2021年6月7日に、Appleの世界的な開発者向けカンファレンス「WWDC21」が開催されました。
今回のWWDCで一貫していたのは、コミュニケーション、シェア、プライバシーという3つのテーマ。
2時間近くに及ぶKeynote(基調講演)では、ティム・クックに続いて登場したクレイグ・フェデリギが、iOS 15を通じた新たなコミュニケーションの在り方を解説。特に、冒頭で「Staying connected(人びとがつながり続ける)」として、FaceTimeの大幅なアップデートが発表されました。
さて、今回の目玉のひとつといえるFaceTimeのアップデートについて、次の6つの新機能が紹介されました。
- Spatial Audio(空間オーディオ)
- Voice IsolationとWide Spectrum(2つの音声モード)
- Grid View(グリッド表示)
- Portrait Mode(背景のぼかし)
- FaceTime links(共有リンクの発行)
- Share Play(一緒に楽しむ)
以下、それぞれを詳しく解説します(画像は上記の動画より)。
1. Spatial Audio(空間オーディオ)
AirPod Proをお使いの方は、すでにご存知かもしれません。AirPods Pro+iOS 14でサポートしているSpatial Audio(空間オーディオ)ですが、iOS 15からはFaceTimeでも利用できるようになります(ただし、iPhone XR/XS以降)。
たとえば、複数人で通話しているときに、右側にいるAさんが話すと右側から聞こえる、左側にいるBさんが話すと左側から聞こえるというように、会話に臨場感が生まれます。会話への没入感など体験の向上にもつながるでしょう。
また、数名以上で話す会議では、誰かと誰かの声が似ている場合、識別がむずかしいときがありますが、声の方向がわかることで識別しやすくなります。
2. Voice IsolationとWide Spectrum(2つの音声モード)
マイク機能に関するアップデートで、Voice IsolationとWide Spectrumという2 つのモードが選べるようになります。
Voice Isolation Modeにすると、ノイズキャンセリングが有効になります。WWDC21のデモにあったとおり、背後のブロワー(木の葉などを風で飛ばして集めるための送風機)の大きな雑音さえ、ほとんど消すことができます。
このノイズキャンセリング機能には、機械学習が活用されています。これまでは残響音がカットされることで臨場感が損なわれたり、音声そのものが削られたりしましたが、機械学習によって人の肉声を識別し、フォーカスすることで、それらの課題をクリアしたそうです。
一方、Wide Spectrum Modeを選択すると、人の肉声にフォーカスするのとは異なり、周囲の音にフォーカスすることで、ダイナミックレンジを高め、身のまわりのすべての音を伝えることができます。これは、たとえば合奏での音のシンフォニー全体を聞きたいときなどに適していいます。
どちらも機械学習における「音源分離」と言われる技術を応用したもので、さまざまな音が混ざった中から欲しい音を抽出する技術によって、「人の肉声」と「周囲の音」を分離することで実現されていると考えられます。
3. Grid View(グリッド表示)
FaceTimeで複数人で話しているときに、それぞれの顔をグリッド状に表示する機能です。
話している人の顔が、枠線つきでやや大きく表示されるので、誰が話しているのかがわかりやすくなります。
4. Portrait Mode(背景のぼかし)
中心にいるあなただけをフォーカスし、背景をぼかす機能です。
写真のポートレートモードと同様の機能なので、イメージしやすいでしょう。
5. FaceTime links(共有リンクの発行)
今回のアップデートの中でも一番の目玉機能として、FaceTime linksがあります。あらかじめスケジュールすると、FaceTimeコールのURLを発行する機能です。メッセージ、カレンダー、メールなどでURLをシェアされた人が、そのコールに参加できます。
もし相手がAppleデバイスを使っていなくても、ブラウザからコールに入れるので(ブラウザ上の「Join FaceTime」をタップ)、WindowsやAndroidでも利用できます。AppleがWindowsやAndroidでの動作をサポートするのは、まさにエポックメイキングなことです。
ZoomやGoogle Meetにも同じ機能がありますが、プライベートな利用が多いFaceTimeでもついに対応したか、という印象です。
ブラウザを介しても、FaceTimeコールでの通信はE2EE(End-to-End Encryption)に対応しているので、私たちの通話は中間サーバなどを経由するときは暗号化され、手元の端末でだけ展開されることになります。つまり、(Appleはもちろん、何らかの法的措置によっても)私たちの通信が覗き見られることがない、安心できる通話体験が得られます。ちなみに、Microsoft TeamsもGoogle Meetも、まだこのレベルのセキュリティはありません(暗号化はされてますが、E2EEではありません)。
また、ブラウザで使えるということは、オープンなWebRTC(Web Real-Time Communication)互換になったということです。クレイグいわく、「ブラウザで使えるテクノロジーが充実してきたので、iOS 15で搭載することにした」とのことです。
Appleは以前から、プロトコルはオープンなものを使うと表明しており、その約束が果たされました。FaceTimeはいまでもプロプライエタリな製品であることに変わりはありませんが、ブラウザなどのサードパーティでも使えるようになり、さらに、リバースエンジニアリングによって、開発者がウェブビューで埋め込むことで、FaceTimeクライアントの開発も可能になるでしょう。
なぜこのような仕組みを優先度を上げて実現したのかについて、コロナ禍でのロックダウン中、Apple社内の人間が家族とZoomをする際に、Appleデバイスを持っていない家族は会話に参加できないことあったので、それをを避けたかった、と語られていました。
このように、FaceTime Linksの充実した機能は、Zoomへの対抗策としても、人びとの生活を豊かにするという意味でも、画期的といえるでしょう。
6. Share Play(一緒に楽しむ)
FaceTimeで会話をしている相手と一緒に映画を見たり、音楽を楽しんだりできる機能です。メモ帳を共有し、一緒にお絵描きができたりも。
APIも公開されるため、将来的にはサードパーティでの開発によって、一緒にゲームをプレイしたり、ポッドキャストを聞いたり、といったこともできるようになるでしょう。
さて、まだ詳細は明かされていませんが、複数人で映画を見たい、音楽を楽しみたいというときに、どこまでシェア可能であるのか、公衆送信をすることにならないかが課題といえそうです。
具体的には、お互いが同じサービスを利用していることが前提になると推測します。たとえば、Apple Musicで一緒に聞くときには、お互いがApple Musicに契約していることが条件である、といったようにです。
もしそうであれば、Amazon Videoと同じ仕組みです。映画をリモートで一緒に見るときには、お互いにAmazon Videoに契約している必要があります。
このあたりも、今後注目していきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回、WWDC21で発表されたFaceTimeのアップデートは、私たちの生活をよりよく、より楽しくしてくれる機能ばかりであり、いままでのFaceTimeとはまったく異なるアプリに生まれ変わる印象です。
コロナ禍で、オンラインを通じたコミュニケーションの時間が大いに増している現在、その「質の向上」が問われています。今回のFaceTimeのアップデートは、その問いに真摯にこたえようとするAppleの姿勢が強く感じられます。
iOS 15のリリースを、期待して待ちましょう。