学生に対して長時間の叱責を行ったり、理不尽な理由での単位不認定、退学や留年勧奨、デートや性交渉の強要(セクシャルハラスメントにも該当)など、大学や研究室での指導者と学生の立場の差を悪用した「アカデミック・ハラスメント(アカハラ)」が深刻化しています。
実はここ2か月のうち、すでに3件のニュースがありましたので、内容の一部をご紹介します。
なぜアカハラが起きてしまうのか、また被害に遭ってしまった場合にはどのように行動すべきかについても簡単にまとめています。現状を知り、社会的な問題としてぜひ一緒に考えてみましょう。
2022年7月〜8月のアカハラ事例3選
1. 鳥取大学の50代教員が複数の女性生徒に対しセクハラで停職6か月
2022年7月14日、鳥取大学の教員が指導する学生に対し、セクシャルハラスメントや教育または研究の適正な範囲を超えた不適切な言動を繰り返し、アカデミックハラスメントと認められる行為を行っていたとし、停職6か月の処分がありました。
ちなみに、鳥取大学では2022年の1月にも50代の男性教授がアカハラで停職10日の処分を受けているとのこと。
1月の停職10日に対し、7月は停職期間が6か月と長期になっていますが、加害者が別の教員によるものか、同一の教員によるものかは発表がなされていないようです。
2. 京都大学の教授・助教の2名が、暴言・セクハラで懲戒処分
2022年7月26日、京都大学の化学研究所で指導していた50代の教授と30代の助教の2名が、研究所に所属していた学生に対して資質を否定するような発言や、性的な言動を繰り返し行ったとして処分されました。
暴言によるアカハラを行った50代男性教授は減給半日分の懲戒処分、セクシャルハラスメントを繰り返した30代の助教授は停職10日の処分を受けたとのことです。
参考:京都新聞 「『資質否定発言』アカハラやセクハラ言動、京都大が教授と助教を懲戒処分」
3. 東京大学にて、コロナに感染した学生が、授業欠席・補講受けられず 「留年」
こちらは、新型コロナウイルスの感染に伴う新しいアカハラ問題です。各種メディアでも大きく取り上げられたので、ご存知の方も多いでしょう。
2022年8月4日、東京大学教養学部2年生の男子学生が同年の4月から5月にかけて新型コロナウイルスに感染し、症状が重篤化。ある科目において新型コロナウイルスに感染した場合の欠席や補講のルールが明確に定められておらず、補講を受けることも叶わずに単位が不認定とされ、留年を余儀なくされたというものでした。
こちらの件については、対象の学生が救済措置を求め続けている最中ではありますが、コロナウイルスが蔓延していく中、学校や学部学科によって対策が不十分な場合には、問題が大きくなる可能性があります。
参考:Yahoo!ニュース「 【速報】東大生 コロナ感染で授業欠席、補講受けられず 『留年』決定 『感染学生を助けるため力を貸して』」
アカハラの例
特定非営利法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)では、アカハラを「研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為」と定義し、次のような例を示しています。
- 学習・研究活動への妨害
- 卒業・進級妨害
- 選択権の侵害
- 指導義務の放棄、指導上の差別
- 不当な経済的負担の強制
- 研究成果の収奪
- 暴言、過度の叱責
- 暴力
- 誹謗、中傷
- 不適切な環境下での指導の強制
- 権力の濫用
- プライバシー侵害
- 他大学の学生、留学生、聴講生、ゲストなどへの排斥行為
出典:NAAH アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク「アカデミック・ハラスメントとは」
このように、企業におけるパワハラやセクハラと共通するものだけでなく、大学や研究機関に特有のハラスメントが存在します。このことが社会的な興味関心が広がらない理由のひとつとなっていますが、アカハラ問題が明るみになる状況が数年前から続いており、社会全体として取り組むべき課題となっています。
アカハラが発生する背景
大学は、民間企業のように労働基準監督署など公的な機関のチェックがありません。
また、大学の研究室では、多くの場面で指導者の判断が優先されるなど、指導する立場となる教員と学生の間には圧倒的な立場の差があります。また、「象牙の塔」という言葉があるとおり、専門的で閉ざされた世界で研究を続けている指導者の中には社会的な常識が欠けてしまっている場合もあります。社会経験が浅い学生たちは「おかしい」と思いつつも、立場の差によって何も言えないことが多いのです。
前述のハラスメント事例のとおり、被害学生の将来に大きな傷をつける行為であるにもかかわらず、短い期間の停職処分という例も多いのが現状です。
学生が、人格を否定する暴言、性行為の強要などの被害に遭ってしまった場合、その後の人生に大きなトラウマが残るケースも少なくないでしょう。どのような理由があれ、教育を受ける側も教える側も一人ひとりが対等であり、個人として尊重されるべき存在です。
東京大学では、以下のとおり「アカデミックハラスメント防止宣言」を掲げています。教育の現場ではどこでも当てはまる本質的な宣言ですので、紹介しておきます。
自由と自律性がこれほど手厚く保障されている大学では、構成員の間に一般社会とは異なる権力関係が生ずる。教員と学生およびそれに準ずる者との関係を例に取ると、そこには教育・指導・評価を与える者とこれを受ける者という、非対称的な力関係が存在する。教員は学生等に大きな影響力を及ぼす存在である。その権力は、当然のことながら、教育という目的の実現のために各教員に付託されたものである。教育には厳しさが必要だが、それは学生を対等な人格として認め、その人格を尊重することが前提である。教員が学生に与える、教育・指導・評価は、あくまで厳正・中立・公正・公平なものでなければならない。権力のあるところには常に濫用の危険が存在する。教育・研究のために多くの自由と自律性が保障されている大学においてはなおさらである。
権力のあるところには常に濫用の危険が存在する。教育・研究のために多くの自由と自律性が保障されている大学においてはなおさらである。東京大学憲章が定めている、「すべての構成員がその個性と能力を十全に発揮しうるよう、公正な教育・研究・労働環境の整備」(東京大学憲章 19)を図るためには、こうした権力の濫用を防止するための体制が整備されなくてはならない。
出典:東京大学アカデミックハラスメント防止宣言(PDF)
アカハラに遭ってしまったら
もしアカハラ被害に遭ってしまった場合は、次の2つの対策を検討しましょう。
できるだけ証拠を集めておくこと、「自分の気にしすぎかもしれない」などと悩みを抱え込まずに相談することが大切です。
1. 録音やメモなどの証拠を残しておく
暴言や性的発言などの場合は録音が有効です。最近では小型で性能の高いボイスレコーダーも安価で購入しやすくなっていますし、スマートフォンの無料アプリもたくさんあります。
無料のAI録音アプリ「Voistand」では、録音した音声が自動でカレンダーに紐づけされ、AIによる文字起こしデータや、録音場所の位置情報も記録されるため、データの管理や振り返りがとてもしやすくなるのでおすすめです。
iOS(iPhone/iPad)版とAndroid版がありますので、以下からダウンロードをしてお使いください。
iOS版(App Store) | https://apps.apple.com/jp/app/id1544230010#?platform=iphone |
Android版(Google Play Store) | https://play.google.com/store/apps/details?id=com.voistand.app |
特に、アカハラが常態化している場合には、発生日時や頻度が重要になります。
録音がむずかしい場合でも、発生日時や内容をできるだけ細かくメモしておくのがおすすめです。
2. アカハラ相談窓口を利用する
ハラスメント相談窓口を設立する大学も増えてきました。もし被害に悩んでいる方や身近で被害に遭っている方がいる場合は、所属する大学に相談窓口があるか調べてみましょう。
また、文部科学省でも問題視されており民間企業のハラスメント防止措置を追いかけるようにアカハラ問題についても言及されています。文部科学省の資料では、外部機関を活用したアカハラ防止例が3つ紹介されているので、紹介します。
出典:文部科学省「文科省等におけるハラスメント対策に関する取組」(PDF)
もし大学に窓口が設置されていなければ、学生課や学内カウンセラーなどに相談することもできます。また、外部機関として、前掲の特定非営利法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)などの利用も検討しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
大学や研究機関で行われるハラスメントは、被害者の未来を閉ざし、技術・文化の発展を妨げるだけでなく、研究結果の不正など社会的な問題に発展する場合があります。表面化しにくい問題ではありますが、権力をかざして立場の弱い相手に不当な言動をぶつけることは、れっきとした人権侵害です。
世の中全体でアカハラに目を向けることで、学生たちがのびのびと学びを広げ、深められる社会を作っていきましょう。