ホーム ハラスメント 東京都の「カスハラ防止条例」とは? カスハラの一律禁止や当事者の責務について詳しく解説

東京都の「カスハラ防止条例」とは? カスハラの一律禁止や当事者の責務について詳しく解説

この記事のサマリー

  • 東京都の「カスハラ防止条例」が2025年4月に施行
  • 条例では「カスハラの一律禁止」を明記
  • 都、顧客等、就業者、事業者に対して、さまざまな責務を定めている

目次

前回の記事 名札の表記見直し企業が続々……SNS時代のカスハラ対策事例と今後の動き で触れたとおり、2024年10月4日、東京都で全国初のカスハラ防止条例(正式名称「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」)が可決され、2025年4月から施行されることとなりました。

今回は、この条例の具体的な中身を見ていきましょう。

条例の概要と目的

まず、条例の概要を見てみましょう。

公正かつ持続可能な社会の実現に寄与するため、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策の基本的な事項を定める。

(1)基本理念

社会全体でカスタマー・ハラスメントの防止を図るとともに、その防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重

(2)禁止規定

何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。

(3)各主体の責務

都 カスタマー・ハラスメントの防止に関する情報の提供等
顧客等 カスタマー・ハラスメントへの関心と理解を深め、就業者に対する言動に必要な注意を払うよう努める。
就業者 カスタマー・ハラスメントへの関心と理解を深め、カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動をとるよう努める。
事業者 カスタマー・ハラスメントを受けた就業者の安全を確保し、顧客等に対し中止の申入れ等の措置を講ずるよう努める。

(4)指針の作成

都は、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針【注】を作成・公表
【注】「カスタマー・ハラスメントの内容」、「顧客等、就業者及び事業者の責務」、「都の施策」、「事業者の取組」等

(5)事業者による措置等

指針に基づき、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成等に努める。

出典:東京都の報道発表資料

ここで確認しておきたいのは、条例がどのような目的で策定されたのかです。

第1条で示されているとおり、「カスハラの防止に関し、基本理念を定め、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策の基本的な事項を定めることにより、顧客等の豊かな消費生活就業者の安全及び健康の確保並びに事業者の安定した事業活動を促進し、もって公正かつ持続可能な社会の実現に寄与すること」を目的としています。

条例の「カスハラ」の定義と基本理念

条例では、カスハラに関する用語を次のように定義しています(第2条)。

  • 事業者
    都の区域内(都内)で事業(非営利目的の活動を含む)を行う法人その他の団体(国の機関を含む)、または事業を行う場合における個人
  • 就業者
    都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む)
  • 顧客等
    就業者から商品またはサービスの提供を受ける者(顧客)、または就業者の業務に密接に関係する者
  • 著しい迷惑行為
    暴行、脅迫その他の違法な行為または正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為
  • カスタマー・ハラスメント(カスハラ)
    顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの

また、カスハラ防止に関する基本理念は次の2つです(第3条)。

  1. カスタマー・ハラスメントは、就業者の人格や尊厳を侵害するなど就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすものであるとの認識の下、社会全体でその防止が図られなければならないこと
  2. カスタマー・ハラスメントの防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならないこと

ここで注目したいのは、

  • 働く人の人格や尊厳を守ること
  • お客と働く人は対等の立場であること

を強調している点です。

ともすれば、「お客様は神様です」という言葉がひとり歩きし、あるいは顧客側がそのような言葉を悪用して、働く人に過度な要求をしたり、暴言を吐いたりといったが珍しくありません。このような考え方や態度に、条例としてはっきりとノーを示すことは極めて重要です。

この点については、以下の過去記事をあわせてお読みください。

過去記事:お客様は「神様」ではない。秋田の第一観光バスの意見広告と、カスハラの実態調査から考える

条例が示す「カスハラの一律禁止」

条例では「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と定め、カスハラの一律禁止を明記しています(第4条)。

ただし、カスハラをした者に対する罰則は定められていません。まずは都民に対して、カスハラは条例違反であるという意識づけを試みたものと考えられますが、今後、何らかの罰則が規定される可能性があります。

なお、条例の適用に当たっては、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」とされています(第5条)。顧客の要求やクレームが正当であった場合に、それをカスハラだと不当に判断し、対応を拒否することは認めらないと考えましょう。

条例が示す「当事者の責務」

条例では、東京都顧客等就業者事業者に対して、次のような責務を定めています。

都の責務

都は基本理念にのっとり、顧客等、就業者、事業者に対して次の施策を行うものとされます(第6条)。

  • カスハラの防止に関する情報の提供
  • カスハラの防止に関する啓発および教育
  • カスハラの防止に関する相談および助言
  • その他必要な施策

顧客等の責務

顧客等には、カスハラ防止について次の努力義務が課されます(第7条)。

  • 基本理念にのっとり、カスハラに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、就業者に対する言動に必要な注意を払うこと
  • 都が実施するカスハラ防止施策に協力すること

就業者の責務

就業者には、カスハラ防止に関して以下の努力義務が課されます(第8条・第14条2項)。

  • 基本理念にのっとり、顧客等の権利を尊重し、カスハラに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、カスハラの防止に資する行動をとること
  • 自らの業務に関して事業者が実施する、カスハラの防止に関する取り組みに協力すること
  • 事業者がカスハラ防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守すること

事業者の責務

事業者には、カスハラ防止について次の努力義務が課されます(第9条・第14条1項)。

  • 基本理念にのっとり、カスハラの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスハラ防止施策に協力すること
  • 自らの事業に関して就業者がカスハラを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずること
  • 自らの事業に関して就業者が顧客等としてカスハラを行わないように、必要な措置を講ずること
  • カスハラ防止指針に基づき、必要な体制の整備、カスハラを受けた就業者への配慮、カスハラ防止のための手引の作成その他の措置を講ずること

ここで、3つ目の「自らの事業に関して就業者が顧客等としてカスハラを行わないように、必要な措置を講ずること」について補足すると、就業者(働く人)はカスハラを受ける立場である一方、たとえば取引先との関係では顧客等になるなど、カスハラを行う
立場にもなりえます。事業者に対しては、働く人が取引先などにカスハラを行わないよう、カスハラ防止に関する啓発や教育などを行うことが求められるということです。

なお、東京都は今後、カスハラの防止に関する指針(カスハラ防止指針)を定め、公表するものとされています(第11条1項・3項)。カスハラ防止指針には、以下の事項が含められます(第11条2項)。

  • カスハラの内容に関する事項
  • 顧客等、就業者および事業者の責務に関する事項
  • 都の施策に関する事項
  • 事業者の取組に関する事項
  • 上記のほか、カスハラを防止するために必要な事項

まとめ

以上、2025年4月から施行される東京都のカスハラ防止条例の中身を解説しました。

近年、ハラスメント関連の話題では、パワハラやセクハラよりもカスハラが大きく取り上げられることが多くなっています。また、パワハラやセクハラは法整備や私たちの意識変化が進んだ結果、減少傾向にあるのに対し、カスハラは増加傾向です。

東京都のカスハラ防止条例の可決よりも前に、2023年8月1日から道路運送法に係る法令が一部改正され、バス・タクシーなどの車内での乗務員氏名の掲出義務が廃止されたこと、各自治体や民間のサービス職などでも、名札のフルネーム表記の廃止が進んでいることは、Voista Mediaでも取り上げました。

過去記事:名札のフルネーム廃止で個人情報の特定やハラスメントを防止。自治体や接客業で広がるカスハラ対策とは

東京都が全国に先駆けてパワハラ防止条例を制定したことで、他の道府県や自治体の中に同様の動きを見せるところがあると考えます。

Voista Mediaでは、今後も自治体が取り組むカスハラ防止対策について取り上げていきます。

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