2024年10月1日、アイドルの戦慄かなのさんが、自身の腫れた顔写真とともにDV被害の音声をXで投稿し、瞬く間に拡散されました。加害者は交際相手であり、暴行容疑で逮捕されていた「RepezenFoxx」元メンバー・DJまるさんと見られています。
加害者のマネージャーからの要望を受けてか、被害届の取り下げを選択した戦慄かなのさんは、その後も正式な謝罪は受けておらず、合鍵も返してもらえていない状況の中、逆恨みなどの危険性に怯えているとのことです。
あなたは、DVやモラハラ被害から、被害者やその家族を守る方法として「保護命令」という制度があることをご存知でしょうか?
保護命令は、被害者が裁判所を通して申し立てを行うことで、加害者が被害者へのつきまといなどの行為を禁止することができ、加害者が違反した場合には刑罰が課せられます。
この保護命令は、法律上の婚姻関係にある場合のほか、事実婚の場合や共同生活を送っている交際関係、離婚後の関係も含む、幅広い関係性で利用することができる制度です。
DVやモラハラは長時間かけて被害者の心を蝕み、正常な判断力を奪い、加害者と被害者に支配関係をもたらしてしまいます。
支配関係から正常な判断力を取り戻すためには、まずは加害者と距離を置くことが大切だといわれています。
今回はそんな「保護命令」について、申し立ての流れや適応範囲などをご紹介します。
被害に遭ってしまったときのセーフティネットとして、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
保護命令とは?
地方裁判所が被害者の申し立てを受け、相手配偶者に接近禁止令などの一定の行為を禁止する命令を発令します。
保護命令に違反した場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が課せられます。
保護命令の保護対象は、「配偶者(事実婚を含む)」「同棲している交際相手」のほか、「婚姻中に暴力・脅迫を受けていた場合の元配偶者」も対象になります。
保護命令の具体的な禁止事項は以下のとおりで、退去命令のみ2か月の効力、その他は6か月の効力があります。
保護命令の禁止事項
法令内容 | 具体的な禁止事項 | 期間 |
---|---|---|
接近禁止命令 |
被害者の身辺に付きまとったり、住居や勤務先の付近を徘徊するのを禁止する命令です。 | 6か月 |
子への接近禁止命令 (DV防止法10条3項) |
被害者と同居する未成年の子の身辺の付きまといや、住居や学校等の付近を徘徊するのを禁止する命令です。 | 6か月 |
親族等への接近禁止命令 (DV防止法10条4項) |
被害者の親族等の身辺に付きまとったり、住居や勤務先の付近を徘徊するのを禁止する命令です。 親族にとどまらず、被害者と社会生活において密接な関係のある人(例えば、被害者の味方をしている友人や勤務先の同僚等)も保護を受けられる場合もあります。 |
6か月 |
電話等禁止命令 (DV防止法10条2項) |
被害者・被害者と同居する未成年の子への、加害者からの以下の行為を禁止する命令です。
|
6か月 |
退去命令 (DV防止法10条1項2号) |
被害者と加害者が住居を共にしている場合、住居からの一時退去を命じることができます(期間は2か月)。 退去命令が出された場合、加害者はすみやかにその住居から退去し、2か月間は住居へ戻ったり付近を徘徊することが禁止されます。 |
2か月 |
保護命令申し立てから発令までの流れ
保護命令は可能な限り速やかに発令をする必要性が高いため、「裁判所は、保護命令の申立てに係る事件については、速やかに裁判をするものとする」とされています(DV防止法13条)。
具体的には以下の流れがありますが、「2. 保護命令の申立て」から「4. 裁判所による保護命令の発令」までの期間は概ね2週間程度といわれています。
保護命令の流れ
1. |
警察や配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)などへの相談 |
警察や配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)などに相談し、被害状況を確認します。 |
2. |
保護命令の申し立て |
地方裁判所に保護命令を申し立てを行います。 |
3. |
地方裁判所での審理 |
裁判所が、相談先(警察や配偶者暴力相談支援センター(DVセンター))などから相談歴などを取り寄せ確認。 配偶者(被害者)と面接をし事実確認を行い、相手方(加害者)を裁判所に呼び出す。 双方の意向や意見を聞き(審尋手続)、保護命令の発令を検討。 ※保護命令の申立てを知った相手方(加害者)が激高して暴力を振るってくることが確実視される場合などは、加害者の聞き取りを行わずに保護命令が発令可能な場合もあります。 |
4. |
裁判所による保護命令の発令 |
保護命令を発令するべきであるとされた場合、保護命令の全部または一部について、保護命令を発令。 |
5. |
裁判所から警察本部に連絡 |
地方裁判所は保護命令の発令後、すみやかに警察本部に連絡をし、保護命令の内容を伝えます。 |
6. |
警察本部から申立人に連絡・申立人の管轄の警察署に連絡 |
警察本部が、被害者の状況を確認を行い、被害者の居所を管轄する警察署に連絡を行います。 |
7. |
申立人の管轄の警察署が対応の準備・相手方に連絡して指導 |
管轄の警察署が、加害者に連絡をし、保護命令の内容を説明。 加害者への指導や監視、緊急の対応(保護命令を違反した場合など)の準備をしたりします。 |
8. | 逮捕・刑事罰(相手方(加害者)が保護命令に違反した場合 | 保護命令に違反する行動をした場合には、加害者は逮捕され、刑事罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)を受けます。 |
警察やDVセンターなどへの相談時の注意点
保護命令を申し立てる前に、加害者からの暴力被害に関して警察や配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)などへの相談が必要です。相談センターでは、被害内容の確認や申し立てを行うための要件を満たしているかなどサポートをしてくれます。
保護命令の申し立てを行うための要件について、配偶者暴力防止法(DV防止法)10条1項ではこのように表現されています。
配偶者暴力防止法(DV防止法)10条1項
被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫をいう。以下この章において同じ。)を受けた者に限る。以下この章において同じ。)が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力(配偶者からの身体に対する暴力を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。第十二条第一項第二号において同じ。)により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力(配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。同号において同じ。)により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき
要約すると、過去に加害者から「身体に対する暴力や生命や身体に対する脅迫を受けた」経験があり、今後も加害者から「身体に対する暴力によって生命又は身体に重大な危害を受ける恐れが大きい」場合、保護命令を申し立てることができます。
もちろん、被害者の性別は問わず、男性の被害者である場合や同性カップル間の暴力についても保護命令の対象です。
また、内閣府男女共同参画が頒布している配偶者暴力防止法に基づく保護命令制度の概要(PDF)では、接近禁止命令に該当する要件の中でも境界のあいまいな「脅迫」の例も記載されています。
「脅迫」の例
自由に対する脅迫 |
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名誉に関する脅迫 |
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財産に関する脅迫 |
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警察やDVセンターで相談する際には、第三者からの判断において(特に司法の場では)どうしても「証拠」が重視されます。
特に、脅迫が主たる被害の場合などは音声録音の証拠が有用です。
弁護士へ相談を仰いでから、適切に証拠を集めていく方法もありますが、時間も費用もかかってしまう点は否めません。
先に証拠を用意する場合には、ぜひ以下の点にご注意ください。
録音や録画の際に注意すべき点
- 録音や録画に気づかれないように、小型のレコーダーやスマホなどを活用する
- DV発生前から日常の様子も含めて記録しておく
- 複数のレコーダーで記録を行う
- データは手元に残さずクラウドに保存するのが理想
- 証拠として提出する際には反訳書(録音データの書き起こし)が必要
DVや脅迫といった、いつ起こるかわからないときの秘密録音では、相手にわからないように長時間録音(録画)ができることが重要です。
無料ではじめられる音声録音アプリ「Voistand」では、
- バックグラウンドでの長時間録音が可能
- スマホの容量を気にしなくてもよいクラウドデータ保存
- カレンダーUIなので、いつどこでの録音かがわかりやすい
- AIベースの自動文字起こし機能がある
- 過去の音声データの取り込みや文字起こしが可能
など、DVや脅迫、ハラスメントに悩まされている人に寄り添った機能が充実しています。
まずは無料で利用できますので、ぜひお試しくださいね。
iOS版(App Store) | https://apps.apple.com/jp/app/id1544230010#?platform=iphone |
Voistandをさらに詳しく知りたい人は、ぜひ以下の過去記事をご覧ください。
過去記事:録音や音声メモに無料スマホアプリ「Voistand」を使おう。その7つのメリットとは?
まとめ
戦慄かなのさんが投稿したDV音声では、「ぶち殺してやる 本当にクソがこの野郎」「今殺す、今殺す、今殺す」と脅迫的に連呼しながら暴行を行っている音声が録音されていました。被害者の悲痛な叫び声や、暴力から逃れようと謝罪する音声など、生々しい内容にSNSでは「被害経験者は聞いてはいけない」と忠告が相次ぐほどでした。暴力についても、首を絞められる、蹴られるといったほか、カビハイターを飲ませるといった殺人未遂ともいえる過激な内容だったようです。
「別れたい」「暴力を受けている」といった内容をSNSへ投稿したことも加害者が激昂した要因になっているようで、音声の中には「わかったから!Twitter訂正するから!」と叫ぶ被害者の声もありました。
今回の件でも明らかなように、DV被害から逃れるには手順が非常に重要です。加害者が激昂した場合に、被害者はよりいっそう悪い立場に置かれてしまう可能性が高いためです。
また、ガスライティングに関する過去記事でも紹介したとおり、DVでは共依存関係に陥っている場合や被害者が洗脳状態に陥っている場合も多いことも大きな問題です。周囲の関係を見て「おかしいな?」と思った場合には、上記の制度や保護センター(以下)などを紹介してみてくださいね。