聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder=APD)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
聴力そのものに異常はなくても、人の話を理解するのに困難がある、あるいは、理解に時間がかかるという障害です。つまり、難聴とは異なり、「聞こえているけど、理解できない」という特徴が、聴覚情報処理障害にはあるのです。
聴覚情報処理障害の原因は、耳から入ってきた情報を処理する脳の中枢神経(聴神経)に何らかの問題があり、言葉の処理がスムーズにできないこととされています。潜在的に約2%の日本人が該当するといわれています。
サンドウィッチマンの漫才やコントでよく出てくる「ちょっと何言っているのかわかんない」というセリフを、あえて真面目に分析すると、
- 声量や環境の問題(単によく聞き取れなかった)
- 話し手が話した内容の問題
- 聞き手の理解力や言語処理力の問題
の3つの要因から考えることができます。聴覚情報処理障害は、この中で3に該当します。
それでは、聴覚情報処理障害の特徴と対応策について、詳しく見ていきましょう。
聴覚情報処理障害(APD)のわかりやすい特徴
たとえば、
- 聞き返しが多い(「えっ?」「何?」とたびたび聞き返す)
- 雑音の中や音楽が流れる環境での聞き取りが困難
- 大勢の人の中での聞き取りが困難
- 電話の声が聞き取りにくい
- 聞くことへの注意が欠如しがち
- 耳で聞いたときの記憶力が弱い
- 耳で聞いたときの誤解が多い
- 名乗った相手の名前をすぐに忘れてしまう
- テレビ番組は音声よりもテロップ(字幕)が頼り
といった人は、聴覚情報処理障害の可能性があります。
程度の差こそあれ、これらのうち一部は多くの人に当てはまるでしょう。ただし、周りの人が困惑したり、迷惑に感じたりするくらいに頻繁であれば、聴覚情報処理障害かもしれないのです。
不安な人は、以下のチェックテストを試してみてください。
私個人は、雑音や音楽によって相手の話が理解しにくくなることはほぼありませんが、ほかの人の会話が聞こえる状況では相手の話が極端に理解しにくくなります。これは聴覚情報処理障害というよりも注意障害(特に選択的注意障害)の傾向があるのかもしれません。また、おそらく周りの人に比べて、大きな物音(物を落としたときの音、ドアを強く閉めたときの音など)が苦手です。
とにかく、誰にでも何らかの特異性が大なり小なりあり、それを自覚し、うまく対処することが、よりよく生きることにつながると考えます。
聴覚情報処理障害(APD)への対応策
聴覚情報処理障害への対応策として、次の4つが有効とされています。
1. 聞き取りやすい環境に整える
できるだけ雑音や音楽が小さい環境を選ぶ、話者同士の距離を縮めるなど、聞き取りやすい環境を心がけます。たとえば、打ち合わせを喫茶店で行うのではなく、会議室で行うなどです。
2. 注意力や会話力のトレーニングを行う
聞き取り時の注意力や記憶力を高めるトレーニングや、聞き取れなかったときの聞き返し方、スムーズな会話の進め方などを身につけることなどです。
たとえば、上手な聞き返し方として、単に「もう一度言ってもらえますか?」と聞くよりも、「もう少し詳しく教えてもらえますか?」「別の言い方ではどうでしょうか?」と聞くことで、内容を再確認する方法です。
3. 補聴器具を使う
特に子どもの場合、聴覚情報処理障害が学習困難につながる可能性があるので、耳に受信機をつけ、先生の声が発信機を通してその子に直接届くようにしたり、強いノイズキャンセリング機能を備えた補聴器を使ったり、というケースがあるようです。
大人であれば、騒音を大幅に軽減する「デジタル耳栓」を使うのが手軽です。
4. 心理的な問題を取り除く
何らのトラブルやハラスメント、生活上のミスや不運、育児疲れなどによって、心理的な問題を抱えている場合、「心ここにあらず」ではありませんが、聞き取り能力が低下する可能性があります。
日常的なストレス解消を心がけることが大切ですが、心理的な問題が根深い場合はカウンセリングの受診を検討しましょう。
録音によって補完するのもよい方法
以上の対応策に加えて、もし会話の理解に不安があるときは、録音によって補完するのもよい方法です。
たとえば、どうしても雑音が多い場所で会話をしなければならないときに、相手の了解を得て、ボイスレコーダーで会話を録音し、あとで理解に不安のある部分だけでも聞き直すことです(スマートフォン向けボイスレコーダーとして、AI録音アプリ「Voistand」をお試しください)。
録音をしていることが心理的な安心感につながり、会話の理解によい影響を与えてくれるかもしれません。
まとめ
はっきりと聴覚情報処理障害とはいえなくても、傾向として当てはまる人は少なくないと思います。
社会人であれば、職業選択の面で「向く仕事」と「向かない仕事」の判断に役立てられますし、もし「向かない仕事」をしているとしても、すでに説明した対応策によって、環境改善やストレス軽減につなげられます。
また、身近に聴覚情報処理障害の(傾向がある)人がいれば、雑音の中ではなく静かな環境で会話をする、重要な要件は口頭ではなくメモで伝えるといった工夫をすると、ミスコミュニケーションが少なくなるでしょう。
この記事が、聴覚情報処理障害の理解につながれば幸いです。