ホーム ハラスメント 男性が受けた「パタハラ事件簿」。2022年4月からの「男性育休」義務化で、何がどう変わった?

男性が受けた「パタハラ事件簿」。2022年4月からの「男性育休」義務化で、何がどう変わった?

この記事のサマリー

  • 育児・介護休業法の改正で、2022年4月から「男性育休」が義務化
  • 会社からの「報復人事」的なパタハラが、労働争議に発展する場合も
  • 会社側からパタハラを受けた場合は、然るべきところに相談を

目次

育児・介護休業法(正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)の改正によって、2022年4月から「男性育休」が義務化されました。

改正ポイントは次の5つです。

  1. 雇用環境の整備、個別の周知と意向確認
  2. 有期雇用労働者の要件緩和
  3. 出生時育児休業「産後パパ育休」の新設(2022年10月1日施行)
  4. 従来の育休制度も産後パパ育休も分割取得が可能に
  5. 企業の育児休業取得率の公表(2023年4月1日施行、従業員1,000人超の会社)

このうち「3」の「産後パパ育休」について補足すると、男性も生後8週までに最大4週(2回に分割可)の産休を取れる制度です。

厚生労働省の調査によると、令和元年(2020年)度の育児休業取得率は女性が83.0%の一方で、男性は7.48%と低い取得率でした。このような状況を変えようと、男性育休の取得推進の検討が進み、2021年6月3日に改正育児・介護休業法が可決・成立した、という経緯です。

さて、改正育児・介護休業法によって、男性に対する「パタハラ(パタニティハラスメント)」が減る傾向になると考えられますが、これまでどのようなパタハラ事例があったのかを振り返ったあと、パタハラを受けた場合の対応策について見ていきましょう。

なお、「パタニティ(paternity)」は「父性」を意味する言葉で、女性に対するマタハラと区別するために「パタハラ」という用語がよく使われるようになっています。

4つのパタハラ事例

1. 育休明けに遠方に転勤させられたケース

2019年に株式会社カネカで起こった事例です。

ある男性社員が育児休業から復帰後2日目(4月23日)に、5月16日付けで関西への転勤を命じられました。男性は新居を購入し、家族で引っ越したばかり。妻が復職し、上のお子さんが保育園に翌月入所する予定でした。

男性は「組織に属している以上、転勤は当然だが、今のタイミングは難しいので1〜2か月延ばしてもらえないか」と相談するも、会社側は却下。有給休暇の申請も却下され、男性は退職願いを提出し、5月31日付けで退職。

男性の妻が6月1日にTwitter上で会社の対応を非難するツイートを発信し、夫妻に同情するコメントが多数寄せられ、炎上騒動に。日経ビジネスが夫婦への取材記事を公開するなど、広く世間に知られることになりました。

当然、転勤の辞令そのものに違法性はないものの、育児・介護休業法 第26条では「その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」と規定していることから、これが争点に。

しかし、最終的には裁判にまで至らず、和解が成立したそうです。

参考:BUSINESS LAWYERS「カネカ育休対応問題に見る、マタハラ・パタハラ炎上の理想的対応」
参考:日経ビジネス「『育休復帰、即転勤』で炎上、カネカ元社員と妻を直撃」

2. 育休明けに昇給や昇格の機会が絶たれたケース

京都市の岩倉病院(医療法人稲門会)で看護師として働いていた男性が、3か月の育児休業を取得したことを理由に、2011年度の職能給の昇給が認められず、昇格試験を受ける機会も与えられなかった事例です。

男性は、病院側のこれらの対応が育児・介護休業法 第10条「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」という規定に違反するとし、京都労働局に援助の申し立て。

労働局は病院に対して是正勧告を行いましたが、病院側が従わなかったため、男性は昇級・昇格した場合との差額分の損害賠償と慰謝料を求めて京都地裁に提訴。一審判決(2013年9月)では、昇格試験を受けさせなかったことについては違法性が認められ、慰謝料15万円の支払いが命じられましたが、昇給を認めなかったことについては、違法性がないと判断されました。

男性はこれを不服として大阪高裁に提訴。高裁判決(2014年7月)では昇給についても違法であると判断され、男性の訴えが全面的に認められることに。病院側が最高裁に上告をするも却下(2015年12月)、上告受理申立についても受理しない旨を決定したため、大阪高裁判決が確定しました。

参考:チャンスイット「男性の育休取得をはばむ、『パタハラ』っていったい何?」

3. 育休取得後に不当に部署を変えられたケース

株式会社アシックスの男性社員が、育休取得後に不当に部署を変えられるなどのハラスメントを受けたとし、会社に対して慰謝料を求めた事例です。

男性は東京でプロモーションなど行う部署に勤務。2015年に長男が生まれ、約1年間の育児休業を取得した後、茨城県つくばみらい市の物流センターへの出向が命じられることに。男性は「出向は育児・介護休業法違反」と主張し、代理人弁護士を通じて会社と交渉。出向は解除され、2016年7月に東京の人事部に配置転換となりました。

その後、2018年に次男が生まれ、再度約1年間の育児休業を取得。2度目の育休後も、再び人事部で本人が望まない業務を担当させられることに。

2019年6月、「育休取得後の異動はハラスメントにあたり、育児・介護休業法 第10条に違反している」として、会社に慰謝料440万円などを求めて東京地裁に提訴。その後、男性が加入する労働組合(首都圏青年ユニオン)が2021年3月29日、同日付けで和解が成立したと発表。和解内容については明かせないとしています。

参考:Business Insider Japan「アシックスのパタハラ訴訟が和解。労組『男性育休の考え方は変わってきている』」
参考:弁護士ドットコムニュース「アシックス男性社員『パタハラ』で提訴 育休明け倉庫勤務『圧力であり、見せしめ』」

4. 育休取得の妨害などが争点になったケース

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の元社員で、カナダ出身のグレン・ウッドさんが、育児休業から復帰後に休職・解雇に追い込まれたとして、会社を訴えた事例です。

ウッドさんは2015年11月に育児休業を申請。パートナーがネパールで子どもを出産したことが理由でしたが、会社側は母子手帳の提出がないことなどを理由に拒否。ウッドさんは父子関係を示すDNA鑑定の結果を提出し、2015年12月に取得が許可されました。

2016年3月に復帰したものの、うつ病を発症して休職。その後、要職からの業務変更や休職命令などがあり、2017年12月に約1,300万円の慰謝料や社員としての地位確認などを求めて提訴。記者会見で「パタハラ」という言葉が使われた初めてのケースのようです。

会社は職場秩序を損なったことなどが就業規程に基づく解雇事由に当たるとし、2018年4月にウッドさんを解雇。2020年4月の一審判決は、「会社側は法律上の親子関係が確認できない中で、可能な限りで原告の意向に沿うように対応している」とし、育休取得の妨害はなく、休職命令や解雇も相当だとして、ウッドさんの主張を全面的に退けました。

その後、ウッドさんは控訴しましたが、東京高裁は「(育休)申請の不受理はやむを得ない」」と一審判決を支持。この判決を受けて、ウッドさんは最高裁まで争う姿勢を見せています。

参考:弁護士ドットコムニュース「三菱モルガン元社員のパタハラ訴訟、2審も敗訴 ウッド氏『日本の司法に正義はない』と批判」

もしパタハラを受けた場合は

すでに事例の中で触れた育児・介護休業法 第10条や第26条のほか、第25条では会社が配慮すべきことを次のように定めています。

育児・介護休業法 第25条

事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児・介護休業法は当然、女性だけでなく男性も対象にしたものです。つまり、マタハラが不当であるのと同様、パタハラもまた不当であり、男性育休も含めた体制整備や適切な措置は会社にとって義務なのです。

もし会社側(上司など)からパタハラを受けたと感じた場合は、

  • 会社の相談窓口や人事部に相談する
  • 労働組合や地域のユニオンに相談する
  • 労働局に相談する
  • 弁護士に相談する(労働審判や訴訟を考えている場合)

といった対応策が考えられます。

もちろん、軽度のパタハラであれば、会社の同僚や上司で男性育休を取得した経験のある人と話すことで気持ちを整理したり、部署や人事部の責任者に相談し、改善に向けて検討してもらったりするのも有効でしょう。しかし、事例で取り上げたような「報復人事」的なパタハラの場合は、然るべきところに相談し、解決をはかる必要があると考えます。

なお、男性労働者に育児休業や育児目的休暇を取得させた事業主(会社)に対して助成される「出生時両立支援コース」という助成金制度があるので、特に中小企業は利用を検討するとよいでしょう。役員や社員の男性育休に対する理解促進や、パタハラの抑止効果も期待できるかもしれません。

参考:経済産業省「出生時両立支援コース」(PDF)

まとめ

女性に対するマタハラは、国民にもだいぶ認識が広がっていますが、パタハラについてはまだまだです。

厚生労働省の「イクメン企業アワード2020」でグランプリを受賞した積水ハウス株式会社は「イクメン休業100%」を目指し

  • 対象の男性従業員全員に1か月以上の育児休業取得を推進
  • 最初の1か月を有給とし、最大4分割での取得も可能
  • 取得申請手続きや過去の育休取得者からの声などをまとめた取得促進ツールの提供
  • 独自に制作した「家族ミーティングシート」を一般にも公開し、社会全体を啓蒙

といった取り組みを行っており、その結果、男性社員の1か月以上の育休取得率が100%になったそうです。

参考:MOTIVATION CLOUD「パタハラとは?発生する原因は?対処法や予防策を徹底解説」
参考:積水ハウス「家族ミーティングシート」(PDF)

男性育休を推進する会社が増えること、社会全体としてパタハラに関する認識が広がることが、長らく続く少子化の抑止にもつながると考えます。また、それが改正育児・介護休業法の目的のひとつでもあります。

この記事が、パタハラについて考えるきっかけになれば幸いです。

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