ホーム ハラスメント 診察を拒否されることも!? 患者や家族からの医療関係者へのハラスメント「ペイハラ」とは?

診察を拒否されることも!? 患者や家族からの医療関係者へのハラスメント「ペイハラ」とは?

この記事のサマリー

  • 医療機関の約4割が患者や家族からのハラスメントを受けたことがある
  • 患者からのハラスメントは「ペイシェントハラスメント」と呼ばれる
  • ペイハラは「身体的な攻撃」や「意に反する性的な言動」が多い
  • 患者側の迷惑行為などを理由に「診療拒否」が正当化される場合も
  • ウェブサイトでの対応方針の掲示や診察中の録音などの対策を行っている病院も

目次

お客さんや取引先などからの悪質なクレームや暴言が「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれるように、医療の現場で患者から医療関係者への迷惑行為は「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」、そのような行為を行う患者を「モンスターペイシェント」(patient=患者・病人)と呼ぶことがあります。

福岡市医師会が行ったアンケート調査では、医療機関の約4割が患者や家族からのハラスメントを受けたことがあるという結果が発表されました。ペイシェントハラスメントの中には、暴言や暴力のほかに「医療費の不払い」や「診断への抗議」、特にコロナ禍では「発熱を理由にした診察拒否に対するクレーム」といったものが増えているようです。

参考:読売新聞オンライン「患者の暴力・ハラスメント、医療機関の4割が経験…『検査結果遅い』『熱下がらず医療費返せ』」

今回は、患者や患者家族から医療機関へのハラスメントについて、実態や背景をまとめました。気づかぬうちにペイハラを行わないために、また身近な人がペイハラに悩まされないために、ぜひ一読してみてください。

患者からの被害は「身体的な攻撃」や「意に反する性的な言動」が多い

患者がペイハラを行う対象は、医師や看護師をはじめ、リハビリに関わる理学療法士や作業療法士、受付や医療事務といったさまざまな医療関係者が含まれます。

厚生労働省が公表した令和3年度の「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する事案の労災補償について、請求件数、支給決定件数ともに「医療、福祉」が最も多くなっています(請求件数577件、支給決定件数142件)。

日本看護協会が公表した「2017年 看護職員実態調査」でも、勤務先または訪問先などでのハラスメントについて「身体的な攻撃」や「意に反する性的な言動」は患者からの被害が最も多かったという結果が出ています。

出典:日本看護協会「2017年 看護職員実態調査」(PDF)

具体的な内容としては、

  • 理不尽な要求をする
  • 大声で怒鳴りつける
  • 診療に協力しない
  • 担当変更の要求を繰り返す
  • 物を投げつける、壊す
  • 手を払いのける
  • 唾を吐く
  • 暴力を振るう(叩く・蹴るなど)
  • 卑猥な言動を繰り返す
  • 不必要に身体に接触する

    といったハラスメント行為があるようです。

    また、2021年12月には大阪・北新地のクリニックでの放火事件が、2022年1月には埼玉県ふじみ野市で医師を人質にとった立てこもり事件が相次いで起こるなど、医療従事者と患者との度を越したトラブルが世間に衝撃を与えたことも、記憶に新しいところです。

    増加するペイハラの背景

    ペイシェントハラスメントが起こる背景について、医学書院の「医学界新聞」にて、現役医師である安藤大樹さんが次のような興味深い見解を示していました。

    2001年に厚労省より出された「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」もその一因となりました。この指針の中で「患者の呼称の際,原則として姓名に『さま』を付することが望ましい」という通達が出されています。これはパターナリズムと呼ばれる以前の医師-患者関係によって生じていたさまざまな問題を解決するもので,指針自体が悪いわけではありません。ただ,これによって患者さん側に「自分はお客さまだ」という認識が生まれ,中には「わがままを言っても許される」と拡大解釈する方がいたのも事実です。また,医療技術が進歩したことや,医療情報が氾濫状態となったことで,「医者は病気を治して当たり前」といった風潮が生まれたのも原因でしょう。

    引用:医学書院 医学界新聞「モンスター・ペイシェント? “困った患者さん”にしちゃっているかも!?(安藤大樹)」

    要点をまとめると、次のとおりです。

    • 医療サービスの質の向上のため、病院では患者を「〇〇様」と呼ぶように指針を出したところ、医師と患者の間に患者が優位な力関係があるような認識が発生してしまったのではないか
    • 医療技術の発展や医療情報の氾濫により、「医師は病気を治して当たり前」という風潮も背景にある

    また、医師法第19条には「医師は診療を求められた際、正当な理由なく拒否できない」という「応召義務」が定められているため、「困った患者さん」を前にしても医師側が診察拒否などの毅然とした態度がとりにくいという点もあるようです。

    医師が「診療しないこと」が正当化されるケース

    医療行為を受けるにあたって、医師側に「診察に応じる義務(応召義務)」があるように、治療を受ける患者側にも「自身の健康や症状に関する情報を正確に伝える義務」や「診療に協力する義務」などがあります。

    また、応召義務の考え方についても整理・統合が図られ、2019年に厚生労働省から通知がなされており、注目すべき点として「従前の診療行為などにおいて生じた迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続けるなど」という記載が明確にあるため、もし患者側が著しい迷惑行為を行ってしまった場合には診療を受けられないことがありえるのです。

    診療しないことが正当化される具体的な事例は、厚生労働科学研究として平成30年度に実施された「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究について」で、

    • 基本事例:まず、緊急対応が必要なケースか、さらに診療(勤務)時間内かどうか
    • 個別事例:「患者の迷惑行為」や「医療費の不払い」といったケース別

    に整理されています。

    基本事例の整理

    個別事例ごとの整理

    コロナ禍の「発熱患者の診察拒否」は?

    さらに、コロナ禍によって問題化している「発熱患者の診察拒否」についても「特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない」との記載があります。

    新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)については、2020年2月1日に2類感染症相当(感染症法上の指定感染症)と指定されたため、「発熱」を理由に診察拒否することはできませんが、コロナウイルスに感染しており「感染症に対応できないこと」を理由として診察を拒否することは可能という見解もあります。

    参考:ニッセイ基礎研究所 コロナ診療での医師の応召義務-発熱患者の診療を一切拒否した場合、応召義務違反となるか?

    病院側ができるペイハラ対策

    過激化するペイハラと止まらない医療従事者不足を踏まえ、離職や退職に歯止めをかけようと、ペイハラ対応を行っている病院も少しずつ増えてきているようです。現時点では医療関係者を守るマニュアルは病院や施設ごとに作るしかなく、人手の少ない個人病院では対策が間に合わないという実情があります。

    2022年2月に厚生労働省がお店や企業向けに「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しました。これには、カスタマーハラスメントに対する事例や対策をまとめたマニュアルのほか、掲示用のリーフレットやポスターが含まれています。医療・介護分野にもマニュアルが出されることを期待しましょう。

    現状は、内部的なマニュアルの用意に加えて、次のような対策を行っている病院が見受けられます。

    ウェブサイトでの掲示

    病院などの医療機関のウェブサイト上に「患者さんの権利や義務」といったページを用意し、その中に「情報提供義務」や「診療協力義務」を記載している例が見られます。

    患者が快適な医療サービスを受けるには、医療関係者との信頼関係が不可欠であること、そのためには患者側の協力が必要であることを伝えるのに有効です。また、このような方針を周知しておくことで、万が一トラブルが発生したときも、その医療機関への信頼感の低下を防げます。


    社会医療財団法人 白十字会「患者さんの権利と義務」


    社会医療法人同愛会 博愛病院「患者の権利と責務」


    医療法人社団玄同会 小畠病院「患者さんの権利と義務」

    その他の対策例

    次のような対策や防止策を行っている病院があるようです。

    • 患者からの暴言や暴力に対する対応方針を掲示
    • 診察室に警察の電話番号を掲示
    • 監視カメラを設置(ダミーを含む)
    • 制止用具の設置
    • 患者さんには秘密で「避難経路」を病院内に用意
    • 関連法人の各医療機関の診察券を共通化し、モンスターペイシェントに対応
    • ボイスレコーダーを使用し、診察を実施

    参考:経営情報レポート「『モンスターペイシェント』に屈しない 組織で取り組む院内暴力への対応策」(PDF)

    まとめ

    時代劇や歴史物の映画やドラマでは「お医者様」と呼ばれ、一定の敬意を払われるシーンが描写されるかたわら、現代では患者側からのハラスメント行為に悩まされている医療関係者の方々が絶えません。

    もちろん、医療をする方と受ける方のどちらも平等で、立場に上下はないはずですが、医療サービスを受けられることが「当たり前」になり、顧客を大切にする姿勢がサービス提供側に強く求められる時代が続いたことが、感覚の逆転やアンバランスさの原因になっているのではないかという点は、ほかの「セクシャル」「モラル」「権力」といったハラスメントにも通じる問題なのかもしれません。

    医療現場でのハラスメントでは、今回取り上げた患者から医療関係者へのハラスメント(ペイシェントハラスメント)のほか、医師や看護師から患者へのハラスメント(ドクターハラスメント)の被害に悩まれている方も存在します。

    医療はプライバシーに関わるため閉鎖的になりやすい場ですが、「これってハラスメントかも?」と感じたら、ひとりで悩まずに医療安全支援センター、カウンセリングルーム、病院の然るべき窓口、弁護士などに相談しましょう。

    また、相談の際にはやり取りを音声や映像で記録するのもおすすめです。録音にあたっては、スマートフォンの無料アプリを使うと便利です。無料のAI録音アプリ「Voistand」では、録音した音声が自動でカレンダーに紐づけされ、AIによる文字起こしデータや、録音場所の位置情報も記録されるため、データの管理や振り返りがとてもしやすくなります。

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