職場でのパワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)の話題が多い中、モラルハラスメント(モラハラ)は家庭内、特に夫婦間での問題として語られることが多いものです。
それでは、パワハラとモラハラの定義を確認したあと、モラハラへの対処法を考えてみましょう。
パワハラの定義
パワハラは、優越的な関係にもとづく精神的・身体的な苦痛や嫌がらせのことです。
2019年5月29日に成立し、2020年6月(中小企業では2022年4月)から施行されるパワハラ防止法(労働施策総合推進法の一部改正)では、職場でのパワハラを「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されること」と定義し、企業にさまざまな防止措置を課しています(パワハラ防止法で何がどう変わる?働く人の尊厳や就労環境を守る手立てとなるのかを参照)。
パワハラに該当する行為の中には、性的な言動に関するセクシャルハラスメントが含まれるケースもあるでしょう。また、職場ではなく家庭で行われる精神的な苦痛や嫌がらせの一部は、次に説明する「モラハラ」と呼ばれることが増えています。
モラハラの定義
モラハラは、道徳(モラル)を理由とした精神的な苦痛や嫌がらせのことです。フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した言葉(「le harcèlement moral」)とされます。
モラハラでは、暴言、叱責、脅し、侮蔑、無視などの言動や態度として表れます。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントと異なり、
- 加害者が特に意識をせずに行っていることが多い
- 第三者がその被害を認識したり、第三者に対して被害を証明にくい
- 職場だけでなく家庭でも起こりやすい
といった特徴があります。
モラハラの加害者になりやすい人と、被害者になりやすい人では、次のような傾向があります。「モラハラ夫」という言葉があるとおり、夫と妻というケースを想像するとわかりやすいでしょう。
加害者になりやすい人の傾向 | 被害者になりやすい人の傾向 |
---|---|
自分は特別扱い、他者には厳しく冷淡 | 自分が悪くなくても、謝って事をおさめようとする |
自分の優越性のために平気でウソをつく・正当化する | 自分の気持ちを正直に発言するのが苦手 |
自分の時間やお金の使い方は自由だが、相手の自由は認めない | 他人の機嫌を損ねることを極度に恐れる |
相手への否定的な発言や嫉妬、束縛が著しい | 思いやりや配慮の意識が強い |
相手への叱責や謝罪要求が度を超えている | 自分に自信がない |
自分の非や自分への否定的な発言を認めない | 自己肯定感が低い |
表面的には人当たりがよく、二面性がある | 自己犠牲的な気持ちが強い |
モラハラへの対処法
不幸にもモラハラの被害者になった場合、どのように防いだり、対処したりするのがよいのでしょうか。
夫婦間を念頭に、モラハラの程度が軽い場合と重い場合で考えてみましょう。
モラハラの程度が軽い場合
- 聞き流す
- 自分に非がないときは謝らない
- 毅然と言い返す
- モラハラであることを指摘する
- 本人の親族に打ち明ける
- 友人やカウンセラー、女性センターに相談する
といった対処法があります。
一時的に不快に感じたとしても、感情を抑えられる場合は、聞き流すこともありえます。日常のコミュニケーションで、相手からの何気ない言葉で傷ついても、聞き流すことが多いでしょう。
ただし、あからさまな暴言や侮蔑的な言葉を容認しつづけると、ますますエスカレートし、モラハラに拍車をかける可能性があります。腹を決めて、モラハラであること、自分が不快に感じていることを正直に伝えたほうがよい場合もあるでしょう。相手が逆上する可能性があるとしても、です。
本人に伝えても効果が低い場合は、本人の両親や兄弟姉妹などに打ち明け、苦しんでいることを伝えてもらう方法もあります。友人やカウンセラーに相談し、助言をもらうことで、気持ちの整理がつくこともあるでしょう。女性センター(都道府県や市区町村などが自主的に設置している女性のための総合施設)に相談することもできます。
モラハラの程度が重い場合
- 証拠集めをする
- 別居を検討する
といった対処法があります。
モラハラの証拠としては、
- ボイスレコーダー(録音アプリやICレコーダー)による会話の録音データ
- 発言内容や日時の記録
- メールやメッセージの記録
- 心療内科などに通っている場合はその診断書
などが該当するでしょう。もし物損があれば、壊された物を保存しておいたり、写真として記録しておくことも大切です。
また、別居を検討する場合もあるでしょう。実家に帰る、マンションやアパートを別に借りる、といった選択肢があります。もちろん、特に後者はお金がかかるため、おいそれと実行に移すのはむずかしく、計画的に資金を貯める必要があるかもしれません。
どのような別居であれ、希望的に考えれば、相手への愛情や自責の念、もし子どもがいれば、子どもと離れて暮らすことの寂しさ、経済的負担の大きさなどさまざまな理由から、関係が修復する可能性がないとはいえません。
長い夫婦生活で、相手に対する配慮や感謝が欠如してしまったり、相手に過度に甘えてしまったりすることは珍しくありません。別居によってこのような関係をいったんリセットし、お互いが心新たに向き合えるかもしれないからです。
ただし、厚生労働省の「離婚に関する統計」(平成21年度、現時点の最新版)によると、別居後1年未満の離婚率は82.5%であり、関係修復が決して容易ではないことがわかります。
まとめ
主に夫婦関係を前提に、モラハラについて説明しました。
モラハラに該当するような行為について、相手や自分がどのように考えるかは、生まれや育ち、性格や価値観によるところが大きく、すべてのモラハラに共通の処方箋はありません。
加害者が自己愛性パーソナリティ障害という精神疾患の場合や、特に男性から女性のモラハラは男尊女卑の考え方にもとづいている可能性もあり、事はそう単純ではありません。
とはいえ、モラハラがエスカレートした結果、身体的なDVや子どもの虐待につながる可能性は否定できません。将来を考えた上で、別居はもとより、離婚を決意するケースもあるでしょう。
この記事が、モラハラについて冷静に考えるきかっけになれば幸いです。