テレビのニュースで「子どもたちが庭でプール遊びをしてたところ、騒音と感じた隣人がモスキート音を大音量で流すという嫌がらせが行われた」ということが話題になっていました。流した隣人や親たちは聞こえない音でしたが、子どもたちは体調不良を訴え、救急車を呼ぶに至ったことで発覚した事件でした。
高周波の音は、若年層ほどよく聞くことができ、加齢とともに「聞こえ」が低下するといわれています。
この事件のように、若者だけが聞こえる音を利用し、深夜に店前や公園などにたむろする若者を退散させるため、店舗入り口や公園内でモスキート音を流しているという場所も多く存在します。
モスキート音が聞こえることで日常生活にメリットがあるわけではありませんが、健康診断の聴力検査でも用いられるように、高周波の音の聞き分けが耳年齢の指標になっています。
しかもこの「聞こえ」の問題、実は単純に年齢と相関した衰えではないことがわかっています。聴力の低下は20代から現れ、耳を酷使することで加速させてしまうこともあるのです。
また、聴力の低下は「うつ」や「認知症」を引き起こす原因になるともいわれているのをご存知でしょうか?
つまり、耳の健康を守ることは心や脳の健康にもつながります。
耳を守るためにできことは何なのか。今回はそんな「聴力」についてまとめました。
耳の年齢と聴力の低下とは?
離れている人同士でも会話が可能になる「糸電話」が有名なように、音の正体は空気の振動(音波)です。哺乳類では、この空気の振動が耳の穴の奥にある鼓膜を震わせ、中耳にある蝸牛(かぎゅう)と呼ばれる巻貝状の中器官を通り、有毛細胞によって電気信号に変換され脳に伝えられます。
この有毛細胞の数によって聴力が変化するのですが、有毛細胞は傷つきやすく、耳の酷使や年齢を重ねるにつれて折れたり曲がったりしてしまいます。
通常、有毛細胞の毛は約2日(48時間)ごとに生え替わりますが、大きな音を聞くなどして耳を酷使すると、有毛細胞の毛が一気に抜け落ちるため、生え替わりが追いつかなくなります。損傷が激しくない場合には、耳栓をしたり定期的に耳を休めることで有毛細胞をケアできます。しかし、一度死んだ有毛細胞は生き返らず、毛を再生しなくなることから、これが加齢による聴力の低下の原因と考えられています。
過去記事「ヘッドホンの音量や利用時間に注意! ヘッドホン難聴を防ぎ、耳の健康を保つ方法」でも触れたように、ヘッドホンやイヤホンで音楽を85db SPL以上の音量で長時間聞き続けると、いわゆる「ヘッドホン難聴」のリスクが高まります。
WHOは、2019年2月には世界的なスマートフォンやポータブルプレーヤーの普及によって「世界の若者(12~35歳)の半数近くに当たる11億人が難聴になる危険性が高い」と警告しています。ヘッドフォンだけではなく、ライブハウスやカラオケ店などで大きな音を聞き続けることも耳に大きなダメージを与えます。
このような生活の差が、耳年齢の差となって現れるのです。
画像出典:看護roo!「耳の断面図のイラスト」
モスキート音は18,000ヘルツから20,000ヘルツの非常に高い音
人が聞き取れる音の高さ(周波数)は20ヘルツから20,000ヘルツまでといわれ、「モスキート音」はその上限に近い18,000ヘルツから20,000ヘルツの非常に高い音をいいます。
画像出典:ATV青森テレビ「あなたの耳年齢は?若者にしか聞こえない“モスキート音”の謎 ナゼ聞こえなくなるのか調査」
自分の耳年齢が気になる方は、以下のページで「モスキート音測定」ができますので、ぜひお試しください。
難聴がなぜ「認知症」や「うつ」の原因になるのか?
2017年7月、国際アルツハイマー病学会(AAIC)において、「高血圧」「肥満」「糖尿病」などとともに「難聴」が認知症の危険因子のひとつに挙げられました。難聴によって、音の刺激や脳へ伝達される情報量が少ない状態となることで、脳の萎縮や神経細胞の減少が進むことにより、認知症の発症に大きな影響を与えることが明らかになったのです。
聞こえにくさは対人コミュニケーションに悪影響を及ぼします。また、コミュニケーションの低下やトラブルにより、抑うつ状態が引き起こされたり、社会的に孤立してしまうことが認知症をさらに進行させる「負のループ」となるともいわれています。
そのため、「認知症にまつわる予防可能な40%の要因12個の中でも、難聴は最も大きな危険因子である」という指摘が2020年にWHOから発表されています。
しかし裏を返せば、耳の健康を守ることや難聴への適切な対処が、認知症やうつ予防に効果的ともいえるのです。
もし聞こえ方に不安がある場合は、積極的に医療機関に相談しましょう。
突発性難聴であれば、発症から1週間以内の治療開始が重要とされ、発症から1週間以内の治療でも完治は40%、50%が改善、治療が遅れるほどに完治は難しくなるといわれています。
過去数日と比べてテレビやスマホの音量を大きくすることが多くなった、電話の音が聞こえにくい、左右に聞こえの差がある気がする、耳鳴りやめまいがするなど、耳への異変を感じたら早急に治療が必要な状態かもしれません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
このように、実は聴力をつかさどる有毛細胞は案外デリケートであり、耳は音による刺激を通して脳の健康に影響する重要な器官なのです。
低視力は身体障害のひとつとされていた時代がありました。しかし、メガネの発明と普及によって視力を補えるようなり、今では多くの人がコンタクトレンズを使用したり、ICL(眼内コンタクトレンズ)治療やレーシック治療などによって不自由なく暮らしています。
聞こえにくさをサポートする補聴器も、昨今ではスタイリッシュなデザインも増えてきています。耳の健康を守り、もしものときにはできるだけ早く医療機関を受診し、聴力が衰えたときには補聴器の利用も検討してはいかがでしょうか?
まずは脳の健康のためにも、耳を酷使したあとはきちんと休ませて有毛細胞をケアしてあげてくださいね。