ホーム ハラスメント 家庭内の高齢者虐待。認知症、介護疲れ、介護ストレスが大きな原因に。深刻度が高い傾向あり

家庭内の高齢者虐待。認知症、介護疲れ、介護ストレスが大きな原因に。深刻度が高い傾向あり

この記事のサマリー

  • 高齢者の認知症や、家族の介護疲れや介護ストレスが虐待の原因に
  • 高齢者の要介護度が高いほど、虐待の深刻度が高い傾向がある
  • 虐待は息子、夫、娘、妻の順で多い。他の家族・親族もサポートを

目次

先日の 介護スタッフによる高齢者への暴言や暴力。コロナ禍で増えた高齢者虐待の実態に迫る という記事では、介護スタッフ(養介護施設従事者等)から高齢者への虐待について解説しました。

今回は続編として、養護者(家族や親族、同居人など、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外の者)による高齢者虐待の実態を取り上げます。

高齢者虐待防止法における高齢者虐待の定義

2006年(平成18年)4月に施行された高齢者虐待防止法(正式名称「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」)では、養護者による高齢者虐待として、次の5つが定義されています(第2条第4項)。なお、高齢者とは65歳以上の方を指します。

  1. 身体的虐待
    高齢者の身体に外傷(ケガ)が生じたり、生じるおそれのある暴行を加えたりすること
  2. 介護や世話の放棄・放任(ネグレクト)
    高齢者を衰弱させるような著しい減食や長時間の放置など、高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
  3. 心理的虐待
    高齢者に対する著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
  4. 性的虐待
    高齢者にわいせつな行為をすることや、高齢者にわいせつな行為をさせること
  5. 経済的虐待
    高齢者の財産を不当に処分することなど、高齢者から不当に財産上の利益を得ること

この中でも圧倒的に発生件数が多いのが、介護スタッフからの虐待と同様に、身体的虐待、次いで心理的虐待とされます。

以下、厚生労働省の調査結果を元に、養護者による高齢者虐待の実態を見ていきましょう。

出典:厚生労働省「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」(PDF)

養護者による虐待の通報・相談件数は、
介護スタッフによる虐待の約15.2倍

厚生労働省の実態調査によると、2021年(令和3年)度の養護者による高齢者虐待は、相談・通報件数が36,378件(令和2年度の相談・通報のうち、令和3年度中に事実確認を行ったものを含めた場合は37,382件)、そのうち虐待判断件数は16,426件でした。

相談・通報件数は前年度比1.4%で、平成24年度からずっと増加傾向にある一方、虐待判断件数は前年度比-4.9%であり、ほぼ横ばいの状況が続いています。

介護スタッフによる虐待の相談・通報件数が2,390件であることと比べると、養護者による虐待の36,378件は約15.2倍です。家庭内の高齢者虐待がいかに多いかが、この数字からも明らかです。

なお、相談・通報の受理から事実確認開始までの期間の中央値は0日(即日)であり、相談・通報の受理から虐待判断までの中央値は2日ということで、行政が速やかに対応していることがわかります(介護スタッフによる虐待では、受理から事実確認開始までの期間の中央値は4.5日、受理から虐待判断までの期間の中央値は35日)。

相談・通報者38,850人(1件に対して複数の者からの相談・通報を含むため、相談・通報件数よりも多い)の内訳は、「警察」が12,695人(32.7%)で最も多く、次いで「介護支援専門員」が9,681人(24.9%)、「家族・親族」が3,095人(8.0%)でした。

虐待の発生要因(複数回答可)としては、

  • 被虐待者の「認知症の症状」 9,038 件(55.0%)
  • 虐待者の「介護疲れ・介護ストレス」 8,615 件(52.4%)
  • 虐待者の「精神状態が安定していない」 7,993 件(48.7%)
  • 被虐待者との虐待発生までの人間関係 7,776 件(47.3%)

となっています。

このように、被虐待者(高齢者)の「認知症」が引き金になっているケースが多いこと、さらに虐待者(養護者)の介護疲れや介護ストレス、精神の不安定さが重なり、虐待という不幸な事態にまでいたってしまったことがわかります。

また、被虐待者との虐待発生までの人間関係の割合も、決して少なくありません。いわゆる「積年の恨み」、あるいは「負の連鎖」のごとく、養護者が高齢者から暴力を振るわれて育ってきた場合に、高齢者の心身機能の低下とともに力関係が逆転し、高齢者への恨みが虐待となって表れるケースもあるとの指摘があります。

身体的・心理的虐待やネグレクトだけでなく、
経済的虐待も多い

養護者による虐待の種別(複数回答可)では、身体的虐待が11,310人(67.3%)で最も多く、次いで心理的虐待が 6,638 人(39.5%)、介護等放棄が 3,225 人(19.2%)、経済的虐待が 2,399 人(14.3%)となっています。

介護スタッフによる虐待(下図)と比較すると、経済的虐待が非常に多く、性的虐待は極めて少ないことがわかります。家族や親族として、家計を同一にしていたり、金銭面の管理を担っているからこそ、経済的虐待につながりやすいことが推測できます。

【参考】介護スタッフによる高齢者虐待の虐待の種別

養護者による虐待は深刻度が高く、
最悪の場合、死に至らしめることも

養護者による虐待の程度(深刻度)はどうでしょうか。1(軽度)が5,052人(39.1%)と最も多く、次いで2(中度)が4,497人(34.8%)、3(重度)が2,473人(19.2%)、4(最重度)が883人(6.8%)となっています。

こちらも介護スタッフによる虐待(下図)と比較すると、まさに「深刻」な状況が見えてきます。介護スタッフによる虐待では、施設等種別によって差があるとはいえ、3(重度)は9.2%〜14.6%、4(最重度)は1.1%〜3.4%となっています。一方、養護者による虐待では、3(重度)が19.2%、4(最重度)が6.8%です。

つまり、家庭内の高齢者虐待のほうが、深刻な事態に至りやすいといえるのです。

【参考】介護スタッフによる高齢者虐待の虐待等種別と虐待の程度(深刻度)の関係

また、要介護度(1から5までの5段階)が重ければ重いほど、虐待の程度(深刻度)が高くなる傾向が見られました。
高齢者の抵抗力や判断力が衰えるほど、重度の虐待につながりやすいといえます。

要支援には1から2までの2段階、要介護度には1から5までの5段階があります。

  • 要支援1
    基本的に一人で生活ができるが家事などの支援が必要。
    適切なサポートがあれば、要介護状態になることを防ぐことができる。
  • 要支援2
    基本的に一人で生活ができるが、要支援1と比べ、支援を必要とする範囲が広い。
    適切なサポートがあれば、要介護状態になることを防ぐことができる。
  • 要介護1
    基本的に日常生活は自分で送れるものの、要支援2よりも身体能力や思考力の低下がみられ、日常的に介助を必要とする。
  • 要介護2
    食事、排泄などは自分でできるものの生活全般で見守りや介助が必要。
  • 要介護3
    日常生活にほぼ全面的な介助が必要。
  • 要介護4
    自力での移動ができないなど、介助がなければ日常生活を送ることができない。
  • 要介護5
    介助なしに日常生活を送ることができない。コミュニケーションをとるこが困難で、基本的に寝たきりの状態。

このように、高齢者の要介護度が高いほど、養護者の肉体的な負担や心理的なストレスが大きくなると考えてよいでしょう。相手が抵抗できないことに加え、コミュニケーションがうまく図れないことも大きなフラストレーションになり、虐待にまで至ってしまうケースが多いと考えられます。

令和3年度の高齢者が死亡に至ったケースは37件。
コロナ禍の影響で増加傾向に

養護者による虐待で、被養護者(高齢者)が死亡に至った事例(令和3年度中に発生、市町村把握)は、

  • 養護者による被養護者の殺人 13件13人
  • 養護者のネグレクトによる被養護者の致死 9件9人
  • 養護者の虐待(ネグレクトを除く)による被養護者の致死 4件4人
  • 心中(養護者、被養護者とも死亡) 2件2人
  • その他 6件6人
  • 不明 3件3人

で、合計37件37人でした。

2019年(令和元年)度には前年度の21件21人から15件15人に減少した死亡例が、2020年(令和2年)度には25件25人、さらに2021年(令和3年)度には37件37人と増加しています。これは、2020年2月ごろから始まったコロナ禍での生活様式の変化によって、介護の孤独感などが増したことが原因のひとつと考えられます。

虐待は息子と夫で過半数。次いで、実の娘。
嫁や婿の割合は少ない

虐待者の続柄としては、息子が38.9%、夫が22.8%で、男性が過半数を占めています。次いで、娘が19.0%、妻が7.0%、孫が3.1%と続きます。元々は他人であった息子の配偶者(嫁)は2.7%、娘の配偶者(婿)は1.0%と割合は少ない結果となっています。

先日の記事では、このデータに対して、

前述のとおり、「男性の介護スタッフのほうが虐待を行いがち」という点と合わせて考えると、女性に比べて男性が強く持つ「攻撃性」という性質が浮かび上がってきます。ジェンダーレスな社会が進む一方で、このような「性差」についても実態を把握し、何らかの解決策を見出す必要があると考えます。たとえば、介護施設の男性スタッフにはこれまで以上に教育を徹底する、在宅で親族の介護をしている男性への行政サポートを手厚くするなどです。

と書きました。

実際に、被虐待高齢者の介護保険サービス(訪問介護など)の利用状況と虐待の程度(深刻度)の関係では、介護保険サービスを「受けている」ほうが「受けていない」よりも虐待の程度が低い傾向があります。

このデータで興味深いのは、「過去に受けていたが虐待判断時点では受けていない」(26.8%)の3(重度)の割合が、他と比べて多い点です。また、4(最重度)の割合も、「過去も含めて受けていない」と1.2ポイントしか差がありません。これは、介護保険サービスを受けなくなったことで、むしろ養護者が負担やストレスを強く感じるようになったといえそうです。

この点からも、特に男性(息子や夫)が介護をしている場合に、介護保険サービスをいっそう利用しやすくなる制度を整えるなど、何らかの手立てが必要だと考えます。

まとめ

以上、養護者からの高齢者虐待の実態を取り上げました。

先日の記事の冒頭にも書いたとおり、2025年には団塊の世代である約800万人が後期高齢者(75歳以上)になるといわれており、これまでは介護と無縁でいた人も、両親や親類の介護に関わる人が急速に増えていくでしょう。

上記の厚生労働省の実態調査から、家庭内での高齢者の介護は、

  • 要介護度(1から5までの5段階)が重ければ重いほど、虐待の程度(深刻度)が高くなるので、養護者がひとりで抱え込まないように、他の家族・親族も介護に関わるようにする
  • 男性(息子や夫)や実の娘は虐待にまで至ってしまう可能性が高いので、他の家族・親族も介護に関わるようにする
  • 介護保険サービス(訪問介護など)を利用することで、養護者の負担やストレスを軽くする

といった点に気をつけると、虐待の可能性を低くできるといえます。

この記事が、いま家庭内で介護に関わっている方だけでなく、将来的に配偶者や両親などご家族の介護に関わる可能性がある方の参考になれば幸いです。

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