2020年6月1日に施行された改正「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」。職場におけるパワーハラスメントの防止措置が企業に対して義務づけられ、2022年4月からは中小企業も義務化の対象となりました。
それでは、パワハラ防止法の施行後、世間でのハラスメントの実態はどのようになっているのでしょうか。また、アルバイトやフリーランスが受けているハラスメントの現状はどうなのでしょうか。
以下、職く人のハラスメントに関する4つのアンケート調査の概要を見ていきましょう。
連合調べ
学生のアルバイト経験者で「トラブルにあったことがある」が32.6%。うち「人間関係」のトラブルが42.4%
日本労働組合総連合会(連合)が2023年1月に発表した「学生を対象とした労働に関する調査」(PDF)によれば、アルバイト経験者の中で労働時間や賃金などの労働条件、ハラスメント、人間関係等の「トラブルにあったことがある」は32.6%、「トラブルにあったことはない」は67.4%でした。
また、トラブルの内容(複数回答可)については、
- 労働時間関係(長時間労働、シフト等)(43.3%)
- 人間関係(いじめ、ハラスメント等)(42.4%)
- 休日・休暇関係(25.4%)
- 賃金関係(未払い、最低賃金等)(19.6%)
- 雇用関係(解雇、雇止め等)(8.5%)
という結果になりました。
特に多かったのは、「労働時間関係」と「人間関係」のトラブルです。前者は「予定外の長時間労働を強いられる」「バイト中に休憩を取れない」「試験前でも休ませてもらえない」などが該当するでしょう。
後者については、別の調査で「アルバイトを辞めた理由や辞めるときの伝え方は?男女500人アンケート調査」が参考になります。この調査では、アルバイトを辞めた理由の第1位が「バイト先の人間関係が悪い」であり、「同僚と馴染めなかった」「いじめ・ハラスメント・厳しすぎる指導を受けた」などの理由で退職した人が多かったとされています。
なお、アルバイト先におけるトラブルを誰(どこ)に相談するか(複数回答可)については、
- 家族・友人(72.8%)
- アルバイト先の上司、同僚(29.1%)
- SNS(Twitter、Facebook等)を利用(12.6%)
- アルバイト先の相談窓口(総務・人事)(12.1%)
- 行政機関(労働基準監督署や県の労働局、ハローワーク)(9.5%)
となりました。
ここで注目したいのは、相談のためにSNSを利用する人が一定数いることです。真剣な相談ではなく、愚痴であったり不満であったりするかもしれませんが、そこから職場や店舗が特定され、炎上騒ぎになれば、企業イメージを毀損する可能性があります。
学生区分別では、高校生・高専生では「SNS(Twitter、Facebook等)を利用」が18.3%と、大学生等(8.8%)と比べて9.5ポイント高い結果となりました。若年層のアルバイトスタッフのSNS投稿には、企業として注視しておく必要があるでしょう。
連合調べ
フリーランスで「トラブルの経験がある」が46.1%。不当に低い報酬、仕事の取り消し、支払い遅延など
日本労働組合総連合会(連合)が2023年1月に発表した「フリーランスの契約に関する調査2023」(PDF)によれば、フリーランスとして仕事上で「トラブルの経験がある」は46.1%、「トラブルの経験はない」は53.9%でした。約半数が何らかのトラブルを経験していることになります。
仕事内容別では、トラブルを経験した人の割合は、文化・芸能・芸術関連(58.8%)が最も高く、コミュニケーション関連(54.5%)、ものづくり・ものはこび関連(54.2%)、クリエイティブ関連(51.9%)が続く結果となりました。
また、トラブルの内容(複数回答可)については、
- 不当に低い報酬額の決定(31.0%)
- 一方的な仕事の取消し(28.4%)
- 報酬の支払いの遅延(25.8%)
- 一方的な仕事内容の変更(25.4%)
- 報酬の不払い・過少払い(22.8%)
などが挙げられています。
全体として、支払いや契約関係のトラブルが多く目につくのがわかるでしょう。
「フリーランスは弱い立場」とよくいわれますが、これは「大きな組織ではなく、個人または少数であること」が理由です。このアンケート結果からも、フリーランスが支払いや契約条件で無理を強いられたり、我慢をさせられている姿が浮き彫りになっています。
このような現状を踏まえ、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が改正に向けて動きはじめています。具体的には、現行の下請法は発注者の資本金が1,000万円以上でないと適用されませんが、改正法ではこの要件が撤廃され、資本金が1,000万円以下でも適用される可能性があります。
今後も、フリーランスの権利保護に向けた動きに注目しましょう。
Job総研調べ
ブラック企業での勤務経験ありは52.8%。ブラックだと感じた理由は「長時間労働」「ハラスメント」「根性論」
Job総研(株式会社ライボ)が2023年1月に発表した「2023年 働く環境の実態調査」によれば、ブラック企業だと感じる企業での勤務経験の有無について、「経験あり」と回答した社会人が52.8%でした。
経験ありの回答者から、ブラックだと感じた内容(複数回答可)を聞いたところ、
- 長時間労働(68.9%)
- ハラスメントがある(48.3%)
- 根性論が飛び交っている(43.3%)
が上位3つとなりました。
なお、男女別と年代別のデータとしては、ブラック企業だと感じる企業での勤務経験は男性48.5%、女性44.7%でした。年代別では、20代が69.5%と最も高く、次いで50代が44.4%、30代が31.7%、40代が22.2%となっています。
男女に明確な違いは見い出せませんが、年代については働き盛りである30代、40代が低いのが注目に値します。これは推測ですが、仕事に強いやりがいを感じたり、責任のある立場になったりすると、多少のことでは「ブラック企業」や「ブラックな働き方」とは感じなくなり、過去の経験ですら補正されるのかもしれません。
ミチサガシ調べ
パワハラをする人は「短気な性格」「完璧主義者」「体育会系」。15%が暴力を受けたことあり
ミチサガシが2023年1月に発表したパワハラを実際に受けて乗り越えた男女100人へのアンケートによれば、パワハラをする人(上司など)の特徴に関する回答は、
- 短気な性格(29.3%)
- 完璧主義者(22.2%)
- 体育会系の雰囲気が強い(20.4%)
- 嫉妬心が強い(19.8%)
- 気が弱い(8.4%)
という結果となりました。
最後の「気が弱い」は意外な感じがしますが、「普段は温厚な上司でも、仕事で余裕をなくすと豹変することがある」「極端に怒鳴り散らす上司は、実は虚勢を張っている」といった理由のようです。
次に、パワハラを受けた際、暴力の有無については「あった」と答えた人が15%、「なかった」と答えた人が85%となりました。
パワハラの被害内容(複数回答可)は「言葉の暴力(暴言を受けた)」と答えた人が88%、「いじめ・嫌がらせ」と答えた人が42%という結果でした。
まとめ
以上、職く人のハラスメントに関する4つのアンケート調査を見ました。
上記の調査はいずれも2023年1月に発表されたもので、アンケートの実施期間は数か月以内、つまり中小企業もパワハラ防止法の対象となった2022年4月以降です。改正法の施行前と施行後を比較するデータではありませんが、アルバイトやフリーランスなど会社員以外のハラスメントの実態や、「ブラック企業」がまだまだ存在している事実が理解できます。
日本では、全就業者のうち34.6%が「過去にハラスメントをうけたことがある」とされており(過去記事「2022年のハラスメント統計! 日本と世界のデータ比較、国内の法律改正の影響について」を参照)、社内はもちろん、アルバイト(パート)やフリーランスへのハラスメント防止に取り組む必要があるでしょう。また、社会全体として「ハラスメントは許さない」という意識を醸成することが大切だと考えます。
よりよい職場づくりのために、個々人としても取り組んでいきましょう。