2022年4月から育児・介護休業法(正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)の改正法が施行され、男性育休が義務化されました。詳しくは、前回の記事 男性が受けた「パタハラ事件簿」。2022年4月からの「男性育休」義務化で、何がどう変わった? をご覧ください。
さて、10月1日からは、男性も生後8週までに最大4週(2回に分割可)の産休を取れる「産後パパ育休」という制度がスタート。
時代は「亭主元気で留守がいい」と言われていた数十年前から大きく変わり、男性からも「育児に参加したい」という意志が強くなっているようです。
しかし、人手不足であったり、社内整備が不十分であったりする中小企業では、「女性ですら育休は取りにくそうなのに……」という声も少なくないかもしれません。
厚生労働省のイクメンプロジェクトの特設ページのデータによると、「育児休業を希望していたが取得できなかった」とする男性労働者が約3割もいるそうです。
あなたの会社でもいつ「育休を取得したい」という男性従業員が現れても不思議ではありません。もし部下や同僚が育休の取得を希望した際に、背中を押してあげる準備はできていますか?
今回は、実際に「男性育休を社内で初めて取得した」というAさんから伺った実体験エピソードをご紹介します。Aさんがどのような考えで「男性育休」を希望したのかをご覧いただき、男性育休の必要性や社内整備について考えてみてくださいね。
エピソード1
「育児に参加しないと、いずれ離婚される」
中小企業に勤める30代のAさんは、結婚して数年の妻との間に子どもを授かりました。Aさんの妻は以前から子どもを夫婦で育てることを強く希望しており、妊娠を大変喜んだそうです。
しかし、つわりなどの体調不良や、ホルモンの変化による精神的な不調などで、Aさんの妻の心身は日々変化。Aさんも妻のサポートや家事を行うことが少しずつ増えたそうです。
たとえば、
- 家族分の買い物 …… 重たいものも多く、家族が多ければ多いほど大変
- 料理の支度、料理、後片付け …… 休みの日であれば1日3回、下ごしらえも必要で時間がかかる
- リビングだけではなく、お風呂やトイレの掃除 …… 妊娠中はしゃがむ姿勢も辛そう
- ゴミ出し …… ゴミの分類を考えるとほぼ毎日で、忙しい朝のうちに行わなくてはならない
などなど。
仕事から家に帰った後や休日に買い物や家事を手伝う中で、自分の想像以上に妻に頼っていたと感じたAさんは、「家事と育児の両立」というこれまでのルーティーンでは賄えない負荷が発生した場合に、どれだけ大変になるだろうと感じたそうです。
買い物では、子どもを抱えながらたくさんの物は買えず、夫婦の物であれば「今日じゃなくてもいいか」と判断できても、子どものおむつや薬などはそうはいきません。食事も、夫婦だけであれば外食でよくとも、乳児や幼児と一緒では自由にはいかず、掃除やゴミ出しの間に大人が目を離してしまったら、子どもを見守る人がおらず、万一のことが心配されます。
産後の生活をシミュレーションしてみればみるほど、子育てはハードワークだと感じ、「こんな大変なことを妻に丸投げしては、いずれ離婚される」と確信したAさん。
Aさん夫妻の知人の中には両親に手伝ってもらったという人もいたそうですが、コロナ禍のためサポートに来てもらうことも難しく、また両親の知識は30年前のものであるため、Aさん夫妻は「夫婦でゼロから今の子育てスキルを身につけていくほうがいいのではないか」と話し合ったそうです。
そこで、以前「男性育休の義務化」について少しだけ耳にしていたAさんは、育休の取得を会社に掛け合ってみることにしたのでした。
しかし、一般的な中小企業であるAさんの会社では、もちろん「男性育休」は前代未聞であり、苦労も多かったようです。
エピソード2
「半年育休は長すぎない? という社内の声」
産前産後のサポートから赤ちゃんのミルクサポートなどを考え、半年間の育休を取ることを心に決めたAさん。
育休に入る前の引き継ぎ期間にも、「そんなに取る意味はあるの?」「男がいても役に立たないんじゃない?」など、Aさんの男性育休には懐疑的な声があったそうです。
パタハラ(パタニティハラスメント)とまではいかずとも、肩身の狭さを感じたAさんでしたが、「ここで断念すれば後輩はもっと育休取得が難しくなるだろう」「一番大変なときに家族より仕事を優先するようでは、子どもが大きくなったときに父親として信頼されないだろう」と考え、自身を奮い立たせたようです。
Aさんはこの経験を通して、出生率を高めたいという国の政策に合わせて「男性育休」の義務化が決まっていても、社会として「男性育休の取得」をしやすい土壌を作っていくことが別の問題として重要。また、出産と子育てについて甘く考えられがちな中で、男性育休を選択できること、男性が育児に積極的に関わることで社会がよい方向に変わっていくのではないかと感じたそうです。
現在育休中のAさんは、「あとに続く後輩たちのためにも、職場復帰後も仕事と育児を両立させたライフワークバランスで働きたい」と語っており、さまざまな分野で人手不足が叫ばれる中、子育てをしやすい環境の会社が、よい人材を集め、いっそう発展していくのではないかと考えさせられました。
産後パパ育休と、従来の育休制度
Aさんのエピソードは以上です。
以下、産後パパ育休について、詳しく説明します。
まず、産後パパ育休と従来の育休制度(育児休業制度)の違いはご存じでしょうか?
どちらも育児・介護休業法で定められている制度であり、次のようなスケジュールで段階的に施行されますが、特に2022年10月1日からの産後パパ育休の創設と育児休業の分割取得が大きなポイントです。
施行スケジュール
2022年4月1日~ |
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2022年10月1日~ |
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2023年4月1日~ |
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産後パパ育休と育休制度の違い
前述の施行スケジュールの通り、2022年10月からには従来の育休制度にも変更があります。もっとも大きな違いは、原則として分割して取得できなかった育休を、分割して2回取得することが可能になること、育休開始日を柔軟に選べるようになることです。
また、産後パパ育休は、育休制度とは別に取得可能ということもポイントです。
出典:厚生労働省 「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」(PDF)
母親が産休・育休制度、父親が産後パパ育休の取得し、その後は父母が必要に応じて育休制度を取得する、というイメージだとわかりやすいでしょう。
今後は働き方・休み方がいっそう柔軟に
育休の分割取得が可能になるため、次のような働き方・休み方も実現できます。
出典:厚生労働省 「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」(PDF)
このように、夫婦間で育休時期をずらしての取得や、職場や家庭の事情に合わせた柔軟な取得が可能になります。
より詳しい内容は、出典元のリーフレットをご覧ください。とてもわかりやすくまとめられています。
産後パパ育休の制度上の意義
産後パパ育休は、Aさんのように1年間とはいかなくても、特に妻のサポートが必要な産後直後にフォーカスし、夫が最大4週まで産休を取ることを支援する制度といえます。
本来であれば、男性(夫)でも女性(妻)でも、育休は最大1年間(子どもが1歳になるまで、条件によっては2歳になるまで)取得できます。また、いくつか条件がありますが、育休を1年2か月に延長する「パパ・ママ育休プラス」という制度もあります。しかし、特に男性の長期の育休取得は社会的なハードルが高いため、現実に合わせて「産後パパ育休」という制度を新設した、というのが実情だと考えます。
実際に、子どものいる男性の間では「産後の妻のサポートが不十分だと、一生うらまれる」という意見がよく聞かれるそうです。夫婦円満や家庭円満のためにも、産後パパ育休はもちろん、改正法によって柔軟になった育休制度を上手に利用しましょう。さらに、社会全体としてそのことを理解し、歓迎する雰囲気を醸成することが大切です。
まとめ
小さな子どもの育児や、それにまつわる家事の大変さは、単に見聞きするだけ、想像するだけではわからないことが多いものです。
Aさんとは別の方ですが、先日、Twitter上で次のツイートがバズっていました。
先輩に
「いつも定時で帰って家事育児って何してるの?」
って聞かれたのでこれを送ったらドン引きされたんだが、みんな同じじゃね?
(掃除とか入れるの忘れたwww) pic.twitter.com/yDsogX0gRq— ゆーすーパパ(ゆ6y2m+す3y3m+28w) (@inthepandora) September 7, 2022
育児中のパパさんが、一日のタイムスケジュールを詳細に示したものですが、このツイートに対して「着替えだけで20分かかることもある」「食べてくれなかったりこぼしたり、さらにイレギュラーが発生する」といった反応が見られました。
このように具体的なタイムスケジュールを見ると、育児の経験のない人でも「苦労が偲ばれる」との思いが胸に迫るでしょう。
夫婦でいっそう子育てがしやすい環境を、社会で作っていきましょう。