自分の容姿に関する「太った」「目つきが悪い」「顔が大きい」「ブス」「髪が薄い」などなどの悪い指摘は、誰にとっても気持ちのよいものではありませんよね。
テレビをはじめとしたエンターテインメントの世界では、外見に関する指摘やからかいについては厳しい目が向けられるようになってきましたが、あなたの実生活ではいかがしょうか?「太った?」「痩せすぎじゃない?」という何気ない言葉をはじめ、容姿について変化を促すような発言をされたり、逆に、不用意にしてしまったことありませんか?
ニュースなどを通じて、アリアナ・グランデ、ビヨンセ、マドンナ……世間の注目を集める海外セレブたちが自身の曲やSNSを通し、容姿に関する誹謗中傷に対して声明を発表したことをご存知の方も多いでしょう。
他者の外見に対して言及することは「ボディシェイミング」と呼ばれ、欧米をはじめ世界中でNGな行為として広まりつつあるのです。
ボディシェイミングとは?
ボディシェイミング(body shaming)とは、体型(body)の侮辱(shaming)という言葉のとおり、からかいや侮辱を含め、他者の外見に関して言及することを指します。たとえ悪意なく投げかけた言葉だとしても、「痩せたほうがいい」「もっと健康的に太ったほうがいい」「みんな脱毛してるよ」「歯並び気にならないの?」など他人の体について「治す」必要があると暗示するような発言を行うことはすべて、ボディ・シェイミングに当たると考えられています。
似た言葉としてルッキズム(lookism)もありますが、こちらは外見重視主義の言動を指し、「容姿のよい人物を高く評価する」「容姿がよくないと判断した相手を雑に扱う」といった外見にもとづく差別を示す言葉です。
つまり、「痩せたら?」など、他者の外見に対して干渉することがボディシェイミング、マイナス面では「美人じゃないから冷たくする」、プラス面では「美人だから優しくする」といった容姿を理由とした言動をルッキズムといいます。
逆の意味をもつ言葉で、ボディポジティブ(body positive)という考え方も広まりつつあります。これは、社会や大衆文化に捉われずに、自分も他者もすべての容姿や体型をポジティブに受け入れようという社会運動です。
他者の外見に対する日本と海外の違い
近年では昔に比べ、こういった言動に問題意識を感じている人が増えましたが、まだまだ社会全体に浸透しているとはいえません。さらに、同調圧力の強い日本では異を唱えることが難しく、ボディシェイミングやルッキズムに遭遇したときに「間違っている」と指摘できる人はごくわずかかもしれません。
また、最近では動画配信などを通して、同じコンテンツに対して世界中の反応が簡単に見られるようになりました。先日見ていたとあるインディーズゲームの配信で、ゲーム内のキャラクターが「憧れの人がいる」ということを友人に打ち明けた際に、その友人から体形や食事量に対して指摘されるというシーンがありました。
日本国内の配信では友人に同調するもの、気に留めずにスルーする人などの反応が多く見られましたが、海外の配信ではキャラクターがゲーム内で「痩せたら?」「食べ過ぎだよ」という言葉を受けた際に、「この友人は何を言ってるの!?」「そんなこと言う人は友達じゃないよ」といった、ボディシェイミングの被害にあったキャラクターの味方に立つような反応を示すものが多く見られました。
もちろん、すべての配信を見たわけではないですが、このインディーズゲームは日本で制作されたもので、「日本ではこんなことを友人に言うの?」と驚く海外の配信者も見かけました。
冒頭で触れたとおり、日々注目を集める海外セレブ、アーティスト、ハリウッド俳優などの中でも、外見に対する誹謗中傷を受けてはっきりと「No」という声明を出している人も多くいます。
外見に関する人々の優劣の意識は、育ってきた社会環境や文化的背景で作られます。
それでいて外見は先天的な要素が大きく、生まれ持った外見はその本人が望む姿かどうかは他者にはわかりません。外見を褒めることですら、相手の外側だけを見ていることにすぎず、それでいて相手に不快感を与えてしまう可能性のある話題ですから、避けるに越したことはないと認識しておくのがよさそうです。
日本のアーティストや芸能界にも変化の兆し
アイドルを目指したサバイバルオーディション番組「日プ」こと『PRODUCE 101 JAPAN』でも、ヒップホップ歌手として有名な「ちゃんみな」さんの曲『美人』を参加者たちがオリジナルの作詞で披露し、SNSで話題となりました。
この「美人」という曲は、若干18歳でデビューしたちゃんみなさんに向けられた容姿に関する誹謗中傷に心を痛めながらも、現代の美に対する想いを楽曲として昇華させたものです。歌詞の中には「醜い」「ブス」といった直接的な言葉も盛り込まれており、2021年にリリースされた際にも多くの注目を集めました。また、ライブではさまざまな体型、身長、髪型のダンサーさんと共に歌い、曲中に自身のメイクを落としノーメイクで歌い上げるという体当たりのパフォーマンスも見せていました。
そんな彼女が若い世代を中心に注目を集め、次世代のアイドルたちのコンセプトでも「大衆的な美」から「個々の美」にスポットライトを向けようとしている現在、ボディシェイミングを行うことがいかにナンセンスかが伺えます。
NGな指摘をなくす「5秒ルール」
外見の話題は基本的にNGとしても、特に子育てや、社会や学校で誰かを指導する立場になったとき、友だちや同僚と話すときなどに、どのような言葉ならば相手に投げかけてよいのかの判断軸があるとよいですね。
とても有効な方法としておすすめしたいのが、臨床心理学者のドクター・デスタ(TikTok: @my_destanation)が提唱する「言われた相手が5秒以内に変えられることだけコメントしてよい」というルールです。
「靴ひもがほどけている」「服に虫がついている」「ボタンを掛け違えている」など、5秒以内に変えられることは指摘してもOK。しかし、相手が5秒以内に変えられないことは、指摘によって相手のアイデンティティを深く傷つける可能性があるのでNGというルールです。
このルールの有用性は、ドクター・デスタが動画で挙げていた「5秒で変えられないものリスト」を振り返るとよく理解できるでしょう。
5秒で変えられないものリスト
- 体重
- 身長
- 体型
- 歯並び
- ストレッチマーク(妊娠線・肉割れ)
- ニキビ
- 傷跡
- 髪
- 人種
- 顔の骨格
これらは、相手とのボーダー(自他の境界線)を超えた発言であり、どんなに親しい間柄でも指摘するべきではなく、いじる・からかうといった行動はもってのほかだと言えます。ぜひコミュニケーションの際に心がけてみてください。
まとめ
日本では褒め言葉にあたる「顔が小さくてお人形さんみたいだね」という言葉も、欧米では「顔が小さい=脳みそが小さい」「お人形みたい=意志のない人」という、悪口にとられることもあるようです。
「褒め言葉として」「相手のことを考えて」「みんなそう思っているはず」。そう思い込んで投げかけた言葉が、実は相手を深く傷つけていたことがあるかもしれません。
親から外見に関する言葉を投げかけられ続けた子供が、拒食症や整形依存症となってしまったという話もあります。この事例が示すとおり、どんなに愛情があり、どんなに仲がよいとしても、ボディシェイミングが相手に及ぼす悪影響は大きなものなのです。