あなたの会社で、ウェブサイトに記事として掲載する前提で、専門家などの識者にインタビューをする必要があるとしましょう。
進行や書き起こしは、プロである外部のライターに任せたいところですが、あいにく予算も時間もありません。そこで、その大役が、なんとあなたに回ってきました――。
はじめてのインタビュアー。はじめての進行役。
いったい、何をどうすればよいのでしょう?
実際にインタビュアーや進行役を依頼されたとき、怖気づかずにすむように、プロのライターがこっそりと、インタビューの進行と録音のコツをお教えします。
なお、インタビューに似たものとして、対談や座談会についてもカバーします。
インタビューでは質問事項とシナリオを準備しよう
インタビューをする、あるいは対談や座談会を進行する人が、もっとも恐れることは何だと思いますか?
話し手から、話を上手く引き出せないことです。
相手が引き受けてくれたからといって、その人が必ずしも話し上手であるとは限りません。なかには、普段から寡黙で、口下手な人もいるでしょう。
質問を投げても投げても話がふくらまず、まったく盛り上がらないまま終わってしまった――という最悪の事態を避けるには、質問事項とシナリオをきちんと準備しましょう。
1. 質問事項を用意し、話し手に伝えておこう
インタビュー依頼を進める段階で、質問事項を話し手に伝えておきましょう。質問される内容が事前にわかっていれば、話せる内容、話したい内容を整理しておけるので、緊張や気負いなく本番に臨めるからです。
対談や座談会の場合は、参加者の名前や肩書き、簡単な経歴なども、全員に共有しておきます。
2. あらかじめシナリオを想定しておこう
質問事項は、単に思いついた順に並べてはいけません。原稿にしたときの起承転結を意識し、全体の流れを考えて並べましょう。
シナリオといっても、箇条書き程度の整理で充分です。このことを「骨子」や「プロット」といいます。
話し手の近況や活動などの話やすい話題から始めて、本題につながる質問は緊張がほぐれてきたころ、中盤以降に持ってきます。そして、結論として述べてもらいたい質問で、最後を締めましょう。
インタビューに必要なのは質問力と調整力
インタビューの場合、話し手が饒舌なタイプか口下手なタイプかによって、進行で気をつける点が変わってきます。
1. 答えに満足できなければ突っ込んで聞こう
事前にいくら準備したとしても、ひとつの質問に対してひと言しか返ってこない、ということもあります。特に、話し手が口下手な場合が該当します。
もし満足のいく答えがもらえなかった場合は、話し手に遠慮せず、さらに突っ込んで質問しましょう。少し緊張がほぐれてきたころに、表現を変えて先ほどと同じ質問を投げてみると、すんなりと話してもらえます。
2. 本来のテーマから反れたら軌道修正をしよう
話し手が饒舌なタイプなら、放っておいても上手く話してくれる、というものではありません。興に乗って話しているうちに、本来のテーマから反れてしまうことがよくあります。
そんなときは、タイミングを見て本題に戻るように、うまく軌道修正をしましょう。
対談・座談会では高いレベルの調整力が必要
対談や座談会の場合も、基本的な準備や心構えはインタビューと同じです。ただし、話し手が増えるからこそ気をつけたいことがあります。
1. 音声を聞き直したときに、誰の発言かわかるようにしよう
その場では一人ひとりの顔が見えていますから、誰が何を話しているのか、はっきりとわかります。ところが、いざ音声を聞いてみらた発言者が判別できない――ということが起こるのです。
実際の声と録音された声は微妙に違って聞こえますし、同性が数人いれば、そのうちの誰かと誰かは声が似ていたりします。
音声を聞いたとき、その発言が誰のものかわかるように、進行の仕方にも工夫をしましょう。
たとえば、次のような感じです。
- 始める前に、自己紹介として名前を名乗ってもらう。
- 簡単な座席表を書き、発言者の名前にA、B、C……と記号を振る。発言した順番を「A→B→C→B…」のようにメモしておく。
- 話題を変えるときには、進行役が名前を呼んで、話し手を指名する。
2. 発言がほぼ均等になるように、交通整理をしよう
話し手が数人いれば、話し上手な人も、口下手な人もいます。対談でも座談会でも、参加者それぞれの発言回数や量がほぼ均等になるのが望ましいでしょう。
消極的な人には話を振り、饒舌な人には適当なところでさりげなく話を切り上げて次の話者の発言をうながすなど、場がスムーズに流れるように交通整理をしましょう。
もちろん、当日の進行でうまく差配するには限度がありますので、原稿としてまとめる段階で発言の量や流れを調整することになります。
ここまで読んでみて、いかがでしょうか。進行に精一杯で、とても発言内容をメモする余裕はなさそうだな――と思っていませんか?
だからこそ、インタビュー、対談、座談会にはボイスレコーダー(ボイレコ)が欠かせないのです。
続いて、スマートフォンのボイレコアプリやICレコーダーで上手に録音するコツをお伝えします。
ボイスレコーダーで録音する前に確認すること
ボイレコで録音をスタートするとき、絶対に避けなければいけないのは「電池切れ」と「故障」です。録音はやり直しできない、ということを肝に命じておきましょう。
1. 充電したばかりのバッテリーや新品の乾電池を使おう
直前に慌てることのないよう、スマートフォンは充分に充電しておきましょう。ICレコーダーで充電式の場合はあらかじめバッテリーの残量を点検し、充電しておきます。電池式なら新品の乾電池を使いましょう。
録音が長時間にわたる場合、予備のバッテリーや乾電池を用意しておくと、さらに安心ですね。
2. ボイレコは予備を含めて2台用意しよう
場所によっては音声が拾いにくいこともあります。また、持って行ったボイレコが、実は故障していないとも限りません。
備品に余裕があれば、ボイレコを2台用意するとよいでしょう。ひとつはスマートフォン、もうひとつはICレコーダーでも構いません。
ボイスレコーダーで上手に録音するポイント
ボイレコの録音ボタンをただ押すだけでOK――ですが、すべての話し手の声をできるだけクリアな音で、満遍なく録音するためには、置く場所ひとつにも気を配りましょう。
1. 置く場所は人の輪の中央が基本
インタビューでは聞き手と話し手の間(少し話し手寄りにしてもよいでしょう)、対談や座談会ではテーブルの中央にボイレコを置くのが基本です。
録音をし始めて、声が小さい人、聞き取りにくい人がわかってきたら、その人に少し近づけるとベストです。
話し手が多く、広いテーブルの端から端まで人が座っているような座談会では、2台をそれぞれ中央よりもやや左右に寄ったところに離して置くようにすると、全員の発言を満遍なく録音できます。
2. 雑音を軽減できるように、プラスαの工夫をしよう
できるだけクリアな音で録音するためには、状況に応じて次のような工夫をしましょう。
- ボイレコの下にハンカチやハンドタオルを敷く。
- キータッチの音が入らないように、パソコンを使っている人の近くに置かないようにする。
- 喫茶店や飲食店で行う場合は、事前にお店に相談し、比較的静かな席を用意してもらうか、個室があれば予約する。
3. 録音を始める前に、話し手に許可を求めよう
録音をする際、さも当然のように黙って開始するのは、話し手に失礼です。
インタビューや対談では相手に、座談会では全員に、きちんと許可を求めましょう。「聞き間違いのないように、録音させていただきますね」と伝えれば、嫌がる人はまずいません。
4. ボイレコが作動していることを目視で確認しよう
電池の準備にも置く場所にも抜かりはなかったのに、録音がスタートしていなかった――では、元も子もありませんよね。
録音ボタンを押した直後は必ず、できることなら終了するまでに数回、ボイレコが動作していることを確認しましょう。
音声データの取り扱い方
無事に本番が終わりました。ボイレコの録音を停止し、ひと安心したいところですが、まだ気を抜いてはいけません。
せっかく録音したデータは、最後までていねいに扱いましょう。
1. 本編の前後の雑音はそのままにしておこう
安全のために、早めに録音をスタートさせておき、終わってからしばらくして停止する、つまり、実際の時間よりも長めに録音することが多いのではないでしょうか。
当然、本編に関係のない音声が録音されているわけですが、データを自分で編集(トリミング)しようとしてはいけません。誤ってデータそのものを消去してしまったり、必要な部分を削除してしまう恐れがあるからです。
もちろん、操作に慣れている人であれば構いませんが、それでも録音してからすぐに編集するのはお勧めしません。数か月に一回、貯まったデータを整理する際にまとめて編集するほうが安全です。
2. データは作業がすべて終わるまでボイレコ本体にも残しておこう
ボイレコで録音したデータは、パソコンやストレージサービスに保存し、書き起こし作業を進めるのが一般的でしょう。あるいは、スマートフォンやICレコーダーにイヤホンをつないで、音声を聞きながら書き起こしをするかもしれません。
いずれの場合も、ボイレコ本体にデータを残しておくことをお勧めします。パソコンやストレージサービスに移したデータが正常に保存できていなかった、壊れていた、といった事故がないとも限らないからです。
書き起こしが終わったあとも、数か月はデータを残しておくとよいでしょう。万が一、記事の中身について確認したいことが出た場合、元の発言内容にさかのぼれるからです。
まとめ
以上、インタビュー、対談、座談会の進行や録音のコツを、プロのライターの視点から解説しました。
いかがでしたでしょうか?
インタビュアーや進行役をはじめて担当する場合、当然、緊張すると思いますが、これらのポイントを押さえておけば、きっと上手くいくでしょう。
あなたの奮闘を応援しています。