家庭内のDV(ドメスティックバイオレンス)、職場内のパワハラやセクハラなどについて、年を追うごとに法律が整備されてきています。一方、私たち一人ひとりは、これらの法律の理解が十分ではないのが実情です。
たとえば、周りのご家庭でDVが起こっていることを知ったときに、私たちはどのように行動すればよいでしょうか。
DVに関連する法律は、主に次の2つです。
- 児童虐待防止法
正式名称は「児童虐待の防止等に関する法律」。旧児童虐待防止法は昭和8年(1933年)制定。新法が平成12年(2000年)に制定され、令和元年(2019年)には体罰禁止を明文化した改正法が成立。 - DV防止法(配偶者暴力防止法)
正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」。平成13年(2001年)制定。平成25年(2013年)に改正法が成立。
どちらの法律にも共通しているのは、第三者が児童虐待やDVを知ったときは、通告(通報・連絡)をすることが義務(または努力義務)とされている点です。
つまり、私たちは児童虐待やDVを見て見ぬ振りはできないのです。
以下、まずは両法の条文を確認してみましょう。
児童虐待を知ったら、通告(通報・連絡)しなければならない
児童虐待防止法第5条第1項では「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」としています。
また、同法第25条第1項では「要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」と規定しています。
このように、児童虐待の通告は国民の義務です。
児童虐待の可能性については、確信がもてない場合もあるでしょう。この点、同法第6条第1項では「児童虐待を受けた児童」ではなく「児童虐待を受けたと思われる児童」と規定しており、可能性のレベルであっても通告しなければならないことになります。
つまり、法律では、もし児童虐待の事実がなかったとしても、未然に防げればよしとされているのです。
配偶者からの暴力を知ったら、通報するように努めなければならない
配偶者への暴力の場合はどうでしょうか。
DV防止法第6条第1項では「配偶者からの暴力(配偶者又は配偶者であった者からの身体に対する暴力に限る。以下この章において同じ。)を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない」としています。
つまり、児童虐待とは異なり、通報(通告)は努力義務とされています。
また、同第2項では「医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報することができる」としています。ただし、「この場合において、その者の意思を尊重するよう努めるものとする」としているとおり、さらに大きなトラブルに発展する可能性がある場合などは、本人の意思を確認した上で「通報しない」という判断もできます。
通告は匿名でも可能、通告者のプライバシーは守られる
児童虐待やDVを通告(通報)したことが「当事者に知られるのでは」と心配に思っている方は、安心してください。
通告は匿名でも可能であり、通告者のプライバシーは守られます。次の方法で通告をしましょう。
- 児童相談所虐待対応ダイヤル
専用ダイヤル「189(いち・はや・く)」に電話をかけると、近くの児童相談所につながります。24時間対応です。 - DV相談ナビ
短縮ダイヤル「♯8008(はれれば)」に電話をかけると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
どちらの場合も、警察に連絡する方法もあります。警察相談専用電話「#9110」に電話をかけると、その地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながります(平日日中のみの受付)。
緊急を要する場合は「110」番にかけるか、最寄りの警察署や交番に相談してください。
児童虐待の兆候は、こんなところにあらわれる
児童虐待の兆候として、子ども、親、家庭の様子の例を挙げます。
お近くで思い当たるご家庭がないか考えてみてください。
子どもの様子
- 季節に合わない衣服や、不潔な衣服を身につけている
- 夜遅くまで外で遊んでいたり、家に帰りたがらない
- 基本的生活習慣が身に付いていない
- 特に病気でないのに身体的発達が著しく遅れている
- 身体に不自然な外傷、あざ、火傷などが見られる
- 表情が乏しく、無表情、笑わない
- 食事に対して異常な執着を示す
- 落ち着きがなく、乱暴である
親の様子
- 子どものけがや傷跡の説明が不自然である
- 子育てに疲れている様子が見られる
- いつもイライラして、子どもに当たり散らしている
- しつけと言って殴る、蹴るという行為が見られる
- 子どもについて話すことがよく変わる
- 地域や親族との交流がなく孤立している
家庭の様子
- 毎日のように長時間子どもの泣き声が聞こえる
- 親の怒鳴る声や物を投げつけるような音が聞こえる
参考:鳥取県「虐待の種類と虐待を疑わせるサイン」
参考:長岡京市「こんなときはいち早く通報を~児童虐待の早期発見と支援のために~」
なお、DVについては、上記と共通する兆候として、大声で怒鳴ったりケンカをする声が聞こえる、配偶者のどちらか(多くの場合、妻)の身体に不自然なアザやケガがある、といったことが挙げられます。
まとめ
警察も以前は「民事不介入」と称して、家庭内のトラブルには立ち入らない傾向がありましたが、児童虐待防止法やDV防止法の改正によって、積極的な対応を取る方向になったといわれています。
私たちも、児童虐待の事実を知ったときはもちろん、その可能性が高いと考えられるときは、専用ダイヤル「189(いち・はや・く)」や最寄りの警察署に連絡をしましょう。
悲惨な児童虐待のニュースを目にするたびに、なぜ周りの大人が助けてあげられなかったのかと残念に思います。
加害者である保護者自身が追い詰められた状況にあり、救いの手を求めているかもしれません。私たち大人が、知り合いや周りで起こっている児童虐待の兆候をつかみ、通告の義務を果たすことが、結果的にその家庭を救うことにつながると考えます。
なお、児童虐待やDVの定義や具体例については、以下の過去記事を参考にしてください。