みなさんは「サイバーハラスメント」という言葉をご存知ですか?
オンライン上で受ける嫌がらせや迷惑行為のことで、英語では「サイバーブリング(cyberbullying)」や「オンラインハラスメント(online harassment)」と呼ばれるのが一般的です。
また、オンラインゲームなどでアバターとして行動する仮想空間上でのハラスメントを「メタバースハラスメント」と呼ぶこともあります(過去記事:メタバースやネットゲームの女性型アバターは、セクハラを受けやすい。どのように対処する? 参照)。
サイバーハラスメントによる悲惨な結末
サイバーハラスメントとして記憶に新しいのは、2020年5月、女子プロレスラーの木村花さんが、出演したテレビ番組の内容をめぐってSNSで匿名の誹謗中傷を相次いで受け、自殺にまでいたったことです。また、俳優の三浦春馬さんの自殺も、SNSで起こった炎上事件がその一因といわれています。
なお、2023年4月から放映されているテレビアニメ『推しの子』(TOKYO MX)の第6話では、主要キャラクターたちが恋愛リアリティー番組「今からガチ恋始めます」(今ガチ)へ出演する姿を描写し、あるキャラクターが番組スタッフの求める「悪女役」を演じた結果、SNSで大炎上し誹謗中傷を浴びて思いつめたところを救われるというストーリーが、木村花さんの一件を想起させると話題になりました。
これに対して、木村花さんの母親が「実際にあった話をそのまま使うことで花を大切に想う人たちが深く傷つくことは想像できないのかな」と批判したことが明らかになりました。
このように、サイバーハラスメントは時として、人びとを長く苦しめ続けるということ、おもしろ半分で誹謗中傷をする側に加わることが、自殺という悲惨な結末を生む一因になりうることを、私たち一人ひとりが自覚すべきです。
仕事関係者からのサイバーハラスメント
仕事上のサイバー(オンライン)ハラスメントの一部は、リモートハラスメントに該当します。こちらについては、過去記事 リモートハラスメント(リモハラ、テレハラ)とは? 快適に働くための予防法や対処法を考える をご覧いただくとして、以下ではそれ以外のサイバーハラスメントについて考えます。
たとえば、同じ会社の同僚や上司、取引先などから受けた次のような行為は、ハラスメントに該当するといえるでしょう。
- メールやグループチャットで悪口を書かれた
- メールやグループチャットで無視をされた
- 実名がわかる表現や明らかに自分を指す表現で、SNS上で悪口を書かれた
- 個人宛のメールやチャットで、何度もしつこく嫌味や悪口をいわれた
メールやグループチャットなどクローズドな場所であれば、ばつの悪さがあるとはいえ、もし不当であれば反論ができますし、逆に自分に落ち度があれば謝罪も可能です。しかし、SNSなどオープンな空間に悪口を書かれてしまい、それに対して当事者がコメントをつけたりすると、野次馬が集まってきて事態が複雑になったり、最悪の場合は炎上にまで発展したりする可能性があります。
したがって、SNS上で受けた仕事関係者からのハラスメントに対しては、DM(ダイレクトメッセージ)で意図を確認したり、SNS以外のメールなどの手段で連絡をとるようにしましょう。
また、会社としては、SNSの利用ルール(ガイドライン)を従業員やアルバイトスタッフに周知する必要があります。個人の炎上が所属先にまで飛び火し、会社全体の信用毀損やブランドイメージの低下にまで発展することがあるからです。数年前、コンビニや飲食チェーン店のアルバイトスタッフによるSNSへの不適切な投稿から、マスコミまでを巻き込んで大炎上になったケースを思い出す方も少なくないはずです(「バイトテロ」という言葉で検索してみてください)。
個人としてのサイバーハラスメント
職場から離れ、プライベートでインターネットを利用している際も、ハラスメントは起こり得ます。たとえば、SNSやオンラインゲームなどで受けた次のような行為は、ハラスメントに該当するといえるでしょう。
- 実名や名前、住所、個人的な連絡先などをしつこく聞かれた
- 明らかに不当な悪口を書かれた
- 複数の人から示し合わせたように無視をされた
- 性的な表現で何度もからまれた
- 見たくもない写真を送られた
特にオンラインゲームには、多様な年齢の(場合によっては多様な国籍の)人たちが集まっています。中には中学生や高校生と思しきユーザーも参加しており(ゲームによっては小学生も)、社会性を十分に身につけていないままでコミュニケーションに加わっています。2019年の調査ですが、アメリカのゲームユーザーの65%が、オンラインゲームで深刻な嫌がらせを受けた経験があるという結果が出ており、ゲームに参加する際はこのような事実を心にとめておきたいところです。
もしハラスメントが看過できないほど酷い場合は、グループ管理者やサーバー管理者に連絡するなど、第三者の助力を得ましょう。
また、酷いケースとしては、直接の知り合いやオンラインで知り合った人から、
- ネットストーキング(ネット上でストーカー行為を受ける)
- リベンジポルノ(過去のパートナーから自分の性的な写真や動画を公開される)
といった行為を受ける可能性があります。
日本では、嫌がらせ目的で元交際相手や思いを寄せた相手などの性的な写真や動画をインターネットで公開することを防止する「リベンジポルノ防止法」が2014年に制定されました。この法律は、三鷹ストーカー殺人事件をきっかけに制定されたものです。
また、桶川ストーカー殺人事件を受けて2000年にストーカー規制法が制定され、逗子ストーカー殺人事件を機に2013年に第一次改正が、小金井ストーカー殺人未遂事件(被害者は重体に)を機に2016年に第二次改正が行われたように、社会的に大きな問題となった事件がきっかけとなり、規制や防止のための法律が制定・改正されることが多く、事態の深刻さを物語っています。
SNS上で受けた脅迫や殺人予告は、れっきとした犯罪です。もしこのようなことがあれば、すぐに警察に相談しましょう。
まとめ
以上、サイバーハラスメントの例をご紹介しました。
オンラインでのコミュニケーションは、私たちの生活を豊かにしてくれている反面、時に自分が不快に感じることも、意図せずに誰かを不快にさせてしまうこともあります。また、自分が備えている常識が、そのコミュニティの常識とは異なるケースがあり、そのギャップに戸惑うこともあるでしょう。
広がり続けるメタバースの世界。よきアバターとして、できるだけ自分がハラスメントに当たる行為をしないのはもちろん、他人の迷惑行為を見かけたときはうまくたしなめたり、諍いがあれば間に入って仲裁したり、大事(おおごと)にならないように立ち回ったりすることが大切だと、ひとりのユーザーとして考えます。