テレワークや在宅勤務の増加で「おうち時間」が増える中、虐待や家庭内暴力に苦しむ子どもたちが増え、場合によっては危機的な状況にまで追い詰められています。
親といる間、ずっと怯え、辛く、悲しく、時に精神的・肉体的な痛みをともなう時間を過ごさなくてはならない子どもにとって、先の見えない恐怖と絶望はどれだけ大きなことでしょうか。
一方で、スマートフォンの普及によって誰もが録音・録画を手軽に行うことができるようになり、子どものスマホによって隠し撮りされ、世間に明らかになり、親が逮捕されるに至った虐待事件もあります。
今まで家庭内で解決せざるをえない状況が多かった児童虐待問題も、少しずつ風向きが変わってきているように思います。
今回は、最新のニュースを紹介しつつ、身近な家庭での虐待を知ったときや虐待が疑わしいときに、どのように行動すればよいのかをご紹介します。
自殺者の増加と、児童虐待に対する社会の反応
自ら命を絶ってしまう小中学生が年々増加
小中高生の自殺が、大幅な増加傾向にあるようです。共同通信社のニュースを引用します。
2020年の小中高生の自殺者数が統計のある1980年以降最多の499人に上ったことが16日、警察庁のまとめ(確定値)で分かった。
……(中略)……
厚生労働省自殺対策推進室は「新型コロナウイルス禍で学校が長期休校したことや、外出自粛により家族で過ごす時間が増えた影響で、学業や進路、家族の不和などに悩む人が増加したとみられる」と指摘した。
引用元:共同通信社「小中高生の自殺、過去最多」(2021年3月16日)
子どもの録画による虐待の告発が決め手で、親が逮捕
2021年3月22日、虐待被害者の子どもが親からの暴行をスマホで隠し撮りしていたことが決め手となり、逮捕へ至った児童虐待事件もありました。
参考:文春オンライン「ムヒ、目に入れたろか!」元関脇・嘉風のセレブ妻が“虐待逮捕”《長女が自ら被害を撮影》
加害者が大相撲の元力士「嘉風(よしかぜ)」の妻であったこともあり、日々ワイドショーなどで動画を交えた報道がなされました。
この虐待事件の報道に対し、Twitterを中心としたSNS上では
- 子どものことのフラッシュバックを引き起こしてしまう映像だった
- 見たくないから報道をしてほしくない
- 同じように怒鳴ってしまった
- あのくらい怒鳴るのは普通
- 近所でもあのくらい怒鳴っているのをよく聞く
- 信じられない、想像以上にひどい
など、さまざまな意見が見られました。
虐待を受けたことがあったり、身近で起こったりした人には、強い現実感や当時の不快感をあらためて思い起こさせる事件である一方、虐待を経験したことがない人には、どこか遠くで起きた不道徳な事件であると、人によって受け止め方に大きな違いがあったのが印象的です。
2020年4月に「虐待」の定義と体罰禁止が明確に
みなさんの中でも、
「昔は叩かれるくらいは普通だった」
「自分も親に叩かれたり、外に出されたりした」
という人が少なくないでしょう。
しかし、児童虐待に関するニュースを耳にするたび、「虐待(体罰)」と「しつけ」の違いは何なのか、何を基準に線引きをしているのか、気になりませんか?
実は、2020年4月1日に児童虐待防止法と児童福祉法が改正され、親による体罰禁止が法制化されたことを、ご存知ない方もいるのではないでしょうか。
厚生労働省に設置された体罰等によらない子育ての推進に関する検討会では、体罰としつけの違いを解説したガイドラインをまとめており、次のように定義しています。
身体的虐待
- 打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷、たばこなどによる火傷などの外傷を生じるような行為。
- 首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物をのませる、食事を与えない、戸外にしめだす、縄などにより一室に拘束するなどの行為。
- 意図的に子どもを病気にさせる。 ……など
性的虐待
- 子どもへの性交、性的行為(教唆※を含む)。
- 子どもの性器を触るまたは子どもに性器を触らせるなどの性的行為(教唆※を含む)。
- 子どもに性器や性交を見せる。
- 子どもをポルノグラフィー※の被写体などにする。 ……など
※ 教唆 …… ある事を起こすよう教えそそのかすこと。
※ ポルノグラフィー …… 性的興奮をもたらす目的で、エロティックな行為を書物、絵画、彫刻、写真、映画などの形で表現したもの。
ネグレクト
- 子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。
- 子どもの意思に反して学校などに登校させない。子どもが学校などに登校するように促すなどの子どもに教育を保障する努力をしない(子どもが学校にいけ ない正当な理由がある場合を除く)。
- 子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。
- 食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。
- 子どもを遺棄したり、置き去りにする。
- 祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人や自宅に出入りする第三者が虐待などの行為を行っているにもかかわらず、それを放置する。 ……など
心理的虐待
- ことばによる脅かし、脅迫など。
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど。
- 子どもの心を傷つけることを繰り返し言う。
- 子どもの自尊心を傷つけるような言動など。
- 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする。
- 配偶者やその他の家族などに対する暴力や暴言。
- 子どものきょうだいに、児童虐待を行う。 ……など
さらに、次のような体罰の具体例も挙げられています。
体罰とみなされる行為
- 言葉で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた
- 大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた
- 友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った
- 他人のものを取ったので、お尻を叩いた
- 宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった
- 掃除をしないので、雑巾を顔に押しつけた
※ 道に飛び出しそうな子どもの手をつかむといった子どもを保護するための行為などは該当しません。
暴言など、子どもの心を傷つける行為
- 冗談のつもりで、「お前なんか生まれてこなければよかった」など、子どもの存在を否定するようなことを言った
- やる気を出させるという口実で、きょうだいを引き合いにしてけなした
引用元:厚生労働省「体罰等によらない子育てを広げよう! 」(PDF)
もし、このガイドラインにあるような行為を保護者などの大人が子どもに対して行っているのであれば、「しつけ」ではなく「虐待」に当てはまります。
ちなみに、「子ども」とは、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日まで(主に高校を卒業するまで)の間にある者を指します(子ども・子育て支援法 第6条第1項)。
もちろん、どの虐待例にも、最後に「など」とあるように、しつけの範囲を超え、子どもを傷つける行為は、ガイドラインの例に限らず存在するでしょう。
当然、刑罰として打首や市中引き回しなどが行われていた江戸時代の常識は、現代では通用しません。時代とともに他者の尊厳を守る方向へと進んでいるように、私たち一人ひとりの心も時代に合わせてアップデートする必要があります。
悪いのは子ども? 親?
虐待を受けた子どもが「お前が悪い」などと否定され、暴力を振われた場合に、親の言葉を間に受けて自己を否定する必要はありません。
その問題は、本当に暴力でしか解決できない問題なのでしょうか?
きっと、そうではないはずです。
また、保護管理下にある未成年に対して性的虐待を行うというのも、決して正常な大人とはいえません。
多くの場合は親自身の心の問題が大きく、偏った環境の中で育ってきたり、配偶者から暴力を受けていたり、精神的や金銭的に追い込まれていたり、感情のコントロールができない状態に陥っていたり、といった状況があると考えられます。
かといって、親の精神的な問題をケアするのは、子どもの役目ではありません。
ましてや、暴力や性的欲求のはけぐちとした上で、それでもなお「子どもに責任がある」というのであれば、間違いなく正常さを欠いており、そのような保護者のもとで暮らすのは危険な状態といえます。
上記のように心のバランスを失っている人のケアは、大人が大人に対して行うことでさえ難しく、専門的な知識をもった人(カウンセラーなど)と本人自身が乗り越えるべき問題です。
親子といえど、物理的にも精神的にも適切な距離が存在します。親子だからといって一緒に生活することが、必ずしも正解ではないのかもしれません。少なくとも一時的には、親類や第三者の協力を得ながら別々に暮らすことが、親子の両方にとってよい場合もあるのです。
親子の未来がよりよいものになるよう、虐待の被害にあってしまっている子が生きることを諦める前に、その環境から離れることを選べるように望みます。
誰にどう相談するべきか?
証拠を残す重要さ
家庭内の問題はとても閉鎖的であり、第三者の判断が難しいのが実情です。
被害者が勇気を振り絞り、虐待被害のSOSを発信した場合にも、
「大袈裟に言っている」
「しつけの一環だろう」
「日頃から虚言癖のある子どもだ」
「(性的被害の場合は)子どもから誘惑したのではないか」
などと、心ない言葉を投げかけられることも少なくないようです。
相談された側もどう受け止めたらよいかわからず、疑わしく思ってしまう気持ちはあれど、保護者に相談したことが知られてしまうかもしれない恐怖の中、わずかな可能性を信じて助けを求めた先で、このような反応をされてしまったら、勇気を出して相談した子どもの心は粉々に砕けてしまうのではないでしょうか?
さて、すでにご紹介した子どもの側からの被害動画による告発では、言葉だけでは虐待の深刻さが理解できない人にとっても、百聞は一見にしかずの証拠となったようです。
「第三者の判断をもっても、しつけの域を超えている」ということが動画や音声によって明確になったため、迅速(被害に遭われた方にとっては長い時間だったに違いありませんが)に逮捕に至ったケースといえます。
弁護士ドットコム(日本最大級の法律相談サイト)でも、「虐待を疑う罵声の録音は証拠になるか」という質問に「最有力の証拠になります」という回答がありました。
参考:弁護士ドットコム「虐待を疑う罵声の録音は証拠になるか」
スマートフォンひとつでだれでもすぐに記録を残すことができ、先述の告発のように世の中にSOSを発信することができます。もちろん、スマートフォンがない人や、いっそう秘密裏に記録をする必要があれば、小型で長時間稼働できるICレコーダーの利用も検討できます。
参考:失敗しないボイスレコーダー選び。ICレコーダーとボイスアプリの種類と特徴を理解しよう
また、iPhoneの「ボイスメモ」などデフォルトの録音アプリを使うと、録音開始や終了の通知音で録音がバレてしまう危険性がある場合は、別のアプリを試してみるとよいでしょう。
たとえば、Voistandというアプリなら、録音開始や終了の通知音もなく、「いつ、どこで録音した音声か」まで自動的に記録されます。また、録音データに対して話者をタグ付けことで、その後のデータの管理が楽になったり、アプリ側から話者のタグ付けを提案してくれたりします。
自動文字起こし機能もあるため、裁判や公的な手続きで証拠の書き起こしが必要な場合にも、大きな助けになるでしょう。
相談窓口
もし子ども自らが証拠を得ることができたら、その証拠をもって信頼できる周囲の大人や公的機関(これからお伝えする窓口)に相談し、「保護が必要である」ということを伝えましょう。念のため、相談しているときの様子も録音するのがおすすめです。
電話での相談窓口
- 児童相談所虐待対応ダイヤル「189」番
※ 匿名での相談・通告が可能です。 - 最寄りの交番または「110」番
LINEでの相談窓口(例)
- 子ゴコロ・親ゴコロ相談@東京
※ 匿名での相談・通告が可能です。 - 「かながわ子ども家庭110番相談LINE」
※ 匿名での相談・通告が可能です。
その他、お住まいの市町村にもそれぞれ窓口があります。「虐待相談」とお住まいの市区町村名で検索をしてみましょう。
まとめ
たとえ実の子であっても、親が子の尊厳を踏み躙る行為は許されるものではありません。まして、命を危険に晒す行為は、絶対に許されません。
もし身近で虐待に苦しんでいる子どもをご存知の方、まさにいま苦しんでいる方は、この記事をきっかけに、状況を少しでも好転させるための一歩を踏み出していただけたらと思います。