コロナ禍で外出自粛や在宅勤務が多くなり、家族で過ごす時間が増えている人が多いでしょう。一方、恋人同士では対面でのコミュニケーションが減っているかもしれません。人と人との接し方や心の距離に変化が起き、パートナー間の喧嘩や家庭不和が増加傾向にあるようです。
機嫌のよいときは優しいのに、機嫌が悪いとすぐに喧嘩になったり、別人のように豹変したり。常にあなたの欠点にあれこれとダメ出しをして責任転嫁をしたり、人格否定をしたり。そんなパートナーの姿に心当たりはありませんか?
「自分に悪いところがあったから、相手を怒らせてしまったんだ」
「いつかまた優しいあの人に戻ってくれる」
と、悲しみや辛さを心のうちに閉じ込めているはずです。
このような状況が日常化してしまっている場合でも、「きっとみんな同じ。DVやモラハラまではいかないだろう」と考えているかもしれません。
パートナーの機嫌が悪くなったときや喧嘩になったとき、本当に悪いのはあなただけでしょうか?
今日は、そのような悩みや違和感を抱えている方に、DVやモラハラの具体例と、「もしかしたら……」と思ったときにおすすめしたい解決策を解説します。
DV・モラハラは暴力だけではない
DV(ドメスティックバイオレンス)は暴力、モラハラ(モラルハラスメント)は精神的な加害行為と定義されがちですが、実はモラハラもDVの一部に含まれます。
日本では、DVは「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使われることが多いとされますが(内閣府男女共同参画局)、暴力にはそもそも殴る・蹴るといった身体的外傷をともなうものだけではなく、人格の否定や威圧感を与える行為も含むのです。
政府広報オンライン(内閣府大臣官房政府広報室が運営)は次のようなDV行為の具体例を示しており、たとえば「何を言っても長時間無視し続ける」「生活費をわたさない」といった暴力に該当しない項目も挙げられています。
身体的暴行
- 殴る、蹴る
- 物を投げつける
- 身体を傷つける可能性のある物で殴る
- 刃物などを突きつける
- 髪をひっぱる、突き飛ばす、首を絞める
- 熱湯をかける(やけどさせる)
心理的攻撃
- 大声でどなる、ののしる、物を壊す
- 何を言っても長時間無視し続ける
- ドアを蹴ったり、壁に物を投げつけたりして脅す
- 人格を否定するような暴言を吐く
- 暴力行為の責任をパートナーに押しつける
- 子供に危害を加えるといって脅す
- SNSなどで誹謗中傷する
- 交友関係や電話・メールを細かく監視する
- 行動や服装などを細かくチェックしたり、指示したりする
- 家族や友人との関係を制限する
- 他の異性との会話を許さない
経済的圧迫
- 生活費をわたさない
- デート費用など、いつもパートナーにお金を払わせる
- お金を借りたまま返さない
- パートナーに無理やり物を買わせる
性的強要
- 無理やり性的な行為を強要する
- 見たくないのに、ポルノビデオやポルノ雑誌を見せる
- 避妊に協力しない
- 中絶を強要する
出典:政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201411/1.html
たとえば「生活費をわたさない」について、「収入に対し妻(被扶養者)の生活費の要求がキツすぎて夫(稼得者)のお小遣いが困窮する状態にある」といった場合も該当します。つまり、男性から女性へ、という一方的なものではないことを理解しましょう。
さて、ひとつでも思い当たる場合には、解決すべき問題として向き合ってみてはいかがでしょうか。
DVに関する法律は「配偶者暴力防止法」
具体例がいくつも当てはまってしまった方。すでにDV被害を自覚して怯えながら日々を過ごしている方。加害者であるパートナーと「別れたい」と思っても、すぐに別れられないのがDVの一番厄介なところだと思います。
別れ話をするたびに暴力や脅しに悩まされている、経済的な自立について不安がある、といった場合もあるでしょう。
夫婦や同棲しているカップルの場合には、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)」という法律があります。
裁判所への申し立てによって保護命令が下れば、法的に「被害者への接近禁止命令」「退去命令」「被害者の子や親族等への接近禁止命令」などが決定され、保護命令に違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
参考:男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/about_danjo/law/no_violence/dvhou.html
配偶者暴力防止法は、同棲をしていない交際中のカップル間のDV(いわゆるデートDV)には、残点ながら適用されません(過去に同棲をした経緯があり、解消後も引き続き暴力を受けている場合は対象となる可能性が高くなります)。
しかし、カップルの場合でも、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強制わいせつ罪、侮辱罪などにあたる可能性があります。
参考:デートDVとは? 恋人間の暴力への法律的な対策を弁護士が解説(ベリーベスト法律事務所)
https://sakai.vbest.jp/columns/divorce/g_other/2727/
まずは第三者や窓口にDVの相談を
DVの被害者になってしまった場合、加害者との間には恐怖による支配関係が成立してしまっている可能性があります。「恋人・夫婦の問題だから」と、二人だけで乗り越えようとせず、第三者への相談や介入を検討してください。
友達、知人、親族など身近な方に相談しにくい場合には、公的な相談機関を検討しましょう。各都道府県の相談ダイヤルや、民間で支援を行っている団体もあり、匿名での相談も可能です。「DVかな?」と思ったら、まずは相談してみましょう。
所持金が少なく、生活や住居について不安なときは、市町村のDVセンターや福祉事務所に相談するのがよいでしょう。
お子さんがいる場合には、市町村から何らかの手当を受けられる可能性があるので、お住まいの地域の役所に相談してみましょう。
手当の例
- 児童扶養手当
- 児童育成手当
- 住宅手当
- ひとり親家族等医療費助成制度
お子さんがいない場合でも、夫婦がDVを理由に別居した際は「婚姻費用分担請求」が可能な場合があります。金銭的な問題がネックになってる場合、まずは上記のような機関や窓口に相談してみてはいかがでしょうか。
関係改善にはカウンセリングを
加害者に自覚があり、何度も「もうしない」「許して欲しい」といったやりとりがあり、被害者も共に乗り越えたいという場合には、DVの専門外来や支援団体でカウンセリングを受けることを検討しましょう。
加害者を突然、カウンセリングに連れて行くのはリスクが高い場合には、まずは被害にあわれている方から受診しましょう。
加害者のほとんどに、自身の認知や価値観の歪みが背景にあるといわれています。「すぐに浮気を疑う」「問題が起きた場合に白黒つけないと気が済まない」といった場合も、問題は両者の関係の中ではなく、物事の捉え方が歪んでおり、何事にも不安や怒りを覚えてしまう加害者の心にあることが多いそうです。
また、長期間、DV関係にあった場合、被害者側の判断が正常に働きにくくなってしまっている可能性が高いため、客観的な意見を聞き、判断を正常に戻すためにも、カウンセリングを受けることをおすすめします。問題の本当の所在がどこにあるのか、心のプロに相談することで少しずつ整理できるようになります。
相談や法的な訴えの前に、まずは証拠集め
自分自身で関係改善に努めてみる、第三者に相談する、法的に訴える……いずれの場合にも、事前に証拠となりそうなものを集めましょう。
証拠の例
- 会話の録音
- メールやLINEのやりとり
- 日記や手紙
- 破損した器物、散乱した部屋の写真
- ケガをした場合、患部の写真
- 通院を要した場合、医師の診断書
会話の録音は、加害者と被害者が明確にわかるように名前が含まれる音声がよいので、長時間録音できるICレコーダーを使いましょう。置き場所などについては、パワハラにはボイスレコーダーを盾に対抗。経験者がパワハラの証拠集めに有効な録音方法を教えます を参考にしてください。
メールやLINEのやりとりは、写真を撮り貯めておくとよいでしょう。
スマホや携帯電話をチェックしたことがバレてしまうことで、さらにトラブルになりそうな場合は、データを自分のスマホやパソコンに残さず、すぐにクラウドストレージにアップロードしておくとよいでしょう。
GoogleドライブやDropboxなど、無料でインターネット上にデータを保存できるサービスがあります。手元に置いておくのが難しい場合は、これらのクラウドストレージにデータを移動させておきましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
パートナー間で具体的なDVにまでいたっている場合は、一度立ち止まって、自分のこと、相手のこと、生活全体を見つめ直してみましょう。録音した会話を聞き直すと、自分自身でも「これはおかしいかも」と気づくかもしれません。
DVによる精神的な苦痛が長期間続くと、自身の健康を損ないかねません。体の不調だけでなく、後年にわたって続く精神疾患につながる可能性もあります。
ひとりで「ちょっと喧嘩が多いだけで、これくらいは普通」「昔は優しかった」「子供のために別れられない」と悩まずに、勇気を出して一歩踏み出してみてください。