2022年7月10日に参議院議員選挙の投票日をひかえ、どの候補者、どの政党に一票を投じるか迷っている方も多いでしょう(投票先を決める前に、選挙ドットコムの「2022参議院選挙 投票マッチング」で、自分の考えに近い政党を把握し、判断に活かすことをおすすめします)。
今回の記事では、精神障害の労災認定や若者の自殺に関する統計データをもとに、現在の日本が、特に若者にとって「安全で暮らしやすい社会」ではなくなっていることを解説します。
ここ数十年なされてきた政策のひとつの結果として、投票行動の参考にしてください。
精神障害の労災認定が過去最多の629件に
厚生労働省のまとめによると、令和3年(2021年)度に仕事の強いストレスなどが原因となるうつ病などの精神障害に関する労災申請は前年比295件増の2,346件、労災認定(支給決定)されたのは21件増の629件と、どちらも過去最多となりました。
原因の上位3位は、
- 上司などからのパワハラ 125件
- 仕事内容・量の変化 71件
- 事故・災害の体験・目撃 66件
です。
出典:厚生労働省「令和3年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
労災認定のうち、自殺(未遂を含む)は79件。年代別では、19歳以下は0件、20〜29歳は16件、30〜39歳は17件、40〜49歳は39件、50〜59歳は14件、60歳以上は2件です。いわゆる「責任世代」の数が多いのですが、20歳代でもけっして少なくない数が自殺にまでいたっていおり、令和2年度(13件)と比べて3件増加しています。
厚生労働省は「うつ病などの労災申請の件数も、これまでで最も多くなっている。長時間労働や、いじめや嫌がらせなどのハラスメントをなくすために、引き続き取り組んでいきたい」としています。
参考:NHK「仕事の強いストレスなど原因 うつ病などの労災認定 過去最多に」
若者や青年の死因第1位が「自殺」という現状
日本の人口全体に関するデータを見てみましょう。
厚生労働省の「人口動態統計」の最新版(2020年版)によると、10歳から39歳までの死因の第1位は「自殺」です。第2位と第3位は、年代によって異なりますが、おおよそ不慮の事故または悪性新生物(がん)です。
また、先進国の集まりであるG7(日本、フランス、米国、ドイツ、カナダ、英国、イタリア)の中でも、若者(10歳代~20歳代)の死因第1位が「自殺」なのは日本だけです。
年齢別死因順位(2020年)
年齢 | 第1位 | 第2位 | 第3位 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
死因 | 死亡率 | 死因 | 死亡率 | 死因 | 死亡率 | |
0 | 先天奇形等 | 66.3 | 呼吸障害等 | 28.3 | 乳幼児突然死 | 11.2 |
1~4 | 先天奇形等 | 2.4 | 悪性新生物 | 1.7 | 不慮の事故 | 1.6 |
5~9 | 悪性新生物 | 1.5 | 不慮の事故 | 1.0 | 先天奇形等 | 0.6 |
10~14 | 自殺 | 2.3 | 悪性新生物 | 1.5 | 不慮の事故 | 1.0 |
15~19 | 自殺 | 11.4 | 不慮の事故 | 4.1 | 悪性新生物 | 2.0 |
20~24 | 自殺 | 21.0 | 不慮の事故 | 4.8 | 悪性新生物 | 2.6 |
25~29 | 自殺 | 19.7 | 悪性新生物 | 3.9 | 不慮の事故 | 3.6 |
30~34 | 自殺 | 18.7 | 悪性新生物 | 7.8 | 不慮の事故 | 3.9 |
35~39 | 自殺 | 18.3 | 悪性新生物 | 14.0 | 心疾患 | 5.1 |
40~44 | 悪性新生物 | 25.9 | 自殺 | 19.1 | 心疾患 | 10.4 |
45~49 | 悪性新生物 | 47.0 | 自殺 | 19.1 | 心疾患 | 17.9 |
50~54 | 悪性新生物 | 84.8 | 心疾患 | 30.1 | 自殺 | 20.4 |
55~59 | 悪性新生物 | 146.7 | 心疾患 | 46.0 | 脳血管疾患 | 25.7 |
60~64 | 悪性新生物 | 248.3 | 心疾患 | 67.8 | 脳血管疾患 | 37.9 |
65~69 | 悪性新生物 | 420.1 | 心疾患 | 107.8 | 脳血管疾患 | 58.2 |
70~74 | 悪性新生物 | 613.1 | 心疾患 | 166.1 | 脳血管疾患 | 91.9 |
75~79 | 悪性新生物 | 891.6 | 心疾患 | 298.6 | 脳血管疾患 | 168.6 |
80~84 | 悪性新生物 | 1229.3 | 心疾患 | 571.5 | 脳血管疾患 | 316.5 |
85~89 | 悪性新生物 | 1693.6 | 心疾患 | 1192.3 | 老衰 | 721.3 |
90~94 | 心疾患 | 2422.9 | 老衰 | 2410.3 | 悪性新生物 | 2080.4 |
95~99 | 老衰 | 6733.9 | 心疾患 | 4402.7 | 悪性新生物 | 2218.4 |
100歳以上 | 老衰 | 16242.5 | 心疾患 | 6104.5 | 肺炎 | 2455.3 |
総数 | 悪性新生物 | 306.6 | 心疾患 | 166.6 | 老衰 | 107.3 |
(人口10万対)
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2022)」表5-23
G7(先進7か国)の若者の死亡原因
国名 | 第1位 | 第2位 | 第3位 |
---|---|---|---|
日本 | 自殺 | 不慮の事故 | 悪性新生物 |
フランス | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物 |
ドイツ | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物 |
カナダ | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物 |
米国 | 不慮の事故 | 自殺 | 他殺 |
英国 | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物 |
イタリア | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物 |
名著『若きウェルテルの悩み』のように、若者が恋愛や将来への絶望を理由に自殺することは、今も昔もありえることです。しかし、日本の異常さは、若者の死因第1位が自殺であることに加え、20歳に満たない10〜19歳の死因さえも自殺が第1位であることです。
コロナ禍で、働く女性の自殺が増加
コロナ禍の下、所得の二極化が進んでいるといわれています。たとえば、正規雇用と非正規雇用、男性と女性など、さまざまな格差がありますが、年々、若者が将来に希望を抱きにくい社会になっており、そのことが自殺という不幸な選択の一因になっているはずです。
長らく減少傾向にあった自殺者数は、令和2年(2020年)に上昇に転じ、912人(4.5%)増の21,081人となりました。注目すべきは、男性が減少した一方、女性は増加した点です。背景にはコロナ禍による収入の不安定化や孤独化があるとされています。
なお、女性の自殺が多かった職種は、次のとおりです。
事務員、その他のサービス職、医療・保健従事者の順となっています。
女性の自殺が多かった職種
職種 | 令和2年(2020年)度の自殺者数 (過去5年平均) |
---|---|
事務員 | 270人(204人) |
その他のサービス職 | 194人(131人) |
医療・保健従事者 | 174人(141人) |
販売店員 | 133人(92人) |
その他の専門・技術職 | 71人(42人) |
まとめ
以上、精神障害の労災認定や若者の自殺に関する統計データを見てみました。
ここ25年ほど、日本人の平均所得(給与)は上がっていません。1997年の467万円をピークに、2012年には408万円まで下落、その後に少しずつ増加して2020年には433万円となっています。男性の平均532万円に対し、女性は平均293万円と、約半分です。また、この間、3回の消費税増税や社会保障費の負担増があり、実質可処分所得は大幅に減っています。
若者の多くが自殺で亡くなっていること、平均所得が下がり続けていることからも、実は「安全で暮らしやすい社会」とはいえなくなっています。これは明らかに、ここ数十年の日本政府の「政策の失敗」といえるのではないでしょうか。そして、このことに多くの国民が気づきはじめています。
この記事が、日本の現状を知るきっかけになれば幸いです。