毎年、3月8日は「国際女性デー」です。国際女性デーは「女性の十全かつ平等な社会参加の環境を整備するよう、加盟国に対し呼びかける日」として、1975年に国際連合(国連)で制定されました。
ジェンダー平等が叫ばれる中、日本のジェンダーギャップ指数はG7(主要7か国)で最下位であり、世界146カ国のうち116位という嘆かわしい状況でした(世界経済フォーラムの2022年7月の発表による)。
ジェンダー平等の基本中の基本は「誰であっても心や体の尊厳を傷つけられない(傷つけない)」ことであるはずです。
残念ながら、国内での「女性に対する暴力」に関するデータ(後述参照)からも、一番小さな社会ともいえる「家庭」の中ですら個の尊厳が軽視されている様子が伺えました。
これからの未来を担う子どもたちは、第一に「家庭」から他者との関係性を学びます。その家庭の中で、暴言や暴力が日常的に存在するのでは、当然、子どもへの悪影響が心配されます。
以下、2021年8月に内閣府男女共同参画局が発表した「女性に対する暴力の現状と課題」という調査結果の中で、特に注目したいポイントをまとめます。現状を知り、これからの日本のジェンダー平等のために、あなたができる一歩が何かを一緒に考えてみましょう。
引用・画像出典:内閣府男女共同参画局「女性に対する暴力の現状と課題」(PDF)
配偶者からの暴力被害は約4人に1人、
女性被害者の約10人に1人は何度も被害に
調査では、22.5%(約4人に1人)が「配偶者からの暴力被害の経験がある」と回答しました。
被害の内容別では、身体的暴力の割合が14.7%と一番高く、次いで心理的攻撃が12.5%という結果でした。
- 身体的暴力 14.7%
例:なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりするなどの身体に対する暴行 - 心理的攻撃 12.5%
例:人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視したり、長期間無視するなどの精神的な嫌がらせ、あるいは、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるのではないかと恐怖を感じるような脅迫 - 経済的圧迫 5.9%
例:生活費を渡さない、給料や貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されるなど - 性的強要 5.2%
例:嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、避妊に協力しないなど
また、いずれの暴力行為でも女性の被害割合が高く、「何度も暴力被害にあった」という回答では男性被害者が4.0%に対し、女性被害者は10.3%という大きな開きが見られました。
命の危険を感じた経験は、
女性(婚姻経験者)の約21人に1人
驚くべきことに、婚姻経験女性の4.8%(約21人に1人)が「命の危機を感じた経験がある」とまで回答しています。これに対し男性の回答は0.9%です。肉体的に自分よりも強い力を持った相手から、日常的に振るわれる暴力の恐ろしさは計り知れません。
ジェンダーの真の平等を考えるに当たって、性別による身体的・心理的な差異や個人の生まれ持った体格差などについて、理想論ではなく現実論から議論する必要があるでしょう。
別の調査ですが、介護の現場で虐待を行った人の男女比は、介護サービス、家庭内介護ともに、男性のほうが圧倒的に多いという現実があります。
過去記事:介護スタッフによる高齢者への暴言や暴力。コロナ禍で増えた高齢者虐待の実態に迫る
子どもへの被害の「認識」は、
被害者女性の約3割、被害者男性の約2割
パワハラ、セクハラ、モラハラ、DV。いずれの場合も、加害者がターゲットにするのは「自分より力や立場が弱い相手」です。
そのため、配偶者だけではなく家庭内で一番弱い立場である子どもにまでその被害が及んでしまうことは、往々にしてありえるのです。
子どもへの影響について詳しくは後述しますが、子どもへの被害経験については女性が30%、男性20.3%が「認識」していたという結果ですが、もちろん認識がなされてない場面での加害・被害も考えられますし、残念ながら「父親が母親へ加害、被害者である母親は子どもへ加害」といった連鎖が発生している場合も考えられるため、調査結果の数字よりもっと多い可能性が大と考えられます。
被害者女性4割、被害者男性6割が
「誰にも相談せず」
男女ともに半数近くの方が「誰にも相談をせず」、その理由が「相談するほどではないと思った」「自分にも悪いところがあると思ったから」と回答。
この点、誰に対してであっても、他者の尊厳を傷つける行為は許されるものではありません。以下の過去記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
過去記事:人格否定はどんなに親しい間柄でもNG! 心を深く傷つける言葉と、その対処法とは
過去記事:パートナーとの衝突が多いのは、本当にあなたのせい? DV・モラハラの具体例と解決策を知ろう
「子どもをひとり親にしたくない」と、
離婚を選ばないケースも多数
被害を受けた人の中で、相手と離婚した人はたったの約2割にとどまっています。
理由としては、女性被害者の71.3%、男性被害者の61.5%が「子どものこと」を理由に挙げていました。
しかし、近年の脳科学の研究では、虐待を受け続けたりDVを見続けたという被虐待者の脳を、MRIで形や機能を調べたところ、脳のある部位が萎縮や肥大するといった異常が発生するという結果が出ています。
たとえば、親のDVを見続けた子は「視覚野」が萎縮し、体罰を受け続けた子は「前頭前野」が萎縮する一方、暴言を受け続けた子の場合は、言葉を理解し他者とのコミュニケーションのための重要な部位となる「聴覚野」が肥大していたそうです。
この点についても、以下の過去記事で詳しくまとめていますので、あわせてお読みください。
過去記事:子どもを傷つけ、将来の可能性の芽を摘む「マルトリートメント」とは?
たとえ暴力が子どもへ向いていないとしても、家庭内に暴力がある状態で生活を続けるのが本当に「子どものため」といえるのかは、その子の本当の心を覗かない限りはわかりません。また、その子の心(脳)に大きな傷を負わせることにならないか、成長過程や大人になったときに悪い影響はないかをしっかりと考える必要があるでしょう。
ただし、「子どものため」という点に経済的な不安が加味されているのであれば、自治体や民間の自立センターやシェルター(配偶者からDVを受けた人を一時的に保護する施設)の利用を検討してみるとよいかもしれません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
コロナ禍を経て、コロナ前よりも配偶者からの暴力や家庭内暴力が増加したといわれています。同時に、実は女性の自殺率も上昇しているのです。
2021年の日本の労働力調査では、パートやアルバイトなどの非正規労働者は男性が22%だったのに対し、女性は54%と過半数を占めています。先のデータで「経済的な不安」がパートナーと別れられない理由に上がっていたように、経済的な格差をなくしていくことが、暴力のない家庭をひとつでも増やすことにつながるかもしれません。
また、あなた自身がDV被害とは無縁の生活をしているとしても、もし第三者がDVや児童虐待を知ったときは、DV防止法(配偶者暴力防止法)や児童虐待防止法にもとづき、通告(通報・連絡)をすることが義務(一部は努力義務)とされています。
過去記事:DVを見て見ぬ振りはできない時代に。周りの児童や配偶者への暴力を知ったときはどうする?
配偶者からの暴力被害は約4人に1人が経験しています。
あなたのすぐそばにも困っている人はいるはずです。
あなたに何かできることはないか、ぜひ同僚や友人など周りの方に心くばりをしてみてくださいね。