みなさんは、職場でどのくらいの人が、どのようなハラスメントを受けているか、ご存知でしょうか?
2021年3月に、令和2年度(2020年度)の厚生労働省委託事業として「職場のハラスメントに関する実態調査 報告書」が東京海上日動コンサルティングから発表されました。企業調査では6,426社(回答数)、労働者等調査では一般サンプル8,000人、特別サンプル2,500人の大規模な調査で、現代のハラスメントの実態に迫った有意義なデータを提供しています。
参考・画像出典:令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)(PDF)
この報告書では、企業調査と労働者等調査の2つが扱われています。それぞれの注目ポイントについて、以下で詳しく解説します。
企業調査の注目ポイント
企業調査のうち、注目ポイントを4つ見ていきましょう。
1. 過去3年間のハラスメント相談件数の傾向
相談件数として、パワハラは微減(増9.2%、減9.9%)、セクハラは大幅減(増3.0%、減8.8%)に対し、顧客等からの著しい迷惑行為は増加傾向(増3.0%、減2.2%)にあります。
なお、都道府県労働局など全国379か所設置されている総合労働相談コーナーに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は、令和元年度まで年々増加しています(厚生労働省「個別労働紛争解決制度施行状況」より)。
このグラフは令和元年度までのデータですが、令和2年度の相談件数は79,190件に減少しています(令和元年度は87,570件)。
上記2つのデータから、令和2年(2020年)6月に施行された「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」と、それに関する啓蒙活動や企業の取り組みに一定の効果があったことが推察できます。
2. 過去3年間のハラスメント該当件数の傾向
該当件数については、同様にパワハラが減(増11.4%、減18.4%)、セクハラが大幅減(増8.1%、減25.3%)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントが大幅減(増5.4%、減18.4%)、介護休業等ハラスメントが大幅減(増0.0%、減5.7%)、就活等セクハラが大幅減(増6.1%、減24.2%)となっています。
このように職場内でのパワハラやセクハラが減少したのは、前述のとおり「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」の効果と考えられます。
一方、顧客等からの著しい迷惑行為は、相談件数と同じく増加傾向(増19.4%、減12.1%)です。内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返す等の過度なクレーム」が59.5%と大半です。
3. 顧客等からの著しい迷惑行為に関する取り組み状況
増加傾向にある「顧客等からの著しい迷惑行為」について、少し深堀りしてみましょう。企業が行っている取り組みに関するデータがこちらです。
従業員数が多い企業ほど、取り組みに積極的であることが読み取れます。特に、相談体制の整備、メンタルケア、マニュアルの作成や研修の実施に取り組んでいる企業が多いようです。
しかし、「特にない」と答えた企業がもっとも多く(全体で57.3%)、B2C企業(医療・福祉、宿泊・飲食、娯楽業など)よりも、B2B企業(製造、建設、運輸業など)のほうが取り組みに消極的なようです。
接客をともなわない業種では無理からぬところですが、従業員も普段の生活の中で、ひとりの顧客としてさまざまな店舗や企業を利用しているはずです。B2B企業であっても、従業員教育などを通じて、自分が「よき顧客」であるように啓蒙することが、社会全体にとって有益と考えます。
なお、カスタマーハラスメントについては、過去記事 お客「役立たずなバカが! トップを呼べ!」……カスハラ客から従業員を守る理由と方法 で、別の実態調査や事例を詳しく解説していますので、ご参照ください。
4. ハラスメントの取り組みを進めたことによる副次的効果
企業のハラスメント対策による副次的効果としては、
- 職場のコミュニケーションが活性化する /風通しが良くなる(全体で35.9%)
- 管理職の意識の変化によって職場環境が変わる(全体で32.4%)
- 会社への信頼感が高まる(全体で31.9%)
- 管理職が適切なマネジメントができるようになる(全体で22.0%)
- 従業員の仕事への意欲が高まる(全体で21.0%)
- 休職者・離職者が減少する(全体で20.4%)
- メンタルヘルス不調者が減少する(全体で18.2%)
など、従業員の働きやすさや生産性向上に関するメリットを感じている企業が多いようです。
今後もハラスメント対策がいっそう進むことで、このようなメリットを享受する企業が増えることを望みます。
労働者等調査の注目ポイント
労働者等調査についても、注目ポイントを4つ見ていきます。
1. 過去3年間にハラスメントを受けた経験
過去3年間にハラスメントを受けた経験としては、パワハラが31.4%、セクハラが10.2%、顧客等からの著しい迷惑行為が15.0%となっています。
セクハラについて、企業側で把握している相談件数や該当件数は大幅減であるものの、1割以上が過去3年間で一度以上経験していることが驚きです。内容としては「性的な冗談やからかい」(49.8%)、 「不必要な身体への接触」(22.7%)の順で高かったようです。
パワハラもセクハラも、それをした側には「そんなつもりはなかった」というケースが多いでしょう。つまり、ハラスメントに対する意識や認識の差が、パワハラやセクハラを生む温床になっていると考えられます。
2. 勤務先によるパワハラ・セクハラの認定
勤務先によるハラスメントの認定については、「ハラスメントがあったともなかったとも判断せずあいまいなままだった」(パワハラ 59.3%、セクハラ 40.2%)の割合がもっとも高かったようです。
日本的な「事なかれ主義」ともいえますが、そもそもハラスメント対策としてガイドラインや罰則規定を設けていなければ、暴行などをともなった場合や心身に不調を来たした場合を除いては、当事者同士の心の中で解決するしかないのが実情でしょう。
なお、ハラスメント認定後の勤務先の対応としては、パワハラでは「行為者に謝罪させた」(28.5%)、「何もしなかった」(22.3%)が高く、セクハラでは「会社として謝罪をした」(32.4%)、「行為者に謝罪させた」(27.0%)が高かったという結果になっています。
3. 妊娠・出産等に関する否定的な言動を受けた経験
過去5年間に妊娠・出産等に関する否定的な言動(いわゆるプレマタハラ)を経験したと回答した人は17.1%でした。
否定的な言動を行った人は、上司(役員以外)(60.8%)の割合がもっとも高く、会社の幹部(役員)(29.2%)、同僚(22.2%)が続きました。
なお、女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントは26.3%、男性の育児休業等ハラスメントは26.2%の割合でした。おおむね、約4人に1人が何らかのマタニティハラスメントを経験していることになります。
少子化が叫ばれて久しい中、政府や行政機関が妊娠・出産などに関する制度的なケアを充実させる一方で、国民の意識がまだ追いついていないといえそうです。
マタニティハラスメントは、旧態依然とした価値観の押し付けであるだけでなく、各制度の役割や理由を理解していないことにも一因があります。特に、ハラスメントの行為者である可能性が高い、役員や管理職に対する啓蒙の必要性を実感するデータです。
4. 就活等セクハラの内容
就活等セクハラを経験したと回答した人は25.5%でした。内容としては、「性的な冗談やからかい」(40.4%)の割合がもっとも高く、 「食事やデートへの執拗な誘い」(27.5%)、「性的な事実関係に関する質問」(26.3%)が続きました。
また、就活等セクハラを受けた場面としては、「インターンシップに参加したとき」(34.1%)や「企業説明会やセミナーに参加したとき」(27.8%)が高く、就活等セクハラの行為者としては、「インターンシップで知り合った従業員」(32.9%)、「採用面接担当者」(25.5%)、「企業説明会の担当者」(24.7%)の順で高かったようです。
上記から、特に従業員と学生が一定期間ともに働くインターンシップに、セクハラを生む可能性が潜んでいることがわかります。したがって、インターンシップを受け入れている企業では、ハラスメント防止のための従業員教育が、よりいっそう必要であることを示唆しています。
なお、就活等セクハラについては、過去記事 何気ない雑談の中にNGワードが? 4人に1人が「就活ハラスメント」を受けている実態 でまとめていますので、参考にしてみてください。
まとめ
今回の調査では、職場でのハラスメントは全体として減少傾向にあることがわかりました。
ただし、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)は増加傾向であり、それらに対する企業の取り組みが遅れていることは明らかです。
また、学生がインターンシップや就活時に受けたハラスメントによって、その企業に入社したいという気持ちを損ねてしまったり、その企業に対するイメージが悪いままで社会人になったりと、企業ブランディングの面でもマイナスの影響があることを認識すべきです。
このような実態調査を通じて、適切なハラスメント対策に乗り出す企業が増えること、副次的効果を多くの企業が実感し、従業員の働きやすさや生産性向上につながることを願っています。