ホーム ハラスメント 男性社会の暗黙の了解、女性軽視や同性愛嫌悪。「ホモソーシャル」の社会的な問題とは?

男性社会の暗黙の了解、女性軽視や同性愛嫌悪。「ホモソーシャル」の社会的な問題とは?

この記事のサマリー

  • 女性や同性愛の排除・軽視の上で成立する男性間の結びつきが「ホモソーシャル」
  • 男性の心理的葛藤と明治以来の家父長制などで、日本人男性に多いとの指摘も
  • 男性間の暗黙の了解が同調圧力を生み、集団セクハラや性加害に発展することも
  • ホモソーシャルの環境下では、男性間のハラスメントも多発しやすい

目次

特に日本で一部のコミュニティに根強く残っているのが、「男同士の絆」や「男同士の友情」を深めるという価値観です。

体育会系、軍隊、任侠……いわゆる男性だらけの世界の空気感を想像するとわかりやすく、異性愛者であることが前提といわんばかり、別の性である女性を排除・軽視し、時にネタとして扱うことで、生み出される独特の価値観と同調圧力

2022年にニュースとなった、陸上自衛隊に所属していた女性が、訓練中に複数の男性隊員から性加害を受けたという性加害問題は記憶に新しいのではないでしょうか? また、まさにいま世間を賑わせているビッグモーター問題も、過剰なノルマや営業体質に加えて、パワハラやモラハラが横行していたという声もあり、いわゆる体育会的な風土があることが全社的な不正につながった可能性があるでしょう。

このような男性中心のコミュニティで生まれる空気感は、以前は「マッチョイズム(男らしさやたくましさを重視する考え方)」と呼ばれていましたが、近年では「ホモソーシャル」と呼ばれる機会が増えてきました。ホモソーシャルは、セクハラ、パワハラをはじめ、さまざまハラスメントを生みやすい土壌を作り、女性軽視や男性自身の生きづらさにもつながっているといわれています。

ホモソーシャルとは?

ホモソーシャル(homosocial)とは、女性や同性愛を排除することによって成立する、男性間の緊密な結びつきや関係性を意味する社会学の用語です。

もともとは、19世紀後半から20世紀にかけて欧米を中心に同性間の性愛関係を「ホモセクシュアル」と呼ぶようになったころ、それと区別するために男女問わず同性間の友情を示す言葉として「ホモソーシャル」と呼ぶようになったといわれます。

その後、1986年に英文学研究者のイヴ・セジウィックが書いた著書”Between Men: English Literature and Male Homosocial Desire(邦訳『男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望』)”によって、古典文学の中の伝世(後世に伝えること)における友情の変遷を追う中で、男性同士の友情関係と思えるようなものが、ミソジニー(女性嫌悪・蔑視)とホモフォビア(同性愛嫌悪)によって成り立っていることが指摘されたことから、社会学用語として一般的になったとされています。

日本でも昔から、「男らしい」「女々しい」「男のくせに」といった個人の特性ともいえるメンタルや仕草を、特定の性別でひとくくりにしてきました。特に男性文化の中では社会的・文化的な「男らしさ」とされる性質を「良」とし、「女性らしさ」とされる性質を持ち合わせている場合はそれらが揶揄され、排除されていきます。

精神科医の井上智介さんは「日本にホモソーシャルの傾向が強い理由は、男性自身の心理的葛藤と明治以来の家父長制にあります」と語ります。とてもわかりやすい記事がありましたので、要点を引用します。。

もともと男性が生まれて初めて会う女性は「母親」です。赤ちゃんのときに、母親がいないと生死をさまようほど、男性にとって母親は超重要人物。それだけ母親というのは偉大で完璧な女性というところからスタートします。しかし母親は全知全能であるがゆえに、自分の無力さを感じさせる存在でもあります。相手が助けてくれるのは、自分ができないから。

家父長制とは、家長である男性が、家の秩序を守るために権力を独占するもの。家父長制においては、男性は「女性から何かしら奉仕を受ける権利がある」という不文律があります。それが現代社会にも根強く残っています

会社ではお茶くみや、ロッカーや冷蔵庫の掃除は女性がすることが多い、外食したらサラダを取り分けるのは女性……など、そういう決まりが明確にあるわけではないけれど、ふわっと習慣化されていることがあります。

こうした家父長制の考えによって、女性をコントロールすることで男性は自分の中にある葛藤を消すことができます。絶対的に強い存在の母親に勝てないという満たされない部分を、弱い女性を支配することで満たされるわけですね。そこで強さを手に入れることができるのです。

「女性を支配することで葛藤を解消できる」、これが冒頭でお伝えした男性同士が共有する価値観なのです。女性を話題にしてウケを狙うのも、標的を定めていじめれば、男性同士の絆をより強めることができるからです。

出典:PRESIDENT Online「精神科医が分析「女性蔑視的な言動」でトラブルを起こす人の特徴」

男性による集団ハラスメントの土壌が作られる背景

古くから、人は他者と絆を深める際、まずは自分と「同族」であると知ることで安心する生き物です。相手が「自分と近い存在」であればコミュニケーションが容易であると予想でき、相手が敵として自分を糾弾や攻撃をしてくる心配もないからです。

SNS上で多くの共感を生んだ、サントリー ザ・プレミアム・モルツのCM「無言の父たち」では、幼稚園、公園、商業施設と、さまざまな場所で子育てに奮闘するお父さんたちが描かれていました。しかし、父親同士はお互いに言葉を交わすことなく、ナレーションでは「(でも父親同士は)すごくわかり合っている気がする」というナレーションが入れられていました。

参考:Youtube「『無言の父たち』篇 あばれる君夫婦 パパあるある ザ・プレミアム・モルツ CM動画」

このCMが「あるある」として受け入れられているように、男性間のコミュニケーションは女性間のコミュニケーションに比べて、言葉で伝え合うことや相互認識のすり合わせがなされることが少なく、「話さなくてもわかる」とされることが多いのです。

その少ない情報戦の中の思考連鎖として生まれやすいのが、「自分は男だ」「相手も男だ」という環境下で絆を深めようとしたときに、コミュニケーションのための手持ちのカードをミソジニー(女性嫌悪・蔑視)やホモフォビア(同性愛嫌悪)に寄せることで「同族」だと示したり、男性の競争社会の中でも負けないよう「(家父長制的な)男らしさ」を示したりといったことにつながるのではないかと思います。

そして、その集団が大きくなるほどに、今度は同調圧力という強いエネルギーが生まれてしまいます

さらに和を尊ぶ日本人だからこそ、同調圧力はどんどんに大きく育ってしまい、職場や学校での集団セクハラや性加害といった悲劇につながってしまうと考えます。

生きづらい男性たちが身近なヒーローになるかも

以前、真昼間の街中で、連れ添ってソープランドに入っていくスーツ姿のサラリーマン男性2人を目撃したことがあります。そのときは首を傾げたものですが、おそらくホモソーシャルが産んだ奇妙な「儀式」だったのでしょう。

ホモソーシャルによる男性間のハラスメント(セクハラやパワハラ)で悩む声には、次のようなものがあります。

  • 裸で温泉に入ることや人前で立ちションすることに抵抗がある
  • 社内行事などで服を脱ぐことを強要される
  • 下ネタを無理強いされる
  • 性風俗やキャバクラへ無理やり連れていかれる
  • 甘いものが好きだと言いづらい

これらは実は、近年「男らしさ」や「女らしさ」の考えを押しつけるような侵害行為(ジェンダーハラスメントやセクハラ)という、いわゆる「SOGIハラスメント」に該当するといえます。

SOGIハラスメントについては、過去記事で詳しく紹介していますので、ぜひ併せてご覧ください。

過去記事:いま知るべきSOGIハラとは? 「オカマ」「オトコ女」と嘲笑、「あの人はゲイ」と勝手な暴露

個々人がその人らしく生きていく社会を実現するためにも、いつまでもステレオタイプな性差で相手を判断していては、時代に取り残されてしまいます。理想論かもしれませんが、男性はCM「無言の父たち」のような殻を脱ぎ去り、より活発に目の前の相手を性別でくくるのではなく「ただひとりの人間」としてコミュニケーションをはかる必要があるのかもしれません。

差別をされたことがない人の多くは、「差別はない」といいます。しかし、もしホモソーシャルの中で少しでも生きづらさを感じたことがある人は、その根底にあるジェンダー観(男らしさや女らしさといった社会的な性差)やアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を見つめるきっかけにしてみてください

古いジェンダー観の裏に隠されたミソジニー(女性嫌悪・蔑視)やホモフォビア(同性愛嫌悪)で苦しめられている人の気持ちに寄り添える、そんな「身近なヒーロー」になれるのは、あなたかもしれません。

まとめ

今回、ホモソーシャルについて書く中で、今まで不思議で奇妙で(女性から見ると)時に少し嫌な「男性の内輪ノリ」の正体に近づけたような気がしました。

しかし、これもまだ「男性という性別」でくくって見るという、自分の中にある一種のステレオタイプなジェンダー観のタネなのかもしれず、本当のジェンダー平等のためには、何らかの枠でくくろうとすること自体が誤りなのかもしれません。

みんなが生きやすい世の中の実現に向けて、まずは家族や友達、仕事仲間といった「身近な他者」を知り、尊重するための積極的なコミュニケーションがいちばんの近道だと考えます。

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