ホーム ハラスメント 子どもを傷つけ、将来の可能性の芽を摘む「マルトリートメント」とは?

子どもを傷つけ、将来の可能性の芽を摘む「マルトリートメント」とは?

この記事のサマリー

  • マルトリートメントとは「不適切な教育や指導」を意味する
  • 度重なる暴言や無視など、虐待とまではいえないが不適切な関わりも該当
  • DV、体罰、暴言によって子どもの脳が萎縮・肥大する可能性も
  • 大人が強いストレスにさらされていると、マルトリートメントが行われやすい

目次

特に子育て中の方は、学校の先生、スポーツの指導者、ほかの親御さんなどが、

「やる気がないなら、やらなくていい!(本当はやりなさいという意図)」
「何回言ったらわかるの?」
「もう◯年生のくせに!」

といった言葉を子どもに発しているのを耳にしたことはありませんか?

子どもに対する過度な叱責や威圧、無視などの不適切な教育や指導を「マルトリートメント(maltreatment)」といいます。malicious(悪意のある)+ treatment(扱い)の合成語であり、不適切な教育や指導を意味します(「mal」ではじまる言葉には、ほかにもmalware[マルウェア]やmalpractice[過誤]などがあります)。

以下、マルトリートメントの何が問題なのか、どのように防ぐべきかを見ていきましょう。

子どもを傷つける「不適切な教育や指導」

WHO(世界保健機関)によるマルトリートメントの定義は「身体的、性的、心理的虐待及びネグレクト」であり、日本の「児童虐待」に相当します。

参考厚生労働省「子ども虐待対応の手引き」第1章 子ども虐待の援助に関する基本事項

日本では最近「教室マルトリートメント」という言葉も生まれており、教育現場での不適切な指導を指すことがあります。体罰や猥褻(わいせつ)といった違法行為とはされないものの、威圧的な態度や言葉で子どもたちを傷つける指導(=心理的虐待)を示すことが多く、特別支援学校の現役教員で公認心理師の川上康則さんによる造語です。

冒頭で例に挙げたような、

  • ダブルバインドの(2つの矛盾したことを求める)言動
  • 子どもの事情を踏まえない叱責
  • 子どもが萎縮してしまうほどの威圧感
  • 度重なる無視

など、大人側に加害の意識がない場合でも、虐待や体罰同様に子どもの脳に悪影響を与えることが科学的に解明されています。マルトリートメントは、子どもの心だけではなく、実は脳へのダメージを通して発育や体にも悪影響を及ぼしかねないのです。

マルトリートメントによって萎縮・肥大する脳

画像出典公益社団法人 日本心理学会「体罰や言葉での虐待が脳の発達に与える影響」

虐待を受け続けた被虐待者の脳をMRIによって形や機能を調べたところ、脳の部位が萎縮や肥大するといった異常が発生しているという研究結果が出ています。

たとえば親のDVを見続けた子は「視覚野」が萎縮し、体罰を受け続けた子は「前頭前野」が萎縮する一方、暴言を受け続けた被疑者の場合は、言葉を理解し他者とのコミュニケーションのために重要なポイントとなる「聴覚野」が肥大していたという研究結果が出ています。

これは、被虐待者の脳が、自らを守ろうとする防衛本能なのです。

視覚野や前頭前野が萎縮するのに対し、聴覚野の場合は肥大の傾向を見せます。これは、子供の脳が成長を続ける中では不要なシナプスを「刈り込み」整えてゆくのですが、言葉の暴力を受け続けることで「刈り込み」作業がストップしてしまい、シナプスが伸び放題の状態になっていくのです。聞きたくないことを聞かなくていいように、音が拾いにくい状況を作る防衛本能といえるでしょう。

福井大学子どものこころの発達研究センター教授の友田明美さんが、米国ハーバード大学と行った共同研究の結果に、非常に具体的な説明があったため、さらに詳しく知りたい方はぜひ上記の画像出典元をご覧ください。

聴覚野が肥大すると、言葉の理解や語彙理解力が低下し、声や音が聞きづらいなどの影響が出ます。これは対人関係や学習障害にもつながり、子どもの成長にとって大きな障害となってしまうのです。

大人にマルトリートメントをさせないために

何度注意をしても直らない、どうしても子供がいうことを聞かないといった状況のほか、道路への飛び出しなど子どもに危険が及びそうなときに、ついキツく叱ってしまうことは、誰にでもあるでしょう。

どの程度のマルトリートメントが子どもの脳に悪影響を与えるのかはまだわかっていませんが、まずは「恒常化していないかどうか」が重要です。マルトリートメントが恒常化しやすい背景には、大人側が追い詰められ、精神的ストレスを抱えていたり、余裕を失っていたりするといった状況が多いといわれています。

したがって、親や先生、指導者と子どもとの関わり合いが孤立化しないよう、周囲や学校が適切に関わるしくみが求められるでしょう。

特に親子関係について、昔であれば同居している祖父母や隣近所などが適度に干渉することで、孤立化を防いでいました。核家族化が進んだことで、親が子育てを抱え込まざるをえない状況になったことが、DVやマルトリートメントの一因ともいわれます。

当然、過度な干渉はむずかしいとはいえ、何か異変に気づいたら優しく声をかけてあげるなど、クラスメイトやチームメイトの親同士で少しでも気づかい合うことが、不幸な状況の抑止につながると考えます。

傷ついた脳を癒すコミュニケーション

一度傷を負った脳を修復させることは容易ではないといわれています。子どものころに受けた脳(心)の傷は、人格形成に大きく関わり、その後の人生において、時にトラウマや生きづらさと戦いながら生きていかなくてはならなくなります。

しかし、脳の傷はすべてが直らないものではないそうです。成人患者であってもカウンセリングなどの心理療法やセラピーを行うことで脳は回復を見せ、さらに子どもの脳ほど修復の可能性が高いといわれています。

前述のとおり、マルトリートメントを行ってしまっている大人自身に考え方に歪みがあったり、追い詰められてしまっている状況も考えられます。その場合には、子どもだけではなく大人も心理療法などを受けることで、良好な親子関係を取り戻せる可能性があるのです。

まとめ

大人も子どもも十人十色。子育てやしつけをマニュアル化することはむずかしいものです。子どもにしっかりと育ってほしいという願いから、つい強い言葉を使ってしまったり、高圧的な態度をとってしまったりするかもしれません。

そのような場合は、「子供を萎縮させるしつけ(指導)となっていないか?」「自分自身が強いストレスを受けている状況ではないか?」といった点を振り返り、自分だけでコントロールするのはむずかしいと感じた場合は、周りの方や社会(公的機関、カウンセラー、心療内科など)を頼ってくださいね。

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