ホーム ビジネス 裁判外紛争解決手続(ADR)とは? 民事上のトラブルを短期間、少ない費用で解決しよう

裁判外紛争解決手続(ADR)とは? 民事上のトラブルを短期間、少ない費用で解決しよう

この記事のサマリー

  • ADRは、民事上のトラブルを柔軟かつ短期間に解決するための制度
  • ADRには主に「あっせん」「調停」「仲裁」の3つがある
  • さまざまな分野で、業界団体や民間機関がADRセンターや相談窓口を設置している

目次

法的なトラブルを解決するには「裁判」しかないとお考えの方。裁判外紛争解決手続(ADR)をご存知ですか?

ADRは「Alternative Dispute Resolution」の略で、「代替的な紛争解決」という意味。一般的には「あっせん」「調停」「仲裁」といった言葉が使われます。裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(通称「ADR法」)では「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与してその解決を図る手続」と定義されています(第1条)。

裁判(訴訟手続き)は長期にわたることが多く、弁護士費用などの負担が大きいものです。一方、ADRは紛争について専門的な知識を備えた第三者に関わってもらいつつ、当事者の合意や仲裁人の判断によって、柔軟かつ短期間に紛争解決につなげられる可能性があります。また、ADR機関に支払う費用だけで済むため、当事者双方にとって金銭的な負担が少ないというメリットもあります。

以下、ADRに関する基礎知識を解説します。

ADRにおける「あっせん」「調停」「仲裁」の違い

ここで、ADRにおける「あっせん」「調停」「仲裁」の違いを確認しておきましょう。

あっせん

主に労働分野の紛争について、第三者にあっせん人(専門家など1名)となってもらい、あっせん人が当事者の間に入って両者の言い分を聞き、和解をうながすという紛争解決手続です。あっせん人は1名でよいので、法律的または技術的な争点が少ない事案に適しています。当事者同士が合意できない場合は和解は成立しません。したがって、あっせんの手続を利用してもあっせんの成立が強制されることはなく、合意できない場合にはその時点であっせんは終わります。

あっせん制度は裁判所による裁判とは異なり、裁判の公開の原則が当てはまりませんので、紛争解決の手続や結果を双方とも秘密に処理したいというニーズに合致します。

根拠法は労働関係調整法(集団労働紛争)や個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争)などです。

調停

第三者に調停人(裁判官や専門家など3名)となってもらい、調停人が当事者の間に入って両者の言い分を聞いた上で調停案を示し、当事者同士がこれに合意するという紛争解決手続です。あっせんと同様、調停人はあくまで当事者同士の和解をうながすもので、当事者同士が合意できない場合には和解は成立しません。したがって、調停の手続を利用しても調停の成立が強制されることはなく、合意できない場合にはその時点で調停は終わります。

調停制度は裁判所による裁判とは異なり、裁判の公開の原則が当てはまりませんので、紛争解決の手続や結果を双方とも秘密に処理したいというニーズに合致します。

なお、調停には、裁判所が行うもの(民事調停、特別調停、労働審判。後述参照)と、裁判所以外の機関が行うものがあります。裁判所が行う調停において和解などが成立した場合、その調停調書の記載には裁判所による判決と同じ法的強制力があります。

根拠法は民事調停法などです。

仲裁

第三者に仲裁人(専門家など3名)となってもらい、仲裁人が当事者の間に入って両者の言い分を聞き、仲裁判断を下すという紛争解決手続です。裁判所以外の機関が行う調停との違いは、当事者の双方が裁判所で裁判を受ける権利を放棄し、仲裁人に判断を委ねるという仲裁契約の締結が必要であること、仲裁手続を利用することを当事者同士が合意すると、仲裁人が下した仲裁判断には裁判における判決と同じ法的強制力があることです。

仲裁制度を利用することで、調停制度と同様、裁判よりも比較的簡易な手続きで、早期に解決できることがあります。また、仲裁制度にも裁判の公開の原則が当てはまりませんので、紛争解決の手続や結果を双方とも秘密に処理したいというニーズに合致します。

根拠法は仲裁法などです。特に知的財産分野については、「日本知的財産仲裁センター」が知的財産を巡る紛争一般の仲裁(あっせん、調停)を、東京国際知的財産仲裁センターが「知的財産を巡る国際的な紛争の仲裁(あっせん、調停)を行っています。

ADRを行うのは、裁判所と裁判所以外の2つ

ADRには、裁判所が(訴訟手続きではなく)行うもの、裁判所以外の機関が行うものの2つがあります。

裁判所が行うADR

裁判所が行うADRとして、次の3つがあります。

民事調停

金銭の貸し借り、物の売買をめぐる紛争,交通事故をめぐる紛争、離婚(夫婦関係調整)などの生活に身近な紛争や、専門的知識を必要とする紛争など民事に関する紛争について、裁判官(または調停官)と民事調停委員2名により構成される調停委員会を交えた当事者間の話し合いによって、お互いが合意することで紛争の解決を図る手続きです。

特定調停

多重債務整理に特化した民事調停制度です。借金をしている人がこのままでは支払いを続けていくことが難しい場合に、生活の再生などを図るために債権者と返済方法などを話し合う手続きです。

労働審判

司法制度改革の一環で2006年から導入された、労働審判法にもとづく制度です。労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争について、裁判官と労働審判員2名により構成される労働審判委員会が調停による解決を図り、それができない場合には労働審判委員会の判断としての労働審判を行うものです。

労働審判については、過去記事「録音データを証拠にパワハラで訴えられた! そのときにできる対応策と、処分に不服なときは」で解説していますので、参考にしてみてください。

裁判所以外の機関が行うADR

行政機関や民間機関(多くが士業団体や公益法人など)が行うADRです。

たとえば、知的財産に関する紛争、商品の欠陥に関する紛争、職場におけるハラスメント紛争、マンションに関する紛争など、さまざまな民事上のトラブルが該当し、行政と民間のどちらか、または両方が対応している場合があります。

分野 取り扱う紛争の範囲
民事一般
  • 民事に関する紛争
特定分野 商事一般
  • 商事に関する紛争
  • 下請取引に関する紛争
知的財産
  • 知的財産に関する紛争
  • ソフトウェアに関する紛争
  • 商標法及び不正競争防止法における侵害行為に関する権利者と業者間の紛争
消費者
  • 電子商取引に関する紛争
  • 商品の欠陥に関する紛争(自動車)
  • 留学に関する紛争
  • ブランド品に関する売買契約紛争
  • 特定商取引に関する紛争
  • 日本国内において締結された、旅行業を営む事業者と消費者との旅行契約に関する紛争及びホテル営業、旅館営業又は簡易宿所営業を営む事業者と消費者との宿泊契約に関する紛争
  • 商品の欠陥に関する紛争(家電)
  • デジタルプラットフォームに関する紛争
事業再生
  • 中小企業における債権債務の整理に関する紛争
  • 事業再生に関する紛争
事業承継
  • 中小企業の事業承継に関する法的紛争
金融・保険
  • 金融商品に関する紛争
  • 共済契約に関する紛争
労働
  • コンビニエンスストア本部と加盟者間のフランチャイズ契約に関する紛争
  • 労働関係紛争
  • 職場におけるハラスメントの紛争
生活環境
  • 外国人を一方の当事者とする職場環境等に関する紛争
  • 不動産の価格に関する紛争
  • 外国人の職場環境等に関する紛争
  • 愛護動物に関する紛争
  • マンションに関する紛争
  • 敷金返還等に関する紛争
  • 不動産賃貸借に関する紛争
  • 土地の境界に関する紛争
  • 外国人を一方の当事者とする騒音、ゴミ処理その他の日常生活に関する紛争
  • 不動産の取引、管理、施工、相続その他の承継に関する紛争
  • 土地の境界に関連する相隣関係の紛争
交通
  • 自転車事故に関する紛争
  • 自転車事故又は自動車の物損事故等に関する紛争
家事
  • 家事・相続に関する紛争
  • 親族間における感情的対立や親などの財産の管理に関する紛争
  • 子の監護(面会交流)に関する紛争
  • 子の監護に関する紛争
  • 夫婦関係等に関する紛争
  • 外国人を一方の当事者とする身分関係に関する紛争
  • 相続に関する紛争
  • 外国人を当事者とした夫婦と親子に関する紛争
スポーツ
  • スポーツに関する紛争
エネルギー
  • 電力系統の利用に関する紛争

参考:法務省 かいけつサポート「取り扱う紛争の範囲」

なお、ADRによって紛争が解決した事例は、法務省 かいけつサポートの「解決事例」をご参照ください。

ADRを行いたい場合、どこに相談すればいい?

ADRは裁判とは異なるとはいえ、専門家の助力を得たり、その紛争分野に関する専門的または技術的な知識が必要となったりと、一般的な企業や個人では対応できない可能性が高いといえます。

したがって、次のような機関に相談するとよいでしょう。

ほかにも、さまざまな個別分野に対応した機関があります。詳しくは「紛争名+ADRセンター」「紛争名+紛争解決センター」などで検索してみてください。

まとめ

以上、ADR(裁判外紛争解決手続)に関する基礎知識を解説しました。

裁判は長期間にわたり、金銭的な負担も大きいため、ADRで早期解決をはかることは当事者双方にとってメリットが大きいはずです。多くの紛争について当事者同士が直接話し合ってADR制度を利用することはむずかしいため、ADR機関に相談し、第三者の助言やサポートを受けながら、和解や合意を目指すことになります。

何らかの生活トラブルやビジネス上のトラブルを被った場合は、裁判ではなくADRという選択肢もあることを覚えておきましょう。

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