ホーム ハラスメント 介護スタッフによる高齢者への暴言や暴力。コロナ禍で増えた高齢者虐待の実態に迫る

介護スタッフによる高齢者への暴言や暴力。コロナ禍で増えた高齢者虐待の実態に迫る

この記事のサマリー

  • 虐待の増加には、コロナ禍が影響している可能性も
  • 身体的虐待が最多だが、心理的虐待は顕在化していないケースも多い
  • 介護従事者の割合は女性が圧倒的に多いのに、虐待の半数以上が男性によるもの

目次

2025年には、団塊の世代である約800万人が後期高齢者(75歳以上)になるといわれています。これまでは介護と無縁でいた人も、両親や親類の介護に関わる人が急速に増えていくでしょう。

先日の 介護現場のハラスメントは身体的暴力、精神的暴力、セクハラの3つ。どのように対策すべきか? という記事では、サービス利用者(高齢者など)から介護スタッフへのハラスメントについて解説しました。

今回は、介護スタッフ(職員や管理者)からサービス利用者(高齢者など)への暴言や暴力の実態について取り上げます。

高齢者虐待防止法における高齢者虐待の定義

2006年(平成18年)4月に施行された高齢者虐待防止法(正式名称「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」)では、介護スタッフ(養介護施設従事者等)による高齢者虐待として、次の5つが定義されています(第2条第5項)。なお、高齢者とは65歳以上の方を指します。

  1. 身体的虐待
    高齢者の身体に外傷(ケガ)が生じたり、生じるおそれのある暴行を加えたりすること
  2. 介護や世話の放棄(ネグレクト)
    高齢者を衰弱させるような著しい減食や長時間の放置など、高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
  3. 心理的虐待
    高齢者に対する著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
  4. 性的虐待
    高齢者にわいせつな行為をすることや、高齢者にわいせつな行為をさせること
  5. 経済的虐待
    高齢者の財産を不当に処分することなど、高齢者から不当に財産上の利益を得ること

この中でも圧倒的に発生件数が多いのが身体的虐待、次いで心理的虐待とされます。

以下、厚生労働省の調査結果を元に、介護スタッフによる高齢者虐待の実態を見ていきましょう。

出典:厚生労働省「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」(PDF)

相談・通報件数と虐待判断件数が大幅に増加

厚生労働省の実態調査によると、2021年(令和3年)度の介護スタッフによる高齢者虐待は、相談・通報件数が2,390件(前年度比14.0%)、虐待判断件数が739件(前年度比24.2%)です。どちらも前年度と比べて大幅に増加していることがわかります。

なお、虐待の発生要因(複数回答可)としては、

  • 教育・知識・介護技術等に関する問題 415 件(56.2%)
  • 職員のストレスや感情コントロールの問題 169 件(22.9%)
  • 虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等 159 件(21.5%)
  • 倫理観や理念の欠如 94 件(12.7%)
  • 人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ 71件(9.6%)
  • 虐待を行った職員の性格や資質の問題 55件(7.4%)
  • その他 19件(2.6%)

となっています。

発生要因とコロナ禍の関係はどうでしょうか。この点、厚生労働省の調査では明記されていませんが、別の考察として、

  • 外部との交流が減り、ストレスや介護疲れが重なったことが影響した可能性もある
  • 家族の面会が制限されるなど、施設の中の様子が家族や外部から見えづらい状況が続き、人目のない環境が広がっていること

といった意見があることを指摘しておきます。

身体的虐待が最多、次いで心理的虐待が多い

虐待の種別(複数回答可)については、身体的虐待が703人(51.5%)で最も多く、次いで心理的虐待が521人(38.1%)、介護等放棄が327 人(23.9%)となっています。

身体的虐待は、たとえば不自然な傷やアザなどから発覚するケースが多いようです。一方、心理的虐待は、高齢者が認知症を患っている場合などで、介護スタッフによる相当失礼な言い方やぞんざいな扱いに気づかないケースや、すぐに忘れてしまうケースがあります。したがって、心理的虐待は、潜在的にはもっと数が多く、割合が高いのでないでしょうか。

介護等放棄については、

  • 入所系施設における高齢者の「要介護度」が重度になるほど、割合が高い
  • 入所系施設における高齢者の「日常生活自立度(寝たきり度)」が低くなる(身体機能が低下する)ほど、割合が高い

という傾向がありました。

つまり、体が不自由で介護スタッフへの依存度が高い高齢者ほど、介護等放棄の被害に遭いやすいといえます。

特に地方では高齢者の人数や割合に対して施設の数が少なく、利用者側が精査して施設を決めることが難しい場合があります。

  • 家族が遠方に住んでおり、施設の内情を知らずに認知症の家族を入所させた
  • 家族が遠方に住んでおり、利用者が虐待を受けていることに気づきにくい
  • 身体に不自由な部分があるため、「日々の入浴介助のため」と我慢してデイケアへ通っている

といった話も耳にしたこともあります。

小さな町ほど「あそこの施設のスタッフは乱暴らしい」「認知症になったとしてもあそこには入りたくない」という口コミや噂が広まりやすいものですが、ほかに十分な選択肢がなければ悪い環境が淘汰されず、サービス改善も行われない状態が続いてしまう、という問題があります。

女性よりも男性スタッフのほうが虐待を行いがち

虐待者の性別については、男性が504人(52.2%)、女性が436人(45.2%)です。

介護従事者全体(介護労働実態調査)に占める男性の割合が18.8%であるのに対し、虐待者に占める男性の割合が52.2%であることから、虐待者は相対的に男性の割合が高いといえます。

まとめ

以上、介護スタッフから高齢者などサービス利用者への暴言や暴力の実態を取り上げました。

今回は触れませんでしたが、家族・親族内での介護(たとえば「夫が妻を」「妻が夫を」「子どもが親を」など。調査では「養護者」)で起こった虐待についても、上掲の調査の対象となっています。虐待が顕在化しにくいこと、いわゆる「介護疲れ」などから殺人事件など悲惨な結末に至りやすいことが、家庭内での介護です。

虐待者の続柄としては、息子が38.9%、夫が22.8%で、男性が過半数を占めています。

前述のとおり、「男性の介護スタッフのほうが虐待を行いがち」という点と合わせて考えると、女性に比べて男性が強く持つ「攻撃性」という性質が浮かび上がってきます。ジェンダーレスな社会が進む一方で、このような「性差」についても実態を把握し、何らかの解決策を見出す必要があると考えます。たとえば、介護施設の男性スタッフにはこれまで以上に教育を徹底する、在宅で親族の介護をしている男性への行政サポートを手厚くするなどです。

自分が介護の当事者になったときに、虐待という行為に至らないため、また、両親への介護サービスを依頼する際に、その施設の評判などを判断するひとつの材料として、この記事が役立てば幸いです。

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