日常的な会議から、コンペ(コンペティション)への参加、社内研修や勉強会での発表、セミナー登壇まで、多くの人にとってプレゼン(プレゼンテーション)をする機会が当然のようにある時代です。
みなさんも経験しているとおり、プレゼンの上手い人と下手な人の差は歴然。
聞き手を魅了する感動的なプレゼン、内容が鮮やかに伝わってくるプレゼンから、頭の中に「?」がたくさん浮かぶプレゼン、聞いているのが苦痛になるプレゼンまで、実にさまざま。
では、その差はどこにあるのかというと、内容そのものよりも話し方や伝え方にあります。
プレゼンが上手になりたい人にぜひ勧めたいのが、ボイスレコーダー(スマートフォンの録音アプリやICレコーダー)の活用です。事前練習の際、音声を録音し、聞き直してブラッシュアップすること、プレゼンの機会があるたびにそれを繰り返すことが、上達への一番の近道です。
それでは、話し方や伝え方の観点から、プレゼンが上達するコツを解説していきましょう。
プレゼンの練習では、ボイスレコーダーを活用しよう
当然ながら、練習をしないよりも練習をしたほうが、確実によいプレゼンになります。さらに、ボイスレコーダーで音声を録音し、ブラッシュアップに活かすことで、いっそうよいプレゼンにできるでしょう。
あとで詳しく説明するように、話し方や伝え方で改善すべき点を、第三者になったつもりで客観的に把握できるからです。ただ話す練習を3回するよりも、録音の聞き直しを1回するほうが、よいブラッシュアップができます。
自分の音声を聞き直すのは、はじめのうちは気恥ずかしさを感じるかもしれませんが、何度も聞き返しているうちに慣れるものです。
なお、プレゼンの練習を動画で記録するのもよいのですが、スマートフォンやカメラの置き方、自分の服装や周囲の環境などに気を使いますし、プレイバックの際に耳と目の両方を奪われるのが難点です。むしろ、音声だけのほうが内容に集中でき、改善点を見つけやすいでしょう。
音声を聞き直すときに、意識するポイント
プレゼン練習の音声を聞き直す際は、まず全体的な印象や聞き取りやすさを確認しましょう。特に意識したいポイントは、次の3つです。
- 声の大きさ
- 滑舌やイントネーション
- 話すスピード
まず、普段話すときよりも大きな声を心がけること。必要以上に大きくする必要はありませんが、会議やコンペなど、比較的少ない聞き手に話す場合でも、はっきりと大きな声で話しましょう。
一方、勉強会やセミナーで、ある程度の広さの会場であれば、マイクが用意されていることが多いはず。この場合は、意識して大きな声にしなくても大丈夫です。
もっとも困るのが、そこそこの広さで、それなりの収容人数なのに、マイクが用意されないケース。声をだいぶ張り上げないと、全員が聞き取れません。腹式呼吸の発声法に慣れていなければ、途中で声が枯れてしまうでしょう。
このように、参加人数や設備によって、適切な声の大きさが異なります。事前に会場の広さやマイクの有無を確認しておき、どの程度の声の大きさでプレゼンをすればよいのか、心構えをしておきましょう。本番を想定した声の大きさで練習するとベターです。
次に、滑舌です。聞き手は、ボソボソとした話し方からは暗い印象を、ハキハキとした話し方からは明るい印象を抱くものです。普段よりも口を大きく動かし、ハキハキと話すことを心がけましょう。
イントネーションにも要注意。誰にでも、ある程度の訛り(なまり)や発音のクセがあるとはいえ、不自然なイントネーションが多いと、聞き手は違和感を覚えます。音声を聞き直し、自分にとって要注意の言葉を見つけ、イントネーションが乱れないように気をつけましょう。
最後に、話すスピードです。早口にならないように、ていねいな発音を心がけるのが原則。一言一句に気を配って発音するくらいが、結果として聞き手が聞きやすいスピードになるでしょう。
また、特に自信がない部分ほど、早口でさっと通り抜けたい気持ちになるものです。準備が足りていないことの証しでもあるので、内容そのものをブラッシュアップしましょう。
例外として、滑舌が非常によい人であれば、話すスピードが多少早くても問題ありません。むしろ、弁舌に優れたよい印象を与えます。また、専門分野に関するプレゼンで、聞き手も全員、その分野に精通している場合は、ゆっくりと話すよりもスピーディに話したほうがよいでしょう。
逆に、初心者向けの勉強会、年齢層が高い人向けのセミナーなどでは、いつも以上にゆっくりと、ていねいに話すようにします。
7つの秘訣で、話し方や伝え方がグッとよくなる
全体的な印象や聞き取りやすさの改善とあわせて、次の7つの視点からプレゼンを見直しましょう。
話し方や伝え方が格段によくなります。
1. 無意味な言葉や口癖に気をつける
人前で話す際は、緊張や気持ちの高ぶりから、「はい」「えーと」「あのー」などの無意味な言葉を多用しがちです。
聞き手の反応がなく不安だったり、次に話すことを頭の中で探していたりと、無意味な言葉が出てしまうには理由があります。完全になくすのはむずかしいものですが、なるべく少なくするように心がけます。
聞き苦しさを感じない言葉として、勢いや弾みがつく「さて」や「さあ」があります。意識的に「はい」「えーと」「あのー」を「さて」や「さあ」に変えるようにすると、プレゼン全体が引き締まります。
悪い例
はい、えーと、あのー
よい例
さて、さあ
また、「つまり」「要するに」「ちょっと」「あとは」など、言葉を切り出す際につけてしまう余分な言葉にも要注意。このような口癖は、普段の会話ではそれほど気になりませんが、一方的に話を聞く際にはとても耳につくからです。なるべく少なくするように心がけましょう。
2. ところどころで「間」や「タメ」をつくる
まさに立て板に水、最初から最後まで淀みなく流れるようなプレゼン。でも、言葉が右から左にすっかり抜けて、頭に何も残っていなかった。そんな経験はありませんか?
プレゼンに必要なのは、流暢な話し方ではありません。熱意をもって内容を伝えることです。言葉に詰まるのは決してマイナスではなく、真摯な姿勢や人柄を伝える補助線になります。
このことを意識的に利用すると、プレゼンがよくなります。一本調子で話すのではなく、ところどころで「間(ま)」や「タメ」をつくりましょう。「◯◯をご存知ですか?」「◯◯について少し考えてみてください」といったあとに間を空けたり、メッセージ的な内容に入る際、5秒くらい黙ってから話し出したり、といったことです。
プレゼンの中に、あえて無音部分をつくること。
はじめは勇気が必要ですが、聞き手との呼吸を合わせる気持ちで、落ち着いて間やタメを取り入れてみましょう。
なお、話し手と聞き手の時間感覚には、実は大きな差があります。話し手は頭をフル回転させているので、いつもの10秒が20秒に、1分が2分に感じられます。これが、聞き手の退屈を恐れて早口になってしまうこと、矢継ぎ早に話を進めてしまうことの理由です。
3. たまに演台から離れる
社内研修や勉強会、セミナーなどで参加者が多い場合は、演台や机にパソコンをおいてプレゼンするケースが多いものです。しかし、話し手がずっと定位置で立ったまま話していると、聞き手は退屈です。
たまに演台から離れ、スクリーンに近づいて身振り手振りをまじえて伝えましょう。
聞き手に歩み寄って、前方にいる人に質問したり、意見を求めたりするのもよい方法です。練習の段階で、どのような質問をするか、どの部分で意見を求めるかを決めておきましょう。
4. 難解語や英語は正しい読みで
プレゼン中に触れる難解語や英語は、正しく読めるように事前に調べておきましょう。
たとえば、「矩形(くけい)」「脆弱性(ぜいじゃくせい)」「radius(レイディアス)」「false(フォルス)」を、間違って「たんけい」「きじゃくせい」「ラディウス」「フェイルス」と読み上げてしまうと、話し手に対する信頼が大いに損なわれます。
これらの読み方を知らないことが悪いのではなく、正しい読み方を事前に調べない怠慢にこそ、聞き手は不信感を覚えるのです。
普段から、読み方がわからない言葉をすぐに調べるクセをつけておくのがベストです。
5. 良し悪しよりも、好き嫌いを伝える
聞き手が聞きたいのは、当たり障りのない話よりも、当たり障りのある話です。論理的な「良し悪し」よりも、感情にもとづく「好き嫌い」から話し手の人柄が伝わり、話す言葉に血が通います。
もちろん、根拠のない主観を一方的に語るのはよくありませんが、「◯◯はよいとされているけど、私は苦手です」「いろいろと批判の多い◯◯ですが、個人的には好きなんですよ」といった話をすることで、人間味が伝わります。聞き手と心を通わせるには、感情をうまく表現することが大切です。
特に、好きなもの、好きなところを言葉で伝えるとよいでしょう。
たとえば、「◯◯という製品を使っています」とだけ伝えるのではなく、「◯◯という製品の◯◯の部分がとても好きなので、手放せません」と伝えたほうが、その製品のよさがいっそう伝わるのはもちろん、話し手の愛着がはっきりと感じられ、聞き手の心を動かします。
よい例
◯◯のこういうところが、たまらなくよくて…
◯◯の機能はイマイチですけど、それが改善されたら、もっともっと好きです。
6. 身近な話を加える
プレゼンの冒頭、緊張感やこわばった空気を緩和することを「アイスブレイク(氷を砕く)」といいます。
アイスブレイクといっても、無理に笑いをとろうとする必要はありません。天気、季節、最近のニュースなど、身近な話題を取り上げるだけで充分です。多くの情報番組が天気や時事の話からはじまるように、話し手と聞き手に共通の話題を切り出すことで、お互いの心の距離を近づける効果があります。
身近な出来事を話すのもよいでしょう。「ここまで、地下鉄の◯◯線で来たのですが、車窓から見る風景が3年前に来たときと大きく変わっている」「昨日、打ち合わせに行ったら、◯◯ということがあって」といった、取りとめのない話でまったく構いません。目的は、話し手と聞き手が等身大で向き合えるようにすることです。
特に、イベントスペースやレンタル会議室で行う勉強会やセミナーでは、聞き手は日常と異なる空間に身を置くため、多少の不便さや窮屈さを感じているはずです。誰にでも共通する世話話、プレゼンとは直接関係のない身近な話をすることで、聞き手の心を自由にし、居心地をよくする効果があります。
7. 対象外の聞き手に配慮する
聞き手の中には、プレゼンの対象外の人がいる場合かもしれません。
大規模なセミナーでは、ある人はビジネスの話、ある人はテクノロジーの話、ある人はデザインの話というように、扱うテーマが複数にわたるケースがあります。また、小規模な会議やコンペであっても、その分野に詳しくない新人、役員、他部署や関係会社の人が出席するケースがあるでしょう。
このような場合は、対象外の聞き手をケアすることを意識し、言葉選びや伝え方を工夫しましょう。たとえば、次のようなことに気を配ります。
- 専門用語には簡単な説明を加える
よい例
UX、つまりユーザー体験のことですが…
誰にでも手に入る日用品、いわゆるコモディティになってしまい…
- どのような気持ちで聞いたらよいのかを伝える
よい例
コードを書かない人は、「エンジニアって、けっこうたいへんなんだな」という気持ちで聞いてもらえたら、うれしいです。
すでに◯◯をご存知の方は、自分が人に教える立場になったときを想像して、聞いてください。
- 聞き手にとって身近な人を思い描いてもらう
よい例
社内の別の部署に◯◯という役割の人がいますよね。その人は、実はこういう仕事をしているんです。
息子さんや娘さんが◯◯に興味をもっていたら、ぜひ今日聞いた話を伝えてあげてください。
総じていえば、聞き手が疎外感を覚えないように気を配る、ということになるでしょう。聞き手は、自分がそのプレゼンの対象外とわかっていても、放ったらかしや置いてけぼりにされることを望みません。
せっかく同じ時間と空間を共有するのだから、どのような立場の人にも快適な時間を過ごしてもらいたい。練習の段階から、そんな気持ちで準備しましょう。
まとめ
以上、話し方や伝え方の観点から、プレゼンが上達するコツを説明しました。
プレゼンというとスライドの巧拙ばかりを意識しがちですが、「話し手が主、スライドは従」であり、話し方や伝え方を改善することが、よいプレゼンのためにもっとも重要。そのためには、ボイスレコーダーでプレゼン練習を録音し、ブラッシュアップすることが欠かせません。
みなさんのプレゼン力の向上に、この記事が役立てば幸いです。