国際的な17の「持続可能な開発目標」(通称「SDGs」)が2015年9月25日に国連総会で採択されてから、人類平等やジェンダー平等という言葉が強く叫ばれるようになってきました。そのような時代の流れの中、先日、アメリカのトランプ大統領は就任演説で「性別は男女2つしかない」と発言。
この発言については批判も多い中、トランプ大統領が2月に署名した「トランスジェンダー女性の女子競技参加を禁止する大統領令」については、日本国内でも賛成の声が多く挙がっていたようです。
この署名に至る背景には、トランスジェンダー男性による女性のスポーツチームの乗っ取りや、更衣室への侵入などの問題があり、シスジェンダー(生まれ持った性別と性自認が一致している人)やヘテロセクシャル(異性愛者)といった、マジョリティ(多数)の女性を守るという側面があったためです。
日本国内でも昨今、温泉施設でのトランスジェンダー女性の女湯利用や、女性更衣室の利用といったジェンダー配慮に関するトラブルが度々ニュースになっています。昨今ではLGBTQ+の終わりやジェンダー多様性への批判などがSNSを中心に幅広く論議されています。
英語圏では「Equality(平等)」ではなく「Equity(公平)」が重要な時代に突入しているのではないかともいわれており、その言葉の意味を調べると、とても興味深いニュアンスの違いがありましたので、以下でご紹介します。
平等(Equality)と公平(Equity)の違い
平等と公平は、日本語の場合は類語として扱われていることが多いのですが、英語では「Equality(平等)」「Equity(公平)」となり、意味合いが異なるようです。
しばしば説明に使われる以下の図を見ると明白ですが、Equality(平等)とは「均等」という意味を含む単語である一方、Equity(公平)は「公明正大」や「正当な権利」という意味を含む単語です。
そのため、図の左側のEquality(平等)では、それぞれに等しい高さの箱が与えられているものの、木の実を手にすることができたのは一番右の人物だけであり、均等な助けが与えられたとしても結果として不公平な状況になっています。
イラスト:「Equality(平等)」と「Equity(公平)」を表す図
「木の実を全員が取れる状況を作る」ことを目標にしている場合には、与えられるべき箱の数は人によって異なります。この「目標を定めた上での個別の調整」が重要だということが、諸外国では語られはじめているのです。
この問題は、日本では「機会の平等」と「結果の平等」という言葉で議論されることがあります。国の経済で考えると、誰もが平等に富を得るチャンスを与えられているのか、それとも、同じ富を国民に平等に分配するのか、ということです。大づかみにいえば、前者は資本主義の、後者は共産主義の考え方として知られています。
もちろん、多くの国で政府が状況に応じて両者を使い分けたり組み合わせたりしています。わかりやすい例では、独占禁止法やインサイダー取引の禁止(金融商品取引法)はビジネスや市場における「機会の平等」を確保するためのものです。そもそも日本国憲法では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(第14条第1項)という「平等原則」が示されています。
一方、「結果の平等」の観点からは、貧困や格差の拡大を防ぐためのさまざまな税制(累進課税、配偶者控除など)や社会保障制度(年金制度、障害者福祉、生活保護など)が挙げられます。このような制度を通じて、富めるものから貧しいものへと「所得の再分配」を行うことで、貧困や格差を是正し、社会の安定をはかっているのです。
身体の性と心の性
さて、ジェンダーに話を戻しましょう。
出生時に人間のほとんどは、女性は「XX」、男性は「XY」という染色体の組み合わせによって男女いずれかに分けられます。
トランスジェンダーとは、この生まれ持った性別と、心の性別(自認している性別)が異なる人を指します。
ご存知のとおり、「身体的な性別が男性」の場合には女性よりも筋肉量が多いなど、生まれ持った性別によって身体的な特徴が異なります。スポーツとは身体的な能力を高め、競い合う場であるため、トランスジェンダー女性という「生まれ持った性別が男性」の競技者が「身体的な性別が女性」と同条件で競うということは、生まれ持った身体的な能力に大きな差があってもEquality(平等)である、いう前提の上に成り立っています。
勝敗がなく、また、競い合う必要のない場面であれば、心身ともに性差は関係ないでしょう。しかし、スポーツは勝ち負けが発生するものであり、さらに賞金や権威などが生じる場合には、このEquality(平等)を悪用するケースを懸念しなければならないのです。
また、身体的な性別があらわになる入浴や更衣室といったシーンも同様で、安全性や防犯の観点から、身体的な性別が優先されるべきケースも多々存在しています。日本でも、2023年6月に「LGBT理解増進法」が施行されてからというもの、公衆浴場やトイレでのトラブルが相次いで発生していることは、広く報道されているとおりです。
過去記事:やっぱり起こった? 三重県で女湯に侵入した男が逮捕。今後のLGBT法の影響を考える
こういった点を踏まえ、これからの平等や公平を考えるにあたっては、「身体」と「精神」の性別それぞれのケースを分けて対応策を講じるのがEquity(公平)へのヒントになるのかもしれません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は性差にスポットをあわせてみましたが、「Equality(平等)」と「Equity(公平)」の違いを念頭に考えてみると、LGBTQだけではなく、働き方の多様性など、さまざまな分野でダイバーシティについてピントの合った取り組みが検討できるはずです。
ぜひ参考にしてみてください。