ホーム ボイステック Amazonのプライバシーデータの扱いをめぐる2つの訴訟が和解へ。しかし、特許侵害の訴えも

Amazonのプライバシーデータの扱いをめぐる2つの訴訟が和解へ。しかし、特許侵害の訴えも

この記事のサマリー

  • 2件の訴訟でAmazonが計3,080万ドル(約42億円)をFTCに支払うことで和解
  • FTCや17州から音声認識技術の特許侵害の訴訟も
  • 労働者や取引先の犠牲、競合他社の権利侵害にも厳しい目を

目次

アメリカのAmazon(アマゾン)と子会社が、ユーザーのプライバシーデータを不適切に扱ったとして、2件の裁判で訴えられていたことをご存知の方もいるでしょう。さらに、音声認証技術の特許侵害でも訴訟を提起されています。

以下、Amazonに対する上記3件の訴訟について見ていきましょう。

訴訟1:子どもの音声データの不正利用

AI音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」で収集した子どもの音声データについて、親から削除要請があったにも関わらず一部を保管していたなどとして訴えられていた裁判で、アメリカ連邦取引委員会(FTC)は2023年5月31日、Amazon側が2,500万ドル(約34億円)をFTCに支払うことで和解したと発表しました。

AmazonはAlexaを通じて数千人の子どもの音声データと位置情報を違法に保持。子どものプライバシーを犠牲にしてアルゴリズムを訓練するためのデータとして利用していたことで、FTC法と児童オンラインプライバシー保護法に違反したとされます。

Amazonはユーザーに対し、Alexaが収集した音声データとAlexaのアプリが収集した位置情報は削除できると保証していましたが、実際にはそのデータの一部を何年も保管し、Alexaアルゴリズムの改良に利用していたといいます。

Amazonを含むGAFAMの音声データの取り扱いについては、2010年代後半にさまざまな不正利用が明らかになりました(以下の過去記事を参照)。AI技術の進展がますます加速している現在、私たちは依然として、プライバシーの脅威にさらされているという事実を知る必要があります。

過去記事:GAFAMの音声データの取り扱いと、プライバシーやセキュリティに関する課題

訴訟2:防犯カメラへの不正アクセスと不正視聴

同日に和解が発表されたのは、Amazonの子会社で、スマートドアベルやセキュリティカメラを開発する「Ring(リング)」をめぐり、ユーザーの私的なスペースを録画した映像を、本人の許可を得ずに「数千人の従業員と請負業者」に視聴させたとして訴えらたものです。この訴訟は580万ドル(約8億円)にFTCに支払うことで決着しました。

ある従業員は2017年6月から8月にかけて、少なくとも81人の女性ユーザーのビデオ録画数千件を閲覧。閲覧対象が「可愛い女の子」のものばかりだったことに上司が気づいたため、この従業員は解雇されたとのこと。また、Ringはハッキング対策を怠ったとも非難され、被害を受けたユーザーはカメラの双方向通信機能を通じて嫌がらせや脅迫、侮辱を受けたとされます。

訴訟3:音声認証技術の特許侵害

2023年11月8日、アメリカのデラウェア州連邦裁判所は、Amazonが音声認識技術に関連する他社(VB Assets)の特許を侵害したとして、同社に対して4.67億ドル(約530億円)の支払いを命じました。

VB Assetsが保有する特許は、ユーザーの声を認識し、それに応じて情報を提供する技術に関連しており、AmazonのAlexaなどに広く流用されていたとされます。VB Assetsの技術は、トヨタ、クライスラーなどの自動車メーカーや、TomTom、Magellan GPSなどGPSシステムメーカーの企業向け音声制御ソフトウェアに利用されています。

Amazonはこの判決を不服として、法的措置を検討しているようです。

まとめ

以上、3件の訴訟から見えることは、すでに大きな競争優位を持つAmazonが、その地位をさらに盤石にしようとしている姿です。

上記のほかにも、Amazonは2023年9月26日に、FTCやニューヨーク州をはじめとする17の州から、独占禁止や不正競争防止の観点から訴えられています。自社販売プラットフォームである「Retail」と、第三者販売者の仲介プラットフォームである「MarketPlace」が、それぞれの市場において反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)に違反しているという訴えです。Amazonが独占的な権力を行使して価格をつり上げ、サービス品質を低下させ、イノベーションを阻害していると指摘しています。

また、これはAmazonの日本法人「アマゾンジャパン」に関する訴訟で、2024年5月24日、荷物の配送を請け負う神奈川県内の5つの会社と業務委託契約を結んでいる配達員ら16人が、直接雇用された労働者と同じ働き方をしているにもかかわらず、残業代が支払われないのは違法だとして、下請け運送会社などに計約1億1,680万円の残業代を支払うように横浜地裁に求めました。

アマゾンジャパンに対する直接的な訴訟ではありませんが、Amazonの流通システムに関する構造的な問題の一端を表しているといえるでしょう。

これまでプライバシー保護や特許侵害の面でも、労働者の扱いという面でも、Amazonに対して警鐘を鳴らす意見がたくさん出されていました。

Amazonの「貪欲さ」が大きなイノベーションを生み出し、私たちの生活を便利にしたことは間違いないでしょう。一方で、労働者や取引先に犠牲を強いてきたこと競合他社の権利を侵害してきたこともまた事実であり、それが度重なる訴訟というかたちで明らかになっています。

Voista Mediaでは、音声技術だけでなく企業倫理の点からも、Amazonをめぐる話題を今後も取り上げていきます。

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