みなさんは「一音一義(いちおんいちぎ)」という言葉を聞いたことがありますか?
一音一義とは、日本語(大和言葉)の「あいうえお」「かきくけこ」という五十音ひとつひとつが特定の意味を持つ、という考え方です。江戸時代の中期から後期にかけて、当時の国学者らが中心に唱えた説とされ、「音義説」と呼ばれることもあります。
あ行からわ行までの五十音について、代表的な「一音一義」の例と解釈を以下にまとめます。たったひとつの音から広がるイメージに、思わずうなずかれる人が多いのではないでしょうか。
あ行
- あ
例:開ける、開く、明るい、新しい、会う、仰ぐ、天(あま・あめ)
意味:開放、始まり、根源 - い
例:命、息、生きる、稲、勢い、意、言う、祈る、入る、居る、憩い、家
意味:生命、成長、意識、存在 - う
例:生む、産む、受ける、歌、内(うち)、鬱(うつ)、疑う、動き、移る、海、渦(うず)
意味:包容、調和、閉塞、循環 - え
例:縁(えん・えにし)、枝分かれ、選ぶ、笑顔、恵方(えほう)
意味:つながり、伸長、拡散、変化 - お
例:大きい、重い、厳か(おごそか)、趣(おもむき)、終わり、尾、脅かす、男、雄(おす)
意味:偉大、重要、完成、統合、男性らしさ
か行
- か
例:火、力(か)、瓦(かわら)、塊(かたまり)、固い、稼ぐ、輝く、川、可、仮
意味:力強さ、開化、変革、可能性 - き
例:木、気、清らか、綺麗、気づく、聞く、切る、決める、期する
意味:精神、清潔さ、純粋さ、決断 - く
例:組む、空(くう)、潜る(くぐる)、企てる、悔いる、苦しい、曇り、黒い
意味:奥行き、潜在力、暗さ - け
例:毛、卦(け)、気配、煙、消す、削る、化(け)、怪(け)、獣
意味:兆し、雰囲気、消失、奇怪、霊力 - こ
例:個、己(こ)、心、固、氷、凝る(こる)、籠もる、子、児(こ)、娘(こ)、小(こ)
意味:個性、凝縮、生命、小さいもの、かわいらしさ
さ行
- さ
例:差、叉(さ)、割く、裁く(さばく)、去る、栄える、逆らう、遡る、桜、爽やか、冴える
意味:区別、発展、新展開、上品さ - し
例:知る、志(し)、示す、記す、絞る、印(しるし)、清水、静か、染みる、沈む
意味:感覚、志向、清らかさ、浸透 - す
例:澄む、透き通る、素(す)、姿、住む、健やか、巣、州(す)、進む、滑る、擦れる
意味:純粋、ありのまま、流れ - せ
例:瀬、背、迫る、攻める、責める、せわしない、せっせと
意味:接点、変化、勢い - そ
例:外(そと)、空(そら)、反る、背く(そむく)、沿う、添える、注ぐ、染める、そよ風
意味:外界、反映、解放、心地よい
た行
- た
例:他、多、田、助ける、立つ、高い、巧み、建てる、耕す、貯める、蓄える、足りる、玉、宝
意味:他者、拡大、高貴さ、貯蔵 - ち
例:地、智、知恵、誓う、力、血、乳
意味:大地、知、力強さ、根源 - つ
例:つなぐ、作る、続く、継ぐ、尽くす、つとめる、培う、常、綱、津、包む、詰める、積もる
意味:結びつける、長く続く、集中 - て
例:手、照らす、点、出る、敵、てくてく
意味:創造、交流、接触、変化 - と
例:止まる、戸、扉、通る、閉じる、滞る、解く、届く、遂げる、整う、弔う、尖る、研ぐ(とぐ)
意味:境界、閉鎖、完了、突出
な行
- な
例:名、中、成る、習う、並ぶ、情(なさけ)、涙、鳴く、長い、波、滑らか、和やか
意味:同調、共鳴、生成、安心 - に
例:似る、煮る、濁る、担う(になう)、賑やか、匂い、にこやか、庭
意味:調和、融合、柔軟、緩み - ぬ
例:濡れる、沼、ぬかるみ、脱ぐ、拭う(ぬぐう)、塗る、抜く、布、ぬくもり
意味:水に関すること、深まり、脱力、温かさ - ね
例:根、粘り、寝る、眠る、練る、音(ね)
意味:根源、土台、響き - の
例:伸びる、のぼる、乗る、望む、野、能、農、残る
意味:拡がり、自由、可能性
は行
- は
例:はじまり、葉、羽、破、原、早い、走る、弾む、放つ、生える、育む、働く、晴れ、春、花、畑
意味:開花、発展、生命力 - ひ
例:日、陽(ひ)、光、飛、人、広い、秀でる、控える、率いる、秘める
意味:おおらかさ、温かさ、精神性 - ふ
例:膨らむ、増える、太い、含む、袋、吹く、不、負、ふける、再び、振る
意味:豊かさ、柔らかさ、流れ、変化 - へ
例:辺、隔てる、平、兵、経る、下手(へた)
意味:境界、均衡、拡張、適当 - ほ
例:穂、保、仏、誇る、施す、褒める、惚れる、ほっとする、炎、蛍(ほたる)
意味:豊穣、完成、燃焼
ま行
- ま
例:間、真、誠、真ん中、交わる、混ぜる、待つ、舞う、丸い、まろやか、守る、枕
意味:包容、本質、調和、母性 - み
例:実、身、満ちる、見る、導く、磨く、美(み)、水、湖、都(みやこ)
意味:成熟、実り、浄化 - む
例:無、夢(む)、結ぶ、睦まじい、群れる、向かう、報いる
意味:無限、つながり、可能性、神秘 - め
例:目、目覚め、珍しい、芽、巡る、恵む、女(め)、雌(めす)
意味:覚醒、発芽、展望、女性らしさ - も
例:元、素(もと)、物、森、催す(もよおす)、持つ、盛り上がり、茂(も)、最も
意味:根源、集合、繁栄
や行
- や
例:八、屋、館(やかた)、宿る、山、矢、焼く、破る、敗れる、やめる
意味:拡張、変革、方向性 - ゆ
例:結う、由(ゆう・ゆい)、指、湯、豊か、許す、譲る(ゆずる)、ゆるい、ゆっくり
意味:つながり、理由、導き、余裕 - よ
例:世、代、夜、与、寄せる、呼ぶ、喜ぶ、よい、欲
意味:循環、授与、生成、期待
ら行
- ら
例:羅、乱、落(らく)、螺(ら)
意味:拡がり、流動、変化、渦状 - り
例:理、利、律、涼
意味:理解、理性、明晰 - る
例:流(る)、縷(る)、類(るい)、坩堝(るつぼ)
意味:流れ、連続、持続性、回転 - れ
例:礼、令(れい)、例、連、蓮華(れんげ)
意味:感謝、秩序、連なり - ろ
例:路、労、老、浪、炉、籠、録、論
意味:道、時間の変化、蓄積
わ行
- わ
例:和、話(わ)、詫びる、渡す、輪、綿、我(われ)、若い、笑う、湧く
意味:調和、統合、原点、若さ - を
例:遠(をち)、一昨日(をととい)、 納める・収める(をさめる) ※ 旧仮名遣い
意味:移動、目的、方向性 - ん
例:吽(ん) ※ 阿吽(あうん)より
意味:完結、無限、余韻、響き
まとめ
以上、あ行からわ行までの五十音について、代表的な「一音一義」の例と解釈をまとめました。
一音一義をもとに、「名前の意味」を解き明かすことができます。
たとえば「あさひ」という音であれば、
- あ
例:開ける、開く、明るい、新しい、会う、天(あま・あめ)
意味:開放、始まり、根源
- さ
例:差、叉(さ)、割く、裁く(さばく)、去る、栄える、逆らう、遡る、桜、爽やか、冴える
意味:区別、発展、新展開、上品さ
- ひ
例:日、陽(ひ)、光、飛、人、広い、秀でる、控える、率いる、秘める
意味:おおらかさ、温かさ、精神性
という意味の組み合わせとなり、「明るく発展的でおおらかな人」という願いを込めて、あるいは、無意識的にこのような意味を持つ音の響きを気に入って名づけたと解釈できます。
なお、あいうえおの母音(段)ごとの特徴は、おおむね次のとおりです。
- あ段(あかさたなはまやらわ)
明るさや広がり - い段(いきしちにひみり)
生命や存在感 - う段(うくすつぬふむゆる)
内的な充実 - え段(えけせてねへめれ)
元から伸びる様 - お段(おこそとのほもよろを)
重みや可能性
日本語は母音優位の言語といわれます。五十音では「ん」以外は、「あいうえお」という母音か、いずれかの母音をベースとした子音となります。子音それぞれは、口の動きとしては母音と同じであり、舌や唇の動きによって異なる音が表現されます。したがって、子音は母音がベースとなって、さらにそれぞれ意味を重ねているといえるのです。
みなさんも、ご自分の名前の意味を、「一音一義」をもとに解き明かしてみてはいかがでしょうか?