人間の声帯というものは、一番身近で神秘的な楽器です。
そんなことを視覚的に実感できるシミュレーターがあります。
その名も「Pink Trombone(ピンクトロンボーン)」。
デフォルメされた人間の声道の断面図を操作することで、発声時の舌や喉、鼻などの仕組みをブラウザ上でシミュレーションできます。
自らの体を離れた声帯を駆使してみると、これが不思議「どんなふうに発声していたかわからない!」なんてことも。喉を振るわせ舌を駆使し空気を調整し……言葉として発生するということが、いかに複雑な技術であるかがわかります。
そして、いろいろな操作でシミュレーターが体に馴染んでいくころには、楽器を操れたときのような不思議な達成感を味わえるでしょう。
楽器を楽しむようにひとりで黙々と練習してみるもよし、家族や友達が発声した声に近い音声を出せるかクイズを出し合ってみてもおもしろいかもしれません。
今回は、そんなシンプルで奥が深いシミュレーター「Pink Trombone(ピンクトロンボーン)」をご紹介します。
Pink Tromboneの操作方法
まずは、ブラウザでPink Trombone(ピンクトロンボーン)にアクセスしてください。
デフォルメされた口腔内の断面イラスト上をタップしたりドラッグ(長押しして移動)させたりと、インタラクティブな操作が可能なため、パソコンよりはスマートフォンやタブレットでの操作がおすすめです。
リンクを開くと、すべて英語のため一瞬戸惑ってしまうかもしれませんが、常に鳴っている「あ〜〜ぁあ〜〜〜あ〜〜」という声に驚いた方は、とりあえず右下の「always voice」をタップして常時発声をOFFにしましょう。最初はこれで落ち着いて操作が楽しめるはずです(もう一度タップすれば再び常時発生がONになります)。
まずは基本的な部位をざっとご覧いただき、画面を実際にタップやドラッグをしてみてください。
操作項目の説明
基本の音に関する項目
- always voice …… 常時発生のONとOFF
デフォルトでは常に「あ〜〜〜」と発声された状態を、タップしたときのみの発声に切り替えられます。 - pitch wobble …… 声の高さ、ゆらぎの調整
- voicebox control …… 音程と音量
スライダーを左右に動かすと音程が変化し、上下に動かすと音量が変化します。
口内の動きに関する項目
これらの項目をタップやドラッグすることで発声が変わります。
- lip …… 唇
- nasal cavity …… 鼻腔
- soft palate …… 軟口蓋(こうがい)
- hard palate …… 硬口蓋(こうがい)
- oral cavity …… 口腔(こうくう)
- tongue control …… 舌の動き
- throat …… 声門、喉
Pink Tromboneの開発背景とデモ動画
Pink Trombone(ピンクトロンボーン)は、チェコ共和国にある科学アカデミー数学研究所の研究者であるニール・ターペン氏によって開発されました。
ターペン氏は、自身の娘が言葉を話し始めた際に発語の仕組みについて考え、「音声生成に関わる物理的プロセスをコンピューター上で実装できると面白いのではないか?」と開発のきっかけとなったといいます。
ゲーム開発者としての一面もあるニール・ターペン氏は、「使って楽しいインターフェース」を目指し制作を行ったそうです。
こちらはデモ動画ですが、ターペン氏が発声したあと、まったく同様の音をPink Trombone(ピンクトロンボーン)で奏でているのがわかります。
使ってすぐでは、ここまで正確に自分の発声と同様の音を出すのは難しく、日ごろ自分が声を発する際に自然に行っていることの複雑さに気づかされ、そして、どうすれば正確な音を奏でらるのかに惹きつけられます。そんなところもこのシミュレーターの面白いポイントになっているのではないかと思います。
まとめ
発声や発話をはじめとした「多くの人が自然と身につけるスキル」は、身についてしまえばそれが当たり前となり、あらためて振り返って考えることはほとんどなくなります。
しかし、人間のスキルというものは、その実とても複雑に入り組んだ信号や動きで成り立っています。
このようなシミュレーターを通して、あらためてその難しさを知ってみると、当たり前のスキルも奇跡の連続のように感じられるのではないでしょうか?
そして、そんな日ごろの当たり前に疑問を持てたとき、未来につながる可能性に思いを馳せてみましょう。
たとえば、このような発声や発話の興味や研究は、生まれつき耳の不自由な方の発声の練習や、相手の唇の動きから言葉を読み取る練習に役立つかもしれません。また、現在多くのヒューマノイド(人型ロボット)がスピーカーで発声させている音声も、いっそう人間に近づいたヒューマノイドが実際に空気を肺から送り出し、声帯や口内で調整した音で「声」を発する日が来るかもしれないのです。