カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する意識や実態把握を目的に、日本労働組合総連合会がインターネットで実施した「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022(PDF)」を公表しました。
調査は2022年11月11日~11月12日の2日間、直近3年間で自身または同じ職場の人がカスタマーハラスメントを受けたことがあるという1,000 名(全回答者)の回答から、2022年のカスハラ被害の実態が見えてきましたのでご紹介します。
あなたが働いている企業では、カスハラ対策をきちんと行っていますか?
カスハラは従業員のモチベーションの低下だけではなく、生産性の低下や離職につながり、職場環境や企業の成長に大きなを影を落とします。コロナ禍の影響によってもカスハラは被害が増えているようです。再び新型コロナウイルスの感染が広がっている中、最近のカスハラ事情を知り、ぜひ対策の参考にしてみてくださいね。
カスハラの内容は「暴言」「説教など」が約半数
カスハラの全体的な傾向を知ろう
直近3年間のでどのようなハラスメントを受けたか?という質問では、「暴言」が55.3%と最も高い結果となりました。次いで「説教など、権威的な態度」が46.7%と高く、受け手が委縮してしまうような言動や業務妨害となるような行為が上位に挙がっています。
しかし、男女別に見ると、「暴言」が男性では51.6%に対して女性では60.2%と10ポイント近くの差がみられました。また、セクハラ行為(全体8.9%)についても、男性は3.4%に対して女性は16.6%と大きな差がありました。
また、自身が受けたカスハラのきっかけでは「勘違いや嫌がらせ」が47.4%、「商品・サービス提供への不満」40.4%が特に高くいようでした。「勘違いや嫌がらせ」がなんと半数近く、相手が顧客といえどもそのような理由で尊厳を傷つける言動をとられてしまっては、働き手はたまったものではないでしょう。
介護ではセクハラ、公務では長時間の拘束が最多
職種・業種ごとで起こりやすいカスハラとは?
カスハラは業種によっても種類が異なるようです。
カスハラ対策を検討中の企業には、職種別のハラスメントデータが非常に役立つでしょう。「どこから手をつければいいの?」という場合には、これらのデータを元に、まずは職種で起こりがちなハラスメントが起きた場合に、企業としてどのように対応するのかの検討するのがオススメです。
たとえば、医療・福祉・介護職では「セクハラ行為」が20.0%と、全体(8.9%)と比べて11ポイント以上の差、公務では「長時間の拘束」が36.7%と、全体(17.5%)と比べて19ポイント以上の差があり、ほかの職種と比べて特に高くなっています。このように、その職種で起こりやすいカスハラについては、重点的に対策を検討することが大切です。
次に、自身が受けたカスハラのきっかけでも、業種ごとに特色が表れています。
全体では「勘違いや嫌がらせ」が1位ではありましたが、金融業・保険業では「商品・サービス提供への不満」が55.0%、「商品・サービス提供のミス」が27.5%と他業種に比べて高く、カスハラ対策という新たな取り組みだけではなく、既存のマニュアルの見直しを行うことがカスハラ減少の近道になると考えられます。
コロナ禍でのカスハラの増加と深刻化
背景には社会的なストレスの増大がある
直近5年間でのカスハラ状況の変化では、 「発生件数」は増加したが36.9%、「深刻さ」は増加したが36.5%でした。
発生件数や深刻さの増加理由では、1位には「格差、コロナ禍など社会の閉塞感などによるストレス」が挙げられていました。
また、「顧客や取引先からの、新型コロナウイルス感染症に関係する内容のハラスメント(差別、偏見、誹謗・中傷等)」を受けたことがある人の割合は全体で22.7%でした。
特筆すべきは、医療・福祉業界です。
- 「顧客や取引先からの、新型コロナウイルス感染症に関係する内容のハラスメント(差別、偏見、誹謗・中傷等)」が34.4%、
- 「新型コロナウイルス感染症に関連して、職業に関わる差別」が35.9%
と、他業種に比べ10ポイント以上高い結果となっていました。
2023年、行動制限のない年末年始を経て、再びコロナ感染者数が増加しています。各地の病床使用率も80%〜90%になりつつあるといわれるなか、コロナによる社会的な閉鎖感やストレスが再び緊迫した状態となるかもしれません。
「カスハラが増加し、優秀な人材の休職や離職で人手不足、現場がひっ迫し、さらなる離職者の増加が……」という悪循環になる前に、ぜひハラスメント対策の検討や見直しを行ってみてください。
患者や家族からの医療関係者へのハラスメントは「ペイシェントハラスメント」と呼ばれます。病院側ができるペイハラ対策も過去記事でまとめていますので、あわせて参考にしてみてください。
過去記事:診察を拒否されることも!? 患者や家族からの医療関係者へのハラスメント「ペイハラ」とは?
被害者の7割が「私生活に変化があった」と回答
社内体制の整備や従業員教育がダメージを減らす
カスハラを受けたことで、生活上に変化があったかどうかでは、「変化があった」が76.4%でした。
さらに、「仕事をやめた・変えた」人についてみると、就業中に「カスハラへの対応に関する研修」の対策が「取られていない(いなかった)」は67.6%、「取られている(いた)」は8.5%と、59ポイント以上の差が出ています。
その他の項目についても、カスハラ対策が行われている企業では生活上の変化があった人は少なく、逆に対策が不十分な企業では変化があった人が多い傾向です。このことからも、社内体制の整備が従業員教育がダメージコントロールに直結することが理解できます。
被害者が感じた「必要な対策」とは?
従業員は「発生時のサポート」を強く求める
実際にカスハラ被害に遭った方たちは、どのような対策が必要と感じているのでしょうか?
「カスハラ発生時のサポート体制」では「必要性を強く感じる」が 43.3%、「必要性を感じる」が38.4%で、合計した「必要性を感じる」は81.7%と最も高い結果となりました。つまり、社内規則やマニュアルなども必要ではあるが、どうしてもカスハラは発生しうるものであり、発生したときは会社側がきちんとサポートしてほしい、という従業員の思いが表れています。
また、顧客と担当者の個人間での解決は難しく、問題が長期化しやすい場合が多いかと思います。カスハラに対する自社の方針を明確にすること、サポート体制を整備することは、従業員が安心して働ける環境づくりに直結するだけでなく、信頼できる企業であるというイメージを生み出すことにつながるため、全社的な対応が求められます。
なお、カスハラ対策の顧客への周知方法については、「企業や店舗のウェブサイトへの記載」や「リーフレットやポスターの掲示」で対応をしている企業や店舗も多く、過去記事でも紹介しています。ぜひご参考にしてみてください。
過去記事:悪質クレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)の被害を最小限にする事前準備を紹介
まとめ
現在、カスハラはパワハラやセクハラよりも相談率の高いハラスメントになりつつあります。
データを示したとおり、カスハラ対策の有無は従業員のメンタルヘルスや離職率にも直結することがわかりましたが、カスハラ対策とひとくくりにはできず、企業ごとや職種ごとに対応すべきポイントが異なります。したがって、単なる他社の模倣ではなく、各企業が自分たちに合ったカスハラ対策を考え、実施していく必要があります。
人材育成や従業員の福利、そして企業のさらなる成長のためにも、データを活かして自社に合ったカスハラ対策を実施しましょう。
画像・データ引用元:日本労働組合総連合会「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022」(PDF)