新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、テレワーク(リモートワーク、在宅勤務)が大幅に増えた人が多いはずです。また、子どものいる家庭では、臨時休校で子どもも一緒に自宅におり、一日のほとんどを家族で一緒に過ごす人も珍しくありません。
このような中、家庭内でのハラスメント、つまり「ドメハラ(ドメスティックハラスメント)」が問題になっています。具体的には、夫婦間や親子間でのモラハラ(モラルハラスメント)や、時に暴力をともなうハラスメントが行われているようです。
以下、ドメハラが生まれる原因を考えたあと、具体例や予防法を見ていきましょう。
ドメハラが生まれる原因は?
これまでは一日数時間を一緒に過ごしていた家族が、ほぼ丸一日過ごすことになれば、自然と摩擦が増えることは容易に想像できます。
筆者が子どもを含む家族3人で生活している経験から、家族に共通の原因、夫婦やパートナー間での原因、子どもに関する原因に分けて整理してみます。
家族に共通の原因
- 外出自粛にともなうストレスの増加
- ウイルスの感染防止に関する心理的な負担
- 報道やニュースによる不安の増幅
- ストレスを発散する機会の大幅な減少
夫婦やパートナー間での原因
- 家事に関する負担の増加や役割分担
- お互いの生活態度に関する不満
- 収入の減少に関する不満
- お金の使い方に間する不満
- 会話が増えたことで、価値観の違いがいっそう浮き彫りに
子どもに関する原因
- 子どもの生活態度に関する不満
- 物音や騒音に関する不満
- 遊具やゲームなどの要求の増加
- 勉強方法や教え方に関する問題
- 今後の教育に関する不安
これらの中で、ビフォーコロナのころから何となく感じていたこともあれば、ウィズコロナによって新たに生まれた問題もあるでしょう。
よくも悪くも、普段であれば気にならなかったこと、多少であれば我慢できたことが、長時間を一緒に過ごすことで顕在化したのではないかと思います。たとえば、夫婦で洗濯物の干し方や掃除の仕方が違ったり、小学生の子どもに算数を教えるとして、父親と母親では教え方が異なったりするかもしれません。些細な違和感も、積み重なると大きなストレスになり、口喧嘩などに発展する可能性があります。
また、外出自粛という物理的な行動制限も、心理面に大きく影響しているでしょう。週末に繁華街に買い物に行くことも、遠出をして自然を楽しむこともできない状態が長く続き、ストレスを発散する機会が大きく失われています。
筆者は家で過ごすことがまったく苦にならないタイプですが、週末も外出を控えるとなると、やはり鬱屈した気分になるときがありました。たまに子どもと近くの公園で遊ぶときも、「人がたくさんいないだろうか」「長い時間いるのはよそう」「帰ったらすぐに服や荷物に次亜塩素酸水をかけ、手洗いを徹底しよう」と、普段にはない緊張感があり、気づかないうちにストレスが蓄積されていたはずです。
ドメハラの具体例は?
ドメハラの大部分が、モラハラ(モラルハラスメント)に該当するものです。モラハラは、道徳(モラル)を理由とした精神的な苦痛や嫌がらせを指します。詳しくは、モラハラとパワハラの違いとは? モラハラの定義と対処法をきちんと理解しよう を参考にしてください。
さらに、ドメハラがエスカレートすると、暴力をともなうことがあります。従来から「ドメスティックバイオレンス(DV、家庭内暴力)」として知られる行為です。
DVに該当する行為としては、身体的暴力と精神的暴力が代表的です。
身体的暴力は、殴る、蹴る、物を投げつける、首を締める、凶器で傷つけるなどの行為です。刑法第204条(傷害)や第208条(暴力)で処罰の対象とされ、家庭内であっても当然、許されません。
精神的暴力は、大声で怒鳴る、侮辱する、無視をする、脅すなどの行為です。このような行為が続けば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの疾患にいたる可能性があり、身体的な暴力と同様、刑法での処罰の対象となりえます。
ほか、経済的暴力(生活費を渡さない、無計画な買い物を繰り返すなど)、社会的隔離(外出や通信を制限する、両親や友人から隔離するなど)、性的虐待(性交や性的行為を強要する、恥辱的な行為を求めるなど)もDVに該当します。
これらのDVは、夫婦間だけでなく親子間で行われるケースもあります。一般的には、腕力や体力が強い者から弱い者へ、つまり、夫から妻に、親から子どもに対して行われることが多いでしょう。
不幸にも、度が過ぎるモラハラやDVが行われている場合には、まずは近親者や友人に相談しながら、家族で話し合いの機会をもつことが大切と考えます。
特に、ウィズコロナによってモラハラやDVが生じたのであれば、これまでの生活態度を振り返ったり、お互いの気持ちを率直に話し合ったりすることで、前向きな解決策が見つけられるはずです。
もしこのような話し合いでも解決の糸口が見いだせない場合は、相談支援センターなどの公的な相談窓口、弁護士会などの民間の相談窓口、カウンセラーや法律家などの専門家への相談を検討することになるでしょう。
ドメハラの予防法は?
パソコンでのデスクワークが中心の業種業態では、これからもテレワークという働き方が取り入れられることになるでしょう。
仕事と家庭の区別がますますなくなり、これまではスーツや仕事着に着替えたり、通勤で電車に乗ったりすることで気持ちを切り替えてきた人は、家にいても柔軟に気持ちを切り替えられるようにする必要があります。また、家ではどうしても仕事の中断が多くなりますので、パソコンに向かったらすぐに集中力を取り戻せるように心がけましょう。
一方で、仕事モードのときは、家族とのコミュニケーションが面倒になったり、煩わしくなったりするものです。それはそれで仕方のないことですが、家族にきちんと理解や協力を求める、散歩や食事を理由にひとりの時間を作るなど、なるべくストレスを貯めずに過ごせるようにしましょう。
家族の誰かがイライラしていると、ほかの人に伝播し、無用なトラブルを生みます。周りの機嫌をとるだけでなく、自分の機嫌をうまくとる方法を見つけることが大切です。
筆者も、仕事が忙しいときや、その日の気分によっては、家族の声や物音を疎ましく思ったことがあります。妻は妻で、子どもの家庭学習のサポートが苦になり、精神的なバランスを失したことがあります。
解決策として、
- 飲食店のテイクアウトやデリバリーをたびたび利用し、家事負担を少なくする
- 子どもの家庭学習のサポートを分担する(夫である筆者は、国語、レポート、日記などを担当)
- 仕事の時間を分散する(早朝から仕事に着手する)
- 夫婦で率直に話し合う機会をもつ(互いにお願いしたいことなど)
- 子どもと勉強や生活について話し合う機会をもつ(ケジメをつけるべき点など)
といったことを継続し、仲よく暮らせる状態を保っています。
また、子どものいる家庭は、夫婦間の問題よりも、子育てや教育に頭を悩ませることが多いものです。この機会に夫婦で真摯に話し合い、「子育ての目的は何なのか」「何のために勉強をするのか」などの考え方をすり合わせておくことが大切です。
この記事が、ドメハラについて冷静に考えるきっかけになれば幸いです。