2025年(令和7年)6月11日に、労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が改正されました。多くの規定が公布日に、一部の規定は2026年(令和8年)4月1日に施行されます。
今回の改正法は、昨今話題になっているハラスメント問題への対処を主眼に置きつつ、主に次の4つが改正ポイントとなっています。
- 顧客などからのカスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置の義務化
- 求職者などに対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)防止措置の義務化
- 治療と仕事の両立支援の推進
- 女性活躍推進に関する情報公表義務の拡大
以下、それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
顧客などからのカスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置の義務化
事業主に対して、顧客や取引先からの著しい迷惑行為(カスハラ)による労働者の就業環境を害することがないよう、防止のための措置を講じることが義務付けられます。
改正法でのカスハラの定義は、
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
となっています。
具体的な防止措置の内容は、今後、厚生労働大臣が定める指針で示される見込みですが、パワハラなどと同様に、
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談体制の整備・周知
- 発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置
などが事業主に求められると予想されます。
カスハラに関する相談や事実確認への協力などを理由とする不利益な取り扱いも禁止されます。
なお、カスハラ防止措置については、東京都のカスハラ防止条例など、各自治体での取り組みが先行しています。詳しくは以下の過去記事をご覧ください。
過去記事:東京都の「カスハラ防止条例」とは? カスハラの一律禁止や当事者の責務について詳しく解説
求職者などに対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)防止措置の義務化
事業主に対して、求職者(就職活動中の学生など)やインターンシップに参加する者に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)の防止措置を講じることが義務付けられます。
こちらも、これまでの職場におけるセクハラ防止措置や上記のカスハラ防止措置と同様に、方針の明確化、相談体制の整備、対応・抑止措置などが求められます。
少し補足すると、方針の明確化の点では、求職者に面談などを行う際のルールを定めておくこと、対応・抑止措置の点では、求職者から相談があったときの対応方法、被害者への謝罪などのルールを定めておくことが必要となるでしょう。
がんなどの治療と仕事の両立支援の推進
事業主に対して、がんなどの疾病を抱える労働者の治療と職業生活の両立を促進するため、必要な措置を講じる努力義務が課されます。
参考資料として、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」によれば、
- 疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%(平成25年調査)
- 仕事を持ちながら、がんで通院している者の数は32.5万人(平成22年調査)
- 脳・心臓疾患につながるリスクのある血圧や血中脂質などにおける有所見率は53%(平成26年調査)
とされ、治療と仕事の両立で悩んでいる人、苦しんでいる人の割合は、決して少なくないことがわかります。
また、このガイドラインでは、たとえば「休暇制度、勤務制度の整備」の観点からは、
- 休暇制度
- 時間単位の年次有給休暇
- 傷病休暇・病気休暇
- 勤務制度
- 時差出勤制度
- 短時間勤務制度
- 在宅勤務(テレワーク)
- 試し出勤制度
などの充実が望ましいとしており、改正法の「必要な措置」を考える上で参考になるでしょう。
参考:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(PDF)
女性活躍推進に関する情報公表義務の拡大
これは関連法である「女性活躍推進法」の改正内容ですが、常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の事業主に対しても、男女の賃金差異や女性管理職比率などの情報公表が義務付けられます。
また、女性活躍推進法の有効期限(令和8年3月31日まで)を令和18年3月31日まで10年間延長、女性活躍の推進に関する取り組みが特に優良な事業主に対する特例認定制度(プラチナえるぼし)の認定要件に、求職者などに対するセクシュアルハラスメント防止に係る措置の内容を公表していることを追加するなどの改正も行われています。
まとめ
今回の「労働施策総合推進法」の改正は、よりハラスメントの少ないクリーンな職場環境の整備と、多様な働き方を支えるための企業の取り組みをさらに強化するものです。
企業(事業主)には、改正法の施行に向けて、就業規則や各種規程の見直し、相談体制の整備、研修の実施などの対応が求められます。特に、実店舗で労働者が顧客と接する機会の多いB2C企業は、カスハラ防止措置の整備が急務といえるでしょう。