実はほぼ毎週末、日本のどこかの都道府県や市区町村で、知事や市区町村長、議会議員の地方選挙が行われていますが、4年に一度だけ、それらの選挙が全国の多くの地域で4月を中心に行われます。
このことを「統一地方選挙」(または「統一地方選」)といいます。
統一地方選挙は、戦後、全国で選挙期間や投票日を集中させ、有権者の選挙意識や投票率を向上させる目的で始まったものです。1947年(昭和22年)4月が第1回で、2023年(令和5年)の今回が20回目。
- 3月23日から4月9日までは、道府県知事や政令指定都市の市長、それぞれの議会議員選挙が行われる「前半戦」
- 4月16日から23日までは、その他の市区町村の首長や議会議員選挙が行われる「後半戦」
と呼ばれます。
大都市圏にお住まいの方は、すでに周囲で街頭演説や選挙カーでの街宣活動がはじまっているはずです。大都市圏以外では、まもなく選挙運動が本格化します。私たちは有権者として、立候補者や政党の声に耳を傾けるだけでなく、フェアな選挙運動が行われているかどうかに目を光らせることが大切です。
それでは、選挙違反の概要を簡単に見たあと、選挙の「演説」や「動画」にまつわる意外なルール5選を解説します。
選挙違反は主に4種類
選挙違反については、主に「公職選挙法」という法律で定められています。立候補者や選挙事務所関係者はもちろん、有権者も該当する行為を行った場合は犯罪として処罰されます(罰金、禁固、懲役などの刑罰、選挙権や被選挙権の停止など)。
また、「連座制」にも注意しましょう。これは、立候補者や立候補予定者と一定の関係にある者(秘書、事務所関係者、親族など)が、買収罪などの罪を犯し、刑に処せられた場合には、たとえ立候補者や立候補予定者がそれらの行為に関わっていなくても、選挙の当選が無効にされたり、立候補制限という制裁が科されたりする制度です。
選挙違反が問われる罪には、主に次の4つがあります。
1. 買収罪
金銭、物品、供応接待などによる票の獲得や誘導などの行為です。法律上、「缶ジュース1本でも買収が成立する」といわれているのは有名です。金品を実際に渡さなくても、約束するだけで違反となります。また、買収に応じたり、買収を促したりした場合も処罰されます。
買収罪に関連して、公職選挙法では戸別訪問が禁止されている点に注意しましょう。なぜなら、買収や利益誘導などの不正行為を招きやすいからです。1952年の法改正以降、戸別訪問は全面禁止とされています。
2. 利害誘導罪
特定の(限られた範囲の)有権者や選挙運動者に対し、その者や関係のある団体(寺社、会社、学校、組合、市町村など)に対する寄附などの特殊な直接利害関係を利用して、投票を誘導するなどの行為です。
また、利害誘導に応じたり、利害誘導を促した場合も処罰されます。
3. 選挙妨害罪
たとえば、
- 立候補者や有権者などへの暴行や威迫
- 集会や演説の妨害(演説者の声が聞こえないように大声をあげ続けるなど)
- 文書図画の毀棄(ポスターを破る、剥がすなど)
- 立候補者の職業や経歴などに関する虚偽事項の公表
- 偽名による通信
といった行為が該当します。
4. 投票に関する罪
たとえば、
- 詐欺の方法で選挙人名簿に登録させること
- 投票所での本人確認の際に虚偽の宣言をすること
- 投票を偽造しまたは増減すること
- 投票所や開票所などで、正当な理由なく有権者の投票を指示したり勧誘したりして投票に干渉すること、また、投票内容を知ろうとすること
といった行為が該当します。
Q1:街頭演説を午後8時15分までやっている立候補者がいたけど、いいの?
立候補者などが選挙カー(選挙運動用自動車)から拡声器を使って名前などを連呼したり、街頭で演説したりするのは、公職選挙法で認められている選挙運動のひとつです。午前8時から午後8時まで行うことが認められています(第140条の2)。
したがって、街頭演説を午後8時15分まで行うことは、選挙違反となります。
音量の規制は特にありませんが、学校や病院などの周辺では、マイクの音量を落とすなど静穏に務めなければならない(静穏保持)とされています(第140条の2)。
なお、選挙運動をする者に暴行を加えたり、演説を妨害したり、選挙ポスターを毀棄したりといった行為は、公職選挙法上の自由妨害罪となります(第225条、226条)。
Q2:電話での投票依頼を、当日の朝に受けたのですが……
電話による投票依頼は、選挙期間中は自由に行うことができます。ただし、投票日当日は選挙運動が禁止されており、投票依頼の電話もできません。また、当日に選挙運動に関わるようなSNSへの投稿や動画のアップロードなどを行うこともできません。
なお、投票日の前日までに公開された内容については、そのままにして問題ありません(第142条の三の2)。
Q3:立候補者が、目立つ音を鳴らしながら練り歩くのは?
立候補者が有権者の注目を集めるために、自動車を連ねる、大人数が拡声器などで立候補者名を連呼する、隊列を組んで歩く、大きな音を鳴らしながら歩く、花火を打ち上げるなどは、「気勢を張る行為の禁止」に抵触する可能性があります(第140条)。
つまり、選挙運動とはいえ、周りの人が度を越して迷惑だと思う行為や品性を欠く売名行為は禁止されている、ということです。
Q4:近所のお医者さんから、診察中に○○候補への投票を依頼された
これは「個々面接」といわれる行為で、実は問題ありません。
言論による選挙運動として、演説会や街頭演説のほか、次のようなものがあります。
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幕間演説
映画や芝居、演劇などを催す劇場などに集まっている人に対し、その幕間(休憩時間)を利用して演説をしたり、会社などの勤務場所に集まっている人に対し、昼休みなどを利用して演説を行うこと。なお、立候補者などの演説を前もって周知して行う場合には、演説会とみなされます。なお、上記はやや前時代的であって、何らかの会合(青年団や婦人会の会合、寄合など)に立候補者が参加し、演説の時間をもらうといったケースが考えられます。
- 個々面接
商店や病院で、そこの店員や医師などが来客者に投票を依頼したり、街頭やデパート、電車・バスなどの公共機関で、たまたま出会った知人などに投票を依頼したりすることです。 - 電話による選挙運動
電話による選挙運動には特に制限はなく、誰でも自由に行えます。立候補者や総括主催者など選挙運動の重要な地位を占める者から計画的な電話による選挙運動を指令された場合には,その電話料金は選挙運動費用に算入しなければなりません。 - インターネット上での選挙運動
2013年夏の参議院議員選挙から、いわゆる「ネット選挙」が解禁されました。ウェブサイトやブログ、SNS、動画共有サービス、動画中継サイトなどを使った選挙運動には特に制限はなく、誰でも自由に行えます。ただし、選挙運動用ウェブサイトなどには、連絡用の電子メールアドレス、返信用フォームのURL、SNSアカウント名などを表示する必要があります。。
なお、電子メールを使用した選挙運動は、立候補者および政党などだけが行えます。
すでに述べたとおり、これらは選挙運動であるため、投票日当日は禁止されます。
また、選挙の公示または告示の前に行った場合は「事前運動の禁止」に抵触する可能性があります(第129条)。
Q5:政見放送をその立候補者や所属政党の公式YouTubeチャンネルで配信するのは問題なし?
政見放送は、衆議院議員選挙、参議院議員選挙、都道府県知事選挙の立候補者個人と政党・政治団体が、テレビ・ラジオで政見を発表する番組です(第150条)。テレビやラジオの放送設備を通じて、公益のためにその政見を無料で放送することができるとされており、ほとんどがNHKテレビまたはNHKラジオで放送されます。
近年では、立候補者や所属政党の公式YouTubeチャンネルで、政見放送を録画したものをそのまま配信しているケースをよく見かけます。政見放送の内容に著作権はないとされる一方、転載にあたっては著作隣接権者(放送事業者)の許諾があれば可とされています。したがって、YouTubeでの配信(転載)は、放送事業者の許諾を得て行っていると考えられ、実際に多くの立候補者や所属政党が公式YouTubeチャンネルで政見放送を配信しています。
なお、政見放送に関する豆知識として、衆議院議員選挙の小選挙区に限っては、立候補者全員にその権利があるわけではない、ということがあります。公職選挙法では、小選挙区においては立候補者本人ではなく候補者届出政党(衆議院議員または参議院議員を5人以上有するか、直近の国政選挙での得票総数が有効投票の2%以上である政党その他の政治団体)に政見放送を行う権利があると定められており、無所属の立候補者には政見放送を行う権利がありません(第150条第1項)。
まとめ
以上、選挙違反の概要と、選挙の「演説」や「動画」にまつわる意外なルール5選を解説しました。
この記事をご覧の方の大多数が「有権者」であって、立候補者や選挙関係者ではないと思います。選挙運動では、誰の目にもわかりやすい選挙違反だけでなく、グレーの行為が横行しているのが実情であり、筆者が最近見知った中では、街頭演説中に特定の人気キャラクターに扮したスタッフを立たせていたり(気勢を張る行為?)、ガラの悪い人たちを使って演説会を妨害したり(自由妨害罪?)といった行為がありました。
このような行為を知ったときに、各地域の選挙管理委員会に報告したり問い合わせたりすることが、フェアな選挙の実施に少しでも貢献するかもしれません。ひとりの有権者として、「投票」以外にもこのようなアクションが起こせることを覚えておきましょう。