昔、フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」の保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)や、「ピカルの定理」のビバリとルイなどの番組を見て、クラスの友だちと盛り上がっていた……という人は、ドキッとする話題かもしれません。
- 「あいつ、オカマなんじゃない?」
- 「男の子なのにピンクを好きなんて、ヘン」
- 「あの人、全然結婚しないし、同性愛者なんじゃない?」
- 「女子力ないね〜」
- 「男なのに化粧するなんて、気持ち悪い」
- 「◯◯ってゲイなんだって」
といった言葉を耳にしたことはないでしょうか?
何気ない言葉に聞こえても、どれも当事者の自尊心を大きく傷つける、たいへん危険なハラスメントワードです。このような、性的指向や性自認に関する「からかい」や「差別意識」にもとづく発言や行為をSOGIハラスメント(略して「SOGIハラ」)と呼びます。
過度に「男らしさ」や「女らしさ」を強調し、美徳とみなしていたのは今や昔。「その人らしさ」を大切にする時代が来ているのは、みなさんが感じているとおりです。しかし、セクハラ発言などと同様、何気なく出てしまうのがSOGIハラの難しいところです。
今回は、SOGIハラについて詳しく解説します。「古い考え方の人」と思われないため、というだけでなく、不用意に相手を傷つけないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
SOGIハラスメントって何?
まず、SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)とは、どの性別を好きになるかという「性的指向」と、自分の性別をどう認識しているかという「性自認」を組み合わせた言葉です。
LGBTよりも広い概念をもつのがSOGIで、セクシャルマイノリティだけではなく、異性愛や「体の性」と「心の性」が一致しているシスジェンダーも含む、すべての人を対象とした言葉です。
つまり、性的指向だけでなく、自分はどのような性別で生きたいのか、どのような性別で他者から扱われたいのかという性自認を包括した言葉なのです。
性自認には従来の男女を含めて、次のようなものがあります。
- 男性
- 女性
- T(トランスジェンダー)…… 性同一性の不一致者
- X(エックスジェンダー、英語ではQueer)…… 性自認が男性にも女性にもあてはまらない者
- Q(クエスチョニング)…… 性自認が自分でもわからなかったり、不確定だったりする者
- I(インターセックス)…… 染色体、性腺、性器などが男女未分化の者
性的指向の種類についてはさらに種類が多く、異性愛や同性愛に限られません。詳しくは、過去記事の「男女格差指数が156カ国中120位の日本。あらためて考えたい「ジェンダーバイアス」とは?」を読んでいただければ幸いです。
SOGIは、マジョリティ(多数派)といわれる異性愛やシスジェンダー(心と体の性別が一致している人)も含むため、「男らしさ」や「女らしさ」の考えを押しつけるような侵害行為(ジェンダーハラスメントやセクハラ)もSOGIハラスメントに該当するといえます。
SOGIハラスメントと教育
社会的なSOGIハラスメントの根絶には、ジェンダーバイアスが身につく子ども時代の教育も重要だといわれています。
特に子どもの場合は、たとえばテレビやインターネット動画などでそれらをお笑いネタしているものを見て、差別意識を汲み取るのではなく、「(ネタとしての)イジり」という誤った認識をしてしまう場合があります。
あらためて、冒頭に挙げたような言葉がなぜSOGIハラに該当するのかを、ひとつひとつ説明できるかどうかを考えてみましょう。
「相手が傷つくから」という抽象的な問題としてではなく、言葉の背景にある固定概念なども含めて考えられると、いっそうSOGIハラの抑止力につながります。言葉の背景(たとえば「男の子がピンクを好き」でダメという考え)に合理性がないものがほとんどであり、さらに、相手の行動、好きなもの、心のあり方を否定する言葉であることが、言われた側の自尊心を傷つけてしまうのです。
今や性的マイノリティは10人に1人といわれています。マイノリティへのハラスメントであると考えるよりも、性別に関する差別、偏見、合理性を欠いた固定概念によって、相手の心を侵害する行為であることが問題であり、それがSOGIハラスメントにつながると考えるのが適切です。
SOGIを細かく分類する必要性
筆者は知り合いから、性的指向や性自認について「そんなに細分化することに意味があるの?」と問われたことがあります。
もちろん、言葉を覚えることが大切なのではなく、「それくらいさまざまな人がいる」と認識することが、SOGIハラを防ぐ第一歩だと考えます。
さまざまな見解はあるとは思いますが、SOGIが細かく分類されていることで、少数派の性的指向や性自認を抱き、世間一般からの疎外感を覚えている人が、「自分だけではない、仲間がいる」と心強くなれるものでもあると考えます。
性的指向や性自認は、その人のライフスタイルや行動、さらに、他者が抱く印象に大きく影響を与え、人生の歴史として積み重なっていきます。
世界の歴史に例えるなら、SOGIハラによってある人を傷つけることは「相手国に侵略や侵害をする」、多数派という大きな枠に無理に嵌めようとすることは「小さな国を奪い、別の国へと従属させる」という行為と等しいのかもしれません。こう考えると、事の重大さが認識できるはずです。
一人ひとりの心のあり方や生き方は、身体的な「男」と「女」だけで区別することはできません。
多数派であっても少数派であっても、あなた自身の人生を大切にするために、目の前の相手の人生を尊重する必要があるのです。
もしSOGIハラスメントに遭ってしまったら?
SOGIハラに遭ってしまった場合は、言葉によるセクハラやジェンダーハラスメントなどと同様に、次のような対応が挙げられます。
イヤだという意志を表明する
もっとも難易度が高いのですが、もしSOGIハラに該当する言葉を投げかけられてしまったときに有効です。
仲のよい友達同士であれば、今後、同様の言葉を防ぐためにも、「そう言われるのイヤだな」「その言い方、やめて」というように、明確にノーというのが望ましいでしょう。
加担しない
場の空気で、SOGIを笑いのネタにしているようなときに有効です。
自分から「それはおかしい」と指摘できればよいのですが、それが難しい場合も一緒になって笑わないことが大切です。海外ドラマなどのおしゃれな言い回しとしては「それはジョークのつもり? 笑えないんだけど」というかっこいいフレーズもありました。
話題を変える
言われてしまったけれど言い返せない場合、その場に居合わせてしまったけれど指摘するのが難しいという場合、さっと話題を変えてしまうのが有効です。
「そういえば」と、思い出したようにまったく違う話題に変えてしまいましょう。言われた被害者であっても、その場にいる他の人であっても使えるテクニックです。
ハラスメントの話題転換については、過去記事「縁を切れない相手のハラスメントトークはこうやって切り抜けろ! すぐに使えるキラーテクとは?」も参考にしてみてください。
場を離れて被害者のケアをする
「さっきのイヤじゃなかった?」などと、被害者の味方になってあげることも重要です。被害者を孤独にさせてしまわないように、みんなが敵ではない、理解者もいるという意思表示をしましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
SOGIを侵害しないことは相手の心を尊重することです。性(心についても指向についても)を笑いのネタにしたり、勝手に相手の生き方を決めつけず、柔軟な社会を作っていきましょう。
なお、2019年5月29日に成立し、2020年6月(中小企業では2022年4月)から施行された「パワハラ防止法」には、性的指向・性自認に関する「SOGIハラ」、他人のセクシャリティを勝手に暴露する「アウティング」の防止も規定されています。
具体的には、すべての企業にSOGIハラやアウティングの防止策を講じることが義務づけられています。
個人だけでなく企業としても、パワハラ・セクハラ防止の一環として、SOGIハラ防止に積極的に取り組むことが大切です。