改正少年法が2022年4月1日から施行されることをご存知でしょうか? 同日に、成年年齢を20歳から18歳に引き下げるための民法(一部改正)も施行されます。
公職選挙の選挙権年齢は、すでに2016年6月の改正公職選挙法の施行以降、20歳から18歳に引き下げられていますが、今回の改正少年法や民法の一部改正によって、「20歳以上が大人」の時代から、「18歳以上が大人」の時代に本格的に変わるといってよいでしょう。
少年法は、少年の健全な育成を図るために、非行少年に対する処分やその手続きなどについて定める法律です。少年法の適用対象となる「少年」とは、20歳に満たない者を指します。
少年法では、少年事件について検察官が処分を決めるのではなく、すべての事件が家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が処分を決定することや、家庭裁判所は少年に対して、原則、刑事処分(少年刑務所での懲役や罰金など)ではなく、保護処分(少年院送致など)を課すことなどが定められています。
以下、改正少年法のポイント、民法の「成年年齢の引き下げ」で何が変わるかを説明したあと、いくつか考察を加えてみます。
改正少年法の3つのポイント
今回の改正法では、18歳以上20歳未満、つまり、18歳・19歳の犯罪の取り扱いが焦点となっていることを理解した上で、次の3つのポイントを見ていきましょう。
1. 18歳・19歳も「特定少年」として引き続き少年法を適用
改正少年法が施行されても、18歳・19歳は「特定少年」として引き続き少年法が適用されます。つまり、事件が家庭裁判所に送られ、家庭裁判所で処分を決定する、ということです。
ただし、原則逆送対象事件(後述参照)の拡大や、逆送決定後は20歳以上の者と原則同様に取り扱われるため、17歳以下の者とは扱いが異なる点に注意が必要です。
2. 原則逆送対象事件の拡大
原則逆送対象事件とは、家庭裁判所が原則として逆送する(検察官送致。保護処分ではなく、20歳以上と同じ刑事処分が妥当とする)とされている事件です。
現行法では、16歳以上の少年のときに犯した故意の犯罪行為によって、被害者を死亡させた罪(殺人罪、傷害致死罪など)の事件が該当します。
一方、改正法では、18歳・19歳の特定少年については、原則逆送対象事件に該当する対象が「18歳以上の少年のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)、1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」まで拡大されます。
具体的には、
- 強制わいせつ致傷罪
- 強制性交等罪
- 強制性交等致傷罪
- 強盗罪
- 強盗致傷罪
- 現住建造物等放火罪
などが該当します。
なお、保護処分と刑事処分の違いについて補足すると、保護処分の場合は少年院、刑事処分の場合は少年刑務所に、当事者が送られるのが通常です。
18歳・19歳の特定少年の原則逆送対象事件が拡大されるということは、従来の殺人罪や傷害致死罪だけでなく、たとえば強盗や強制性交などの罪を犯した場合も、少年の更生をはかる少年院ではなく、刑罰を課す少年刑務所に送られる可能性がある、ということです。
3. 実名報道の解禁
現行法では、少年のときに犯した事件について、犯人の実名、年齢、職業、住居、容ぼうなど、本人が特定できる記事や写真などの報道が禁止されています。
一方、改正法では、18歳・19歳の特定少年のときに犯した事件について逆送され、起訴された場合(略式手続きの場合を除く)には、実名報道の禁止が解除されます。
では、起訴されたあと、裁判所の判断により、刑事処分ではなく保護処分が適当(少年刑務所ではなく少年院に送る)とされた場合はどうでしょうか。いったん実名で報道されてしまった当事者の情報は、取り消すことができません。
このことが、本人の更生や周囲からの扱いに影響し、事態を複雑にする可能性があり、報道する側の慎重な判断が望まれます。
民法の「成年年齢の引き下げ」で変わること
2022年4月1日から施行される民法の一部改正によって、18歳になったらできることと、20歳にならないとできないことをまとめると、次のとおりです。
18歳(成年)になったらできること
- 親の同意なしの契約(ローン、賃貸など)
- 国家資格の取得
- 婚姻(女性も16歳から18歳に引き上げ)
- 普通自動車免許の取得(従来と同じ)
- 10年有効パスポートの取得
- 性同一性障害の人の性別変更審判
20歳にならないとできないこと(従来と同じ)
- 飲酒
- 喫煙
- 公営ギャンブル(競馬、競輪、競艇、オートレース)
- 養子を迎える
- 大型・中型自動車免許の取得
参考:政府広報オンライン「18歳から“大人”に! 成年年齢引下げで変わること、変わらないこと。」
18歳・19歳は、まさに大人と子どもの間
以上から、改正少年法や民法の一部改正が施行されても、18歳・19歳は、まさに大人と子ども(成年と少年)の間として取り扱われることがわかります。
成年年齢を引き下げることの是非にも、まだまだ社会的な議論が必要です。たとえば、親の同意なしに契約をする判断能力を、18歳・19歳の者が本当に備えているのか、何らかのセーフティネットが必要ではないか、といった点です。
また、個人的な経験として、昔の20歳というとだいぶ大人びており、30歳を超えた人は「おじさん」「おばさん」と呼ばれてもおかしくない時代でした。一方、平均寿命や修業年齢が延びた現代では、20代後半でもまだまだ若く、40歳くらいまでは「おにいさん」「おねえさん」と呼ばれても不思議ではありません。
実際に、ソニー生命保険が2021年10月に実施した調査(当事者500名、保護者500名が対象)によると、18歳で成年(成人)は早すぎると思うか、遅すぎると思うかを聞いたところ、
- 当事者では「早すぎると思う」が55.2%、「遅すぎると思う」が7.0%、「どちらともいえない」が37.8%
- 保護者では「早すぎると思う」が61.4%、「遅すぎると思う」が6.0%、「どちらともいえない」が32.6%
- 男女別では「早すぎると思う人」が当事者の女性で60.4%、保護者の女性で74.4%、当事者の男性で50.0%、保護者の男性で48.4%
という結果になっており、早すぎると思う人が大勢を占めています。
参考:ソニー生命「成年年齢の引き下げに関する意識調査2021」
まとめ
以上、改正少年法と民法の「成年年齢の引き下げ」について解説しました。
民法では18歳が成年年齢とされる一方、法律全体としては18歳・19歳はまだ一人前としては扱われない、という点を理解いただけたと思います。
少年法については、改正法の施行後も14歳未満は刑事処分の対象外とされることや、14歳以上の死刑・無期刑の緩和の是非、長らく増加傾向にある再犯率、薬物事件の取り扱いなど、さまざまな議論があります。
筆者は、犯罪者をできるだけ出さないこと、犯罪にいたる前に防げるしくみを整えることが、社会の安定にとって不可欠と考えます。特に少年犯罪は、周囲が防げる可能性が高いはずです。
今後も、改正少年法が上記のような点にどのように寄与するのを見ていきたいと思っています。