みなさんは「逆ハラ(逆パワハラ)」という言葉をご存知ですか?
逆ハラとは、部下から上司に対して行われるハラスメントを指します。具体的には、
- 暴言や暴力
- 誹謗中傷
- 無視(ネグレクト)
- 事実に基づかず、上司の言動がハラスメントであると主張して、上司の処分を求めたり、上司の指示に反発したりする言動
などが該当します。
逆ハラは、必ずしも一対一で行われるものではなく、部下が上司に対して集団で行うケースもあります。たとえば、「怪文書」や「中傷ビラ」による上司への執拗な誹謗中傷や、上司からの挨拶や会話に対してみんなで無視をしつづけるなどです。
それでは、逆ハラの定義と事例、対応策について見ていきましょう。
実は、厚生労働省の告示で「逆ハラ」が定義されていた
厚生労働省が令和2年(2020年)に出した告示の中で、逆ハラについて定義している部分があります。
以下、引用してみましょう。
- 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
出典:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】」(PDF)
なお、職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
- 優越的な関係を背景とした言動であって、
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- 労働者の就業環境が害されるもの
であり、1から3までの要素をすべて満たすものを指します。
ここで、部下から上司へのハラスメントは「優越的な関係を背景とした言動」に当たるのかどうかが問題となります。通常、部下が上司に対して「優越的な関係」であるケースは稀だからです。
この点、上記の厚生労働省告示では、「『優越的な関係を背景とした』言動とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」を指すとしています。
つまり、必ずしも地位が上の者から下の者への行為だけでなく、上司側が抵抗や拒絶ができないと考えられる関係の上で、同僚や部下から行われる行為もハラスメントに該当するとしています。
たとえば、前述した「怪文書」や「中傷ビラ」によるハラスメントは一方的になされるものであり、上司側が抵抗や拒絶ができません。暴言や暴力、無視なども、相手がひとりであれば対処のしようがあるかもしれませんが、集団で行われた場合は抵抗や拒絶はむずかしいでしょう。
逆ハラの事例4選。当事者が自殺をしたケースも
それでは、逆ハラの4つの事例を見てみましょう。
事例1:静岡市で50代の市職員が自殺。部下からの誹謗中傷でうつ病に
2014年12月、静岡県静岡市で中間管理職の50代市職員(男性)が自殺しました。この男性は新しい部署(地方公務員災害補償基金静岡市支部)に異動になった際、長時間の時間外労働のほか、その部署での経験が長い部下から「急に休まないでください」「いいかげんにしろ」などと誹謗中傷を受けつづけた結果、うつ病を発症。不幸にも自殺するに至ってしまいました。
男性の手帳に残業時間や部下の罵倒に関するメモが残っており、遺族は2015年5月、同支部に公務災害認定の申立書を提出しましたが、支部は2017年3月に「公務外の災害」と認定。遺族はこれを不服として支部審査会に審査を請求した結果、支部は「業務による強度の精神的または肉体的負荷」があったことを認め、2019年に行われた裁判でこの因果関係が認められ、支部は男性の自殺を「公務災害」(公務員災害補償制度の対象となる災害)に認定しました。
参考:朝日新聞デジタル「市職員自殺は公務災害 部下から叱責『いい加減にしろ』」
事例2:海上自衛隊で上司5人に逆ハラ。うち4人が精神疾患に
2022年12月、神奈川県の海上自衛隊厚木航空基地に所属する50代の自衛官(2等海曹、女性)が、5人の上司に対して、暴言などの度重なるハラスメントや、職場のネットワークシステムのデータを故意に消去して業務を妨害したとして、懲戒免職処分とされました。
女性は上司5名に対して「黙ってろ」とか「ばかじゃないの」といった暴言を繰り返したり、病歴をからかうような発言をたびたび行っていました。被害を受けた上司のうち4人が精神疾患を発症し、配置換えを余儀なくされたとのことです。
参考:デイリー新潮「上官に『ばかじゃないの』と暴言連発 “逆パワハラ”でクビになった元女性自衛隊員の言い分」
事例3:北九州の医科大学で、教授が准教授から逆ハラ。うつ病で休職に
2019年8月、北九州の産業医科大学で50代の男性教授が、大学側からの不当な懲戒処分があり、それをきっかけに部下である准教授らによる逆ハラ行為によってうつ病になり、休職を余儀なくされたとして、大学や准教授ら計6人を相手取り、懲戒処分の無効確認や損害賠償に関する計約1,100万円の支払いを求めて地裁小倉支部に提訴しました。
参考:西日本新聞「『逆パワハラ』産業医大教授が提訴 『中傷で不当処分』主張」
事例4:飲食業での逆ハラで上司が自殺。社内調査で追い詰められ
2009年5月に東京地方裁判所で出された逆ハラ事件の判決です。小田急レストランシステムで働いていた男性(当時51歳)が、逆ハラを理由に精神障害(うつ病)を発症し自殺したことが、業務に起因するものであるとして、労災が認められました。
当時の部下が自らの処遇に不満を持ったことから、自殺をした男性を含む上司らについて、「食券を再利用して売り上げを着服している」「金庫から1万5000円を盗んだ」「部下の女性職員に対するセクハラをした」「酒売場倉庫から窃取されたビールを飲んだ」などの中傷ビラを作成し(一部は事実だったが、自殺をした男性以外の者による行為だった)、小田急百貨店の労働組合に持ち込んだことがきっかけで、内部調査が開始。男性に重大な落ち度はなかったものの、事情聴取は糾問的で男性を追い込むものであり、また店長職の解任や異動の処分が何度か下されています。
男性は、この件に対する度重なる聴取、始末書作成などに忙殺され、精神的に追い詰められた結果、自殺に至ったとされます。
参考:BUSINESS LAWYERS「内部告発に端を発した社内調査とパワハラ防止」
逆ハラかなと思ったら、証拠を集めて然るべきところに相談しよう
もしあなたが逆ハラを受けている場合、どうすればよいのでしょうか。
面と向かって暴言や誹謗中傷を受けている場合は、その内容をきちんと記録するとともに、可能であれば録音をして証拠を残しましょう。録音には、常に持ち歩いているスマートフォンの録音アプリを使うのががもっとも手軽です。
無料ではじめられる、iPhone、Androidのどちらでも使えるAI録音アプリ「Voistand」では、
- バックグラウンドでの長時間録音が可能
- スマホの容量を気にしなくてもよいクラウドデータ保存
- カレンダーUIなので、いつどこでの録音かがわかりやすい
- AIベースの自動文字起こし機能がある
- 過去の音声データの取り込みや文字起こしが可能
など、他人からの暴言やハラスメントに悩まされている人に寄り添った機能が充実しています。
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iOS版(App Store) | https://apps.apple.com/jp/app/id1544230010#?platform=iphone |
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Voistandをさらに詳しく知りたい人は、ぜひ以下の過去記事をご覧ください。
過去記事:録音や音声メモに無料スマホアプリ「Voistand」を使おう。その7つのメリットとは?
証拠を集めた上で、次の2つの相談先の利用を検討しましょう。
1. 企業の相談窓口
パワハラ防止措置の一環として、企業にはハラスメントに関する相談窓口の設置が義務づけられています。企業は従業員に対し、ハラスメントの相談を行ったことを理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならないとされており、従業員は安心して相談できます。
相談後は、事実関係の確認や相談者・行為者への措置、当事者の関係改善援助などが行われ、企業内で自主的な紛争解決を行うことになります。
過去記事:裁判外紛争解決手続(ADR)とは? 民事上のトラブルを短期間、少ない費用で解決しよう
2. 総合労働相談コーナー
企業内での自主的な紛争解決が難しい場合には、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」に相談しましょう。
労働局では、労働紛争解決援助制度として、総合労働相談コーナーでの相談のほか、労働局長による助言・指導、紛争調整委員会のあっせん(行政ADR)による話し合いなどのサポートが受けられます。
まとめ
以上、逆ハラの定義と事例、対応策を解説しました。
逆ハラ事例から感じるのは、中間管理職などの地位にある男性が、うつ病や自殺に追い込まれるケースが多いことです。逆ハラは、その事実が当事者を悩ませることはもちろん、指導力不足や管理責任を問われかねないこともまた、その人を精神的に追い込む大きな要因となっていると考えられます。
Voista Mediaでは、今後も逆ハラの動向に注目し、事例や法改正の動きなどをみなさんにお伝えしていきます。