ホーム ハラスメント 2023年「ハラスメント事件簿」5選。ビッグモーター、芸能界、自衛隊事件から今後を考える

2023年「ハラスメント事件簿」5選。ビッグモーター、芸能界、自衛隊事件から今後を考える

この記事のサマリー

  • ノルマ・罰則の厳しさと、組織的な不正やサービスの質の低下は関連する
  • ハラスメント事件の報道に、本当に「アウティング」は必要なのか?
  • 日本は悪い大人から子供を守れるような国になれるのか?
  • 伝統的なエンタメ業界の長時間勤務や過酷な労働環境は変わるのか?
  • 加害者の「意図」を問わず、被害者の尊厳が守られる大きな一歩となった判例も

目次

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さて、2023年はハラスメントにまつわる大事件が、社会的に大きな関心を集めた年でした。

中でも、有名企業、誰でも知っている著名な組織に対して、ハラスメントの告発から大規模なメスが入り、業界全体に激震が走るような事件がありました。

誰もが安心して過ごせる社会になることを願って、ぜひ2023年のハラスメントにまつわる5つのニュースをおさらいし、日ごろの生活を振り返る参考にしてみてくださいね。

1. ビッグモーターの不正事件。「教育教育死刑死刑…」、恐怖のハラスメントが生んだ不法行為の数々

2023年7月から世間を大きく騒がせたのは、大手中古車販売会社「ビッグモーター」です。

ゴルフボールを靴下に入れて車体を叩く」「ドライバーで傷つける」などによる自動車保険の保険金の不正請求から派生し、社内でのパワハラ事件が明るみになりました。

同社ではかねてより「事故車両の修理費用には1台当たり14万円」などのノルマが課されており、「営業目標を達成できなかった販売店の店長が、達成した販売店の店長へ、個人負担で現金(罰金)を支払う」など異例の慣行もあったと報告されています。

また、前副社長が店舗視察の際、「枯れ葉が1枚でも見つかればその場で店長へクビを言い渡す」こともあったそうで、街路樹に勝手に除草剤を撒くといった道路附属物損壊罪にあたる行為も報道されました。

これらの恐怖政治のような社内環境が、保険金の不正請求という不誠実なサービス対応の要因のひとつになったといえるでしょう。

ノルマが達成できない場合には罵声や怒号が飛び交うことも日常茶飯事で、退任した兼重宏一前副社長が社内連絡用のLINEに投稿したとされる「教育教育教育……死刑死刑死刑……教育教育教育……」という言葉はインターネットミームにまで発展しました。

「不当なハラスメントから生まれるプレッシャーは、組織的な不正の発生やサービス低下に直結する」ということが公になった事件でした。

参考: ITmedia ビジネスオンライン「なぜ『ビッグモーター』で不正が起きたのか レオパレスや大東建託との共通点」

2. 歌舞伎界の人気役者、スキャンダルから無理心中を。週刊誌で報じられたパワハラ・セクハラの実態

2023年5月に週刊誌が報じたのは、歌舞伎役者市川猿之助氏による共演者へのパワハラ・セクハラ、そしてコロナ禍でのパーティー開催などのスキャンダルでした。週刊誌報道をきっかけに市川猿之助氏は自殺未遂を起こし、両親に対する自殺ほう助の罪に問われ、11月に東京地裁から懲役3年、執行猶予5年の判決を受けています。

市川猿之助が行ったとされるパワハラは、「師匠と弟子、座長と役者・裏方の関係は絶対」という前提があり、伝統的な業界で続く権力差はパワハラの温床になると再認識させられます。前年の2022年には従兄弟にあたる香川照之氏のパワハラ・セクハラ報道もあり、歌舞伎だけでなく俳優としても活躍していた人気役者の立て続くハラスメント事件に、歌舞伎界には大激震が走りました。

市川猿之助のセクハラ相手は同性だったという報道もあり、両親を巻き込む無理心中にまで至ったのは、週刊誌に報じられたスキャンダルの苦悩のほかにも、同性愛者であるということが公になった「アウティング」が引き金になったのではないかとの見解もあります。

パワハラ・セクハラは、もちろん許される行為ではありませんが、「報道の際は被害者の性別は伏せるなどの配慮が必要なケースがあるのではないか」と、あらためて考えさせられる事件でした。

参考:NHK NEWS WEB「市川猿之助容疑者を逮捕 “週刊誌報道がきっかけ” 趣旨の説明」

3. 有名芸能事務所で数十年にわたり隠蔽された子どもに対するハラスメント。海外メディアで暴かれ、大問題に

2023年9月に、民放テレビのほとんどのチャンネルで会見が報道されるなど注目を集めたのが、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の設立者ジャニー喜多川(2019年死去、享年87)による性加害問題です。

被害者の数が膨大現役で活躍中のタレントにも被害の疑惑が向けられてしまう加害者がすでに死去しているという異例な状況の中で、9月に行われた大規模な記者会見は日本中で話題となりました。

ジャニー喜多川の性加害疑惑はかねてより噂されていましたが、今回明るみになったきっかけはイギリスの公営放送局BBCでの報道です。イギリス時間で3月7日に放送されたBBCでの特集番組は、放送後すぐに日本国内でもSNSを中心に広がり、未成年の子どもを相手に起こしていたこの性加害は、児童わいせつという目的を隠し、相手を信頼させて手なずける行為を指す「グルーミング」という言葉を日本国内で浸透させ、大きな議論を引き起こした事件でもあります。

ジャニーズ事務所は数多くのアーティストを輩出し、ジャニー喜多川は「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」としてギネスブックにも載っています。「日本の男性アイドルといえばジャニーズ事務所」といわれる時代を作り、国内のエンターテイメントを語る上で欠かせないほどの知名度を誇ったジャニーズ事務所ですが、この事件をきっかけに社名の変更と「ジャニーズ」というブランドに幕を閉じることとなりました。

一方、海外のメディアからは「日本での児童に対する性加害の処罰の甘さ」や「業界全体での見過ごし」といった、児童に関わる周囲の大人たちへの批判の声も挙がっており、地域社会を含む「親以外の大人」と子どもたちの関わりが少なくなっている中で、子どもたちを守るための大人による適切な関与の必要性を、あらためて考えた人も多いことでしょう。

参考:BBCニュース「日本の公然の秘密……ジャニー喜多川氏の性的加害」

4. 宝塚歌劇団員の女性転落死。誰もが認める過重な業務の中でも「ハラスメントはなかった」と発表

2023年9月末に世間を騒がせたのは、宝塚歌劇団に所属していた劇団員女性の転落死でした。

遺書などはなく自殺とは断定できない事件とされていますが、遺族は亡くなった女性との連絡の中で「上級生からハラスメントを受けている」という相談をうけていた旨を主張。加害者側にいじめやハラスメントに関する謝罪を要求しました。

主張を受けた宝塚歌劇団側は10月に外部弁護士による調査チームを立ち上げ、調査を行いましたが、11月には「いじめパワハラ確認できない」と発表しました。

しかし調査の中では、急死直前の約1か月間は連続勤務をしており、時間外労働が約277時間もあったなど過剰な業務が浮き彫りになりました。宝塚劇団員と劇団側との雇用関係は不明ですが、労働基準法36条に基づく協定(いわゆる36協定)にもとづけば「月の残業が100時間を超えるのは原則として違法」とされています。月の残業が100時間とは、1か月の勤務日数が20日の場合(土日休みなど)には1日に5時間の残業が必要であり、約277時間にも及ぶ時間外労働がいかに異様かがわかります。

一般的にハラスメントが起きやすい状況として、心理的負荷の大きい環境や長時間勤務が挙げられます。さらに、歌舞伎界と同様に宝塚歌劇団は伝統的な劇団であり、封建的な風土があることでもよく知られています。今回の調査で劇団側は、いじめやパワハラについては否定しているものの、過剰労働などの「安全配慮義務違反」については認め、過密スケジュールの見直し、自主稽古、新人公演のあり方の再考、下級生への指導方法などについて整理、合理化を促すと発表しています。

参考:日刊スポーツ「宝塚『いじめパワハラ確認できない』月277時間?『強い心理的負荷』の時間外労働は認める」

5. 自衛隊で起こったハラスメント事件。加害者側の「性的な意図」の有無に関わらず、被害者の尊厳が守られる判決

2021年に、陸上自衛隊の演習場で元隊員の男性数名が、元隊員の女性に強制わいせつを行った事件について、2023年12月に「各被告の行為が強制わいせつ罪の構成要件に該当することは明らか」と、元3等陸曹の被告3名に強制わいせつの判決が下されました。

事件については、「宴会の席で加害男性たちが被害女性に格闘技の技をかけ、下半身を押し当て腰を振るなどの性的行為を連想させる行動をとり、被害女性の尊厳を傷つけた」というものでした。これについて加害者側は「笑いを取るためだった」「服の上から下腹部を接触させていない」など性的意図を否定していました。

裁判が行われる中で、多くのメディアでこの事件での争点は「性的意図があったかどうか」にあるといわれていました。そんな中で12月に下された判決が「意図にかかわらず一連の行い自体がわいせつ行為に当たる」であったため、この事件は強制わいせつ罪に対する社会的認識に一石を投じるものとなったといえます。

また、本件は被害者女性が実名での訴えを行ったことで潮目が大きく変わったとされています。被害者の顔と名前が出たことで、社会全体がいっそう現実味を持って事件をジャッジする姿勢に変わったといわれますが、その後に出たいずれの記事もずっと被害女性の名前や顔写真が全面に出された一方、加害者側の情報はほとんど開示されていません。本来、性的な事件が周囲に認知されてしまうことを「セカンドレイプ」と呼ぶほど、センシティブに扱うべき事件です。事件発覚後も継続して被害者女性が矢面に立ち続け、好奇の目に晒され続けなければ、被害者の内面が深く考慮されない社会というのはあまりにも不平等です。

まず、このような事件が起きないこと、そして「誰が」受けた事件であるかよりも「どんな事件」であったかにフォーカスし、判断がなされる世の中になることを切に願います。

参考:NHK NEWS WEB「陸自女性隊員強制わいせつ事件の裁判 12日判決 福島地裁」

まとめ

2023年は芸能をはじめさまざまな業界で、有名な組織でのハラスメントが多く告発された年でした。

また、多くのメディアが長期間にわたってこれらの事件を扱い、SNSでは事件に対して活発に意見をする投稿も見られました。これは、社会全体でハラスメントに対して厳しい目を向けはじめている証拠なのではないでしょうか?

コロナの自粛ムードも落ち着き、飲み会などで人の接触が増えてきた世の中ですが、2024年からは今回取り上げたようなハラスメントがなくなり、「今までも大丈夫だったから」「悪ふざけで」など、軽い気持ちで誰かが誰かを傷つけることのない社会になるよう、私たち一人ひとりが心がけましょう。

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