小さな会社でハラスメント被害が発生した場合、退職せざるを得ない状況になってしまうことがよくあるようです。
今回は、Voista Mediaへ報告があった、コロナ禍でのハラスメント被害と退職の悩みについて紹介します(本人が特定されないように一部脚色を交えて紹介します)。
いざというときにどう対応したらよいのか、この事例が参考になれば幸いです。
セクハラからパワハラ、やがて退職へ……
恐怖のハラスメントコースター
10名程度の会社で働くAさんは、社長からセクハラ(セクシャルハラスメント)を受けるようになりました。耐えかねたAさんは、証拠を録音し社長へと突きつけたところ、焦った社長は数万円の示談金を支払う流れとなり、一時は解決するかのように見えました。
セクハラは止まり、様子を伺うように親切に接してくるようになった社長ですが、半年後には社長からAさんへの風当たりが徐々に強くなり、次第に退職を勧めるようになりました。勤務態度に対する指導と称し、行き過ぎた言動をすることもたびたびあったようです。
Aさんはこのまま働き続けることは無理だと感じ、思い切って退職をしたものの、コロナ禍で転職は非常に難航。ギリギリのところで再就職は決まったものの、当時は貯金も底をつきそうになり、大変困ったとのことでした。
失業保険の受給開始に3か月以上の違い
大きな会社であれば、人事部やハラスメント相談窓口などで相談をすることで、加害者への処分や両者の部署替えなどで対応されることもありますが、小さな会社ではそこまで対応できないケースが多いのが実情です。
ハラスメントなど就業環境の悪化が理由で退職を決断した際、次の職場が見つかっていれば問題ありませんが、「まず退職してから転職活動を」と考えている場合は注意が必要です。
ハラスメントでの離職は会社都合に該当するはずですが、自ら退職の意志を伝え、会社から受理された場合の多くは「自己都合退職」として処理され、失業保険の給付などに大きな差が生じてしまうことがあります。
次の表を見てみましょう。
失業保険給付「会社都合退職」と「自己都合退職」の差
会社都合退職 | 自己都合退職 | |
---|---|---|
失業保険の最短支給開始日 | 7日 | 3か月と7日 |
失業給付金支給日数 | 90日〜330日 | 90日〜150日 |
失業給付金最大支給額 | 約260万円 | 約188万円 |
国民健康保険税 | 最長2年間軽減 | 通常納付 |
参考:https://employment.en-japan.com/tenshoku-daijiten/11173/
自己都合の場合、失業保険の最短支給開始日までの約3か月を無収入で過ごすことになってしまいます。
会社都合退職の希望を会社側がスムーズに受け入れてくれればよいのですが、なかなかそうはいきません。会社都合での退職者を出した場合、会社側は各種助成金の申請において一定期間(助成金の種類により半年から1年程度)申請ができないなどのデメリットが発生するからです。
そのため、会社側としては離職証明書にはなるべく「自己都合退職」と記載したいと考えることが多いのです。
会社都合退職にするための交渉ポイント
こういった場合に、弁護士に相談する金銭的な余裕がないことが多いでしょう。弁護士に相談せずに、自分で会社と交渉する際のポイントを7つ紹介します。
事前準備
- 証拠の準備
ハラスメントの証拠になりそうなものがあれば、それらを準備。
スマホやレコーダーなど、録音や撮影の準備をしておきましょう。
どの順番で話すべきかを書き出してみて、会話のシミュレーションを作成するのも大切です。 - 退職合意書の準備
会社にフォーマットが用意されている場合があります。事前に確認をするか、自分で用意しましょう。退職理由には「会社都合」と記載されているかをしっかり確認すること。
交渉
- 喫茶店など、人目につく場所で交渉
交渉の場所はオフィスではなくて、喫茶店など人目がある静かな場所を選ぶようにしましょう。暴言や暴力など理不尽な態度をとられるリスクがぐっと減ります。 - 交渉の場ではすべて事務的に対応する
感情的な話になってしまうと、相手が暴言や暴力に訴えてくるかもしれないため、話は事務的に、テキパキと済ませるべきです。要件を伝え、相手の判断を尋ねましょう。交渉が決裂するようであれば、すぐに席を立ってしまったらよいでしょう。しっかりとした証拠があれば、相手としてはその交渉に乗らないほうが、むしろリスクである可能性が高いためです。 - 万が一に備えて、すべての会話は二重録音
交渉後、相手がどのような動きを取るかわからないので、万が一に備えてすべての会話は録音しておくべきです。スマホでの録音だけでは失敗する可能性があるため、ICレコーダーなども用いて常に二重の手段で録音することで、万が一に備えましょう。
交渉ができず自己退職になってしまった場合
退職届けが受理されない場合や、ハラスメント相手と対峙しなくてはならず交渉できる状態ではない場合、交渉してみたものの反故にされてしまった場合でも、諦めないでください。
- 退職届や合意書を内容証明で送る
退職届は申し入れた時点ですでに効力があるため、文書の到達と内容を証明できる内容証明で会社へ送付しましょう。
民法 第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)でも、退職の自由が保証されています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
- 証拠を持参してハローワークに相談する
離職票上は「自己都合」と記載されていても、ハローワークで会社都合と認めてもらえることがあります。「セクハラ・パワハラなどのハラスメント」「給与の減額・未払い」「長時間労働」「採用時と実際の労働条件が異なる」などが該当になるため、ボイスレコーダーの音声やタイムカードなどの証拠を持参して相談してみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
コロナ禍の中、ハラスメントが原因でやめざるを得なくなったときの対処法を紹介しました。
なお、Voista Mediaでは、みなさんのハラスメント被害の事例を紹介することで、同様の被害に合っている方に少しでも役立つことを心がけています。ご自身も「このような被害があった」などがあれば、ぜひ教えてください(掲載させていただく場合は、本人が特定されないよう配慮します)。
ご自身の経験が、今困っている誰かの助けになるかもしれません。