私たちの生活に身近なものとなった、Appleの音声認識技術「Siri」。
今年の7月、「Hey Siri」と呼びかけた自分の音声を他の人が聞いている、とショッキングなニュースが報じられたことは、まだ記憶に新しいと思います。
それは、アイルランド・コーク市にあるAppleの下請け企業GlobeTech社の元従業員による内部告発から明るみになった問題でした。
内部告発から明るみになった盗聴問題
英紙「The Guardian」の第一報と、その後のアイルランドの現地メディア「Irish Examainer」の捉えた情報において、内部告発者は次の事実を明らかにしました。
- 300人を超える契約社員が、Siriの音声アシスタントの品質コントロール(いわゆる「グレーディング」)のために、1回のシフトにつき1,000以上のSiriとユーザーの会話が聞かれていた
- ほとんどが「Hey Siri」の直後に来る数秒程度のSiriに対する命令の音声だった中にも、Siriの意図しない起動などで、それのみにならず、プライバシー情報に関わる機密な医療情報、犯罪取引について、さらには性行為の音声までもが聞かれていた
Appleはこれまで「データはSiriの機能向上のために使われる」と述べていたのに対し、音声を実際に第三者が聞く可能性があることを、プライバシーポリシーの中で述べていませんでした。
この内部告発の報道を受けて、Appleは直ちにこの人間による音声の評価を停止。それと同時に業務委託先との契約を突如解除し、今後はユーザーが同意した場合にのみ、音声を評価に使用すると発表しています。
AppleによるSiriのプライバシーステートメント
8月28日、この問題に対するAppleの結論として、「Siriのプライバシー 保護機能を強化」というステートメントが発表されました。
そこでは次のことが述べられています。
- デフォルトでは録音音声を保持しない。文字起こしされたデータは今後も利用
- 音声サンプルの利用を、Siriの機能向上という目的のためにユーザーの許可を得る形に
- Appleの従業員のみによる対応(第三者への提供の禁止)
音声データの無断利用や内部告発のイメージダウンを払拭したいという意図があるとはいえ、GoogleやMicrosoftなどの対応と比べると、Appleはプライバシー情報に対してしっかりしたポリシーを示したといってよいでしょう。
音声のプライバシーと技術革新
音声や映像などに含まれるプライバシーと、技術をさらによいものにしようとする企業の取り組みは、ある部分ではトレードオフの関係にあります。
これはAppleに限った問題ではなく、あらゆるテックジャイアントが、私たち個人のプライバシーデータを、人間によって覗き見、理解し、技術開発に半ば強引に利用しようとしていることは、否定しようのない事実です。また、セキュリティの向上という至上命題のために、プライバシーデータを利用せざるをえない、という事情もあるでしょう。
プライバシーと技術革新のトレードオフについて、どのように私たち消費者を納得させ、社会的な信用を得るのか。今後ますます、プライバシーとセキュリティに対する各社の取り組みが注目されていくことでしょう。
盗聴問題は、Appleのような私的企業に限った問題ではありません。
歴史を見れば、米FBIによる盗聴の歴史、エドワード・スノーデンの告発など、たくさんの事例があります。日本でも警察庁による盗聴(2019年6月1日から施行された改正通信傍受法の問題)が懸念されるなど、決して対岸の火事ではありません。
さらに、中国共産党とのつながりが深いといわれるBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)の個人データの取り扱いや表裏のある取り組みについても注視していかなければならないでしょう。
Voista Mediaでは、さまざまな企業の音声データに関する取り組みについて、これからも追いかけて行きたいと思います。