生き方や働き方が多様化する中で、うっかり誰かを傷つける発言をしてしまったという経験がある方もいるのではないでしょうか。
先日、モデルのpecoさんとタレントのりゅうちぇるさんが離婚を発表した際にも、世間の反応はさまざまでした。たとえば、
- 「女性と結婚したのだから男性でいることを貫くべき」
- 「子どももいるのに無責任すぎる」
- 「婚姻に縛られずに自由恋愛をしたかったのではないか」
などの意見や憶測が見られました。
自分のセクシャリティについて悩んでいたりゅうちぇるさんは、「“理想の男性”“理想の夫”というものと本当の自分との差に苦しくなってきてしまった」と語っています。この言葉の裏には、SOGIやジェンダー観といった日本が急ピッチで取り組まなければならない「多様性」の問題が確実に存在しているようでした。
このようなセンシティブなニュースを日常の雑談として扱ってしまったとき、友だちとの会話の中で似た悩みを抱えた誰かをうっかり傷つけてしまったり、周囲を「シーン……」とシラけた空気にしてしまうこともありえるのです。
今回は、そんなセンシティブな話題での失言をリカバーする「大人の謝り方」を紹介します。
失言をスルーしてはならない話題
大人になってからは、うっかり失言で相手や周囲の空気が変わったことを感じても、気づかないフリをすることが多いかもしれません。
以下のような話題では、相手が瞬間的に違和感を覚えるだけでなく、周囲から大きく信頼を失う可能性があります。相手との良好な関係を続けたいのであれば、必ずリカバーするようにしましょう。
1. 外見や容姿
いわゆる「容姿いじり」です。話し手が相手の「欠点」だと感じるポイントを用いて揶揄したりネタにしたりすれば、「自分が攻撃された」と相手に受け取られても仕方がありません。テレビ業界でも、容姿いじりについて見直す風潮があるようで、「3時のヒロイン」のネタ作りを担当している福田麻貴さんが、以前「容姿ネタ」を封印するという旨を発表し、話題となっていました。
あと今度改めて詳しく書きますが、この数週間で容姿ネタに関してじっくり考える機会が何度かあって、私達は容姿に言及するネタを捨てることにしました!思いはまた書きます。エンタはそう決める前に収録したもので、さらに別番組で5月にもう一本そのようなネタが放送されますが、以降は作りません。
— 3時のヒロイン 福田麻貴 (@fukudamaki) April 8, 2021
2. 人種や国籍
レイシャルハラスメントとも呼ばれます。「○○の国の人は暴力的だ」「◯◯人なのに運動神経が悪いんだ」など、その国や地域への勝手なイメージで、個人の性質や能力を決めつけてしまうことを指します。
日本は、同一民族の全人口の大多数(95%以上)の単一民族国家のため、幼少期や学生時代に他の国籍や人種の方と接する機会が多くなかったかもしれません。しかし、日本人全員が寸分違わず同じ人間性ではないように、国のイメージと一人ひとりの人間性は同じではありません。国籍や人種によって相手がこうだと決めつけてしまうことは、相手の個性を無視した発言になってしまいかねないのです。
もちろん、国や地域によって、ある程度の傾向(国民性や、日本国内に限れば県民性と呼ばれるもの)があり、人によってはその性質が強いと思える場合もあります。しかし、そうでない人もたくさんおり、あからさまに「◯◯出身だから、こういう人間だ」と決めつけることには問題があるのです。
3. SOGI
どの性別を好きになるかという「性的指向」と、自分の性別をどう認識しているかという「性自認」に関する話題は、自分の常識を相手に押しつけてしまいがちです。
LGBTよりも広い概念をもつのがSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)で、いわゆるセクシャルマイノリティだけではなく、異性愛や「体の性」と「心の性」が一致しているシスジェンダーも含む、すべての人を対象とした言葉です。
相手の容姿、服装、雰囲気だけで、SOGIを勝手に決めつけたり、思いやりのない発言をしたりする「SOGIハラ」は避けましょう。
詳しくは、ぜひ過去記事 いま知るべきSOGIハラとは? 「オカマ」「オトコ女」と嘲笑、「あの人はゲイ」と勝手な暴露 をお読みください。
4. ジェンダー観
女性らしく、男性らしくといった性に関する固定観念や差別意識にもとづく言動を「ジェンダーハラスメント」といいます。男性から女性に対する発言だけでなく、同性間、性的指向や性自認が異なる人との間で起こる場合もあります。
たとえば、男性から女性に対する「スカートを履かないの?」「子どもは産まないの?」という発言や、女性から男性に対する「このくらいの荷物を持てないなんて、男なのに情けない」という発言は、相手にジェンダーハラスメントと受け取られかねません。
詳しくは、ぜひ過去記事 ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)とは? セクハラとの違い、LGBTやSOGIとの関係を解説 をお読みください。
5. ライフステージ
自分や家族の結婚、出産、進学、介護などで、特に相手だけではなく、他者(結婚相手や家族など)が関わる話題は注意が必要です。
SOGIやジェンダー観とも複雑に絡んでくる問題ですが、「まだ結婚(出産)しないの?」「ひとり親? お父さん(お母さん)は居ないの?」「◯◯さんのお子さん、〇〇大学でしたっけ」なども、言われた相手は悩みの渦中にいるかもしれませんし、家族などの話題は一言で説明できるほど簡単ではないことも多く、思わず相手を傷つけてしまうことがあります。
以上、5つの話題は、相手のアイデンティティを深く問う話題であり、間違っても「笑いのネタ」にしようとしてはいけません。
謝罪の際に重要な「5ステップ」
さて、もし失言をしてしまった場合、どのように相手に謝るべきでしょうか?
失言に気づいて、すぐにその場で「ごめんなさい、今の発言は浅はかでした」と伝えられるならば、間違いなくそれがよいでしょう。しかし、あとから指摘されてハッと気づいたり、真面目に謝る雰囲気ではなかったり、何となく次の話題に移ってしまったり、といったことがあります。
もし謝罪できたとしても、すでに触れた上記5つの話題は相手にとってセンシティブな問題であるため、謝り方を間違ってしまうと信頼の回復から遠のいてしまうことでしょう。
次の5つのステップに沿って謝罪をすれば、気持ちがグッと伝わりやすくなります。ぜひお試しください。
1. 個人的に話す機会を得る
センシティブな話題に関する失言であった場合ほど、人前での謝罪は避けたほうがよいでしょう。相手のプライバシーをさらに多くの人に暴露してしまうことがあるからです。
また、ほかの人がいることで、謝罪をされた相手は「周りの人にもう一度その話題を聞かれてしまう」と身構えたり、「許さなきゃいけない空気」を感じてしまったりと、真っ直ぐに謝意が伝わりにくくなってしまいます。
できれば、「この間の話の中で謝らなきゃいけないことがあるから」と個人的に話す機会を得て、一対一で謝意を示すのが望ましいといえます。
なお、職場などで話題の中身やシチュエーションによっては「セクハラ」と捉えられてしまいそうな場合があります。また、相手を深く傷つけてしまった場合、一対一での会話を避けられる可能性もあります。このようなケースでは、失言をした場面に同席していた人(謝る相手と仲がよい人など)に「この間は失言をしてしまったので、◯◯さんに謝りたい」と伝え、協力を仰ぎ、場を設けてもらうのがよいでしょう。
2. 自己弁護をしない
これがもっともむずかしく、かつ、重要なポイントかもしれません。
やや辛口に表現しますが、謝罪をする際、自分の状況もわかってもらおうと「発言の背景」などをつい語りたくなってしまうかもしれませんが、相手が怒りや悲しみを感じているときには「言い訳」にしか聞こえないものです。
ですので、謝罪をするタイミングでは話すべきではありません。
自分語りはグッと堪え、まっすぐな気持ちで謝罪をしましょう。背景や理由については謝罪のあとで信頼関係を取り戻してから、冷静な環境でゆっくりと話し合ったほうが、いっそう相互理解が深まります。
3. 相手の感情を思いやる言葉を述べる
謝罪の言葉の大部分を占めるべきは、自己弁護ではなく「相手の感情を思いやること」です。
これは、具体的な内容というよりも「相手の感情を害してしてまった」「相手の心を傷つけてしまった」という点に触れましょう。かえって、勝手な推測を語りすぎてしまうと「いや、そこじゃないんだよな」と思われてしまう可能性もあります。
- 「あなたの気持ち(環境や状況など)を考えずに発言してしまった」
- 「傷つけてしまったかもしれないと、反省している」
- 「あの発言によって、もやもやとさせてしまったかもしれない」
など、感情面にスポットを当てて謝罪をしましょう。
また、「気持ちはわかるよ」という態度で謝罪をするのもNGです。
失言によって、相手からあなたへのの気持ちは「自分のことを理解してくれない人」というポジションに置かれています。たとえば、理解のない相手から「やっぱりセクシャルマイノリティって大変なのにごめんね」などといわれると、わだかまりをさらに生んでしまう可能性が高いのです。
謝るべきは「どうして失言をしたか」ではなく、失言によって相手の心や尊厳を傷つけたことである点を念頭に、あなたの気持ちを伝えましょう。
4. 今後は気をつけることを伝える
相手の気持ちに寄り添い、反省している点を伝えたならば、今後についてもしっかりカバーをするとよいでしょう。
悪意のないハラスメントの中には、その人の価値観のアップデートがなされていないため、つい発してしまったものが多いのです。
「まだ理解できていない点もあるかもしれないから、もしまた失礼な発言をしてしまっていたら、注意してほしい」という言葉であれば真摯な気持ちが伝わります。ことわざの「雨降って地固まる」のとおり、いっそう本音で話し合える間柄になり、これまで以上に良好な関係が築けるかも知れません。
もちろん、相手のことや失言してしまった話題(SOGIであったり、ジェンダー観であったり)をあなたが進んで理解していく姿勢を忘れてはいけません。
5. 最後にもう一度謝る
「今回は、本当にごめんなさい」と、最後にもう一度謝罪の言葉を伝えましょう(ちなみに、謝罪の会話の中で、最初のほうでは「本当に」という言葉は使わずに、一番最後だけに使うと、謝罪の気持ちがいっそう強く伝わるようです)。
最後にあらためて謝罪の言葉を口にすることで、重い空気を長く引き摺りすぎないという効果もあります。
謝罪の後には、お互いが笑顔を取り戻せているとよいですね。
まとめ
ハラスメントの原因の多くはアンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)といわれています。場合によっては、失言をリカバーをせずに放置した結果、あの人は「ハラスメントをする人だ」というレッテルを貼られてしまうことがあるかもしれません。
相手の人生にとって根深い問題であればあるほど、一度の失言でも信頼を大きく失うことがあります。
価値観やライフスタイルの多様化が進む中で、誰がどのような生き方をし、何が多数派で何が少数派かは常に流動的です。また、自分を勝手に多数派に属していると考え、少数派の人に失礼な言葉を投げかけてよいわけがありません。
さらに、もしハラスメントに当たる発言を見聞きした場合は、「私はそうは思わないよ」と切り返すことで空気が変わり、誰かを救うことがあるかもしれません。このように、第三者として、誰かの発言がハラスメントであるとそれとなく気づかせること、その発言で傷ついたかもしれない人に理解を示すことによって、当事者間の感情のもつれを未然に防げる可能性があります。
「ハラスメントをしてしまったら」「ハラスメントをされてしまったら」「ハラスメントの場に居合わせたら」。この3つの立場からシミュレーションをしておくと、あなたの人生はいっそう豊かになると考えます。