会議員の裏金要求
「2000万や3000万出すのにもったいながったら人生終わるよ?」
自民党の泉田裕彦衆院議員が、新潟のドンといわれる星野伊佐夫新潟県議から、衆議院議員選挙をひかえた2021年9月に裏金を要求されたと告発。
録音データには、星野議員と目される人物から、
「ここに2000万や3000万出すのにもったいながったら人生終わるよ?」
「だーれにも言っちゃならないこれはこの話は」
「裏はみんなそういう世界なんだから」
といった言葉が。
星野議員は発言を否定するなど、両者の意見は平行線に。しかし、12月20日に新潟県連に離党届を提出。県連は、第三者の弁護士による両氏からの意見聴取を行い、星野氏の離党届を受理するかどうかなどの処遇を年内に判断するとしています。
参考:【独自】泉田議員「裏金要求」音声データ入手…「2000~3000万出すのにもったいながったら人生終わるよ?」主なやりとり
5. りらいあ社のコールセンターで顧客との会話データの改ざん・捏造、高齢者への強引な電話勧誘が発覚
東京電力からコールセンター業務を委託されている「りらいあコミュニケーションズ」が、家庭向けに販売する電気・ガスの電話勧誘について、顧客との会話を改ざん・捏造していたことが、2021年6月11日に朝日新聞に掲載されたスクープ記事で発覚しました。
りらいあ社の鹿児島市にあるコールセンターで不正が行われていたことが、2021年1月の内部告発ですでに把握されていたそうです。改ざん・捏造の目的は、顧客の了解なく、勝手に契約を切り替えたことなどを隠すことでした。
参考:東京電力、高齢者への強引な電話勧誘、承諾なく契約切り替え…委託先が音声改ざん
りらいあ社は、東京電力から委託を受けたが契約件数が伸び悩むなか、「奪回」と呼ばれる部署では営業目標を達成しようと、現場管理者の指示のもと、夜遅くの電話や高齢者への強引な勧誘が行われ、消費者生活センターなどへの相談が増えていたそうです。
朝日新聞の報道を受け、りらいあ社は6月11日、緊急会見を開き、顧客との会話記録を改ざんしていたことを認め、現場管理者の処分を発表するに至りました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
内部告発者を守る法律は、2006年に施行された「公益通報者保護法」ですが、内部告発の対象となった相手側からの報復行為に対する罰則はありません。
このことが、内部告発者に対する企業や組織内での冷遇や、不当に懲罰対象とされることにつながっているため、内部告発者を萎縮させてしまう恐れがあります。
2018年6月に導入された司法取引制度によって、犯罪行為の共犯者などが事件解明に役立つ情報を提供すれば、不起訴になったり、求刑が軽くなったりする可能性があります。しかし、規模の小さい犯罪に適用するのはむずかしいこと、被害を一方的に受けている人、それを告発したい人を守る制度ではないことから、一般的な不正摘発やパワハラ事件に直接は関係しないと見るべきでしょう。
なお、内部告発に類する話題として、暴言事件について扱った 令和の「暴言事件簿」5選。録音に気をつけて発言するのが当たり前の時代に! も、あわせてお読みください。