みなさんは行儀や作法に関する用語というと、どのようなものが思いつきますか?
非常にたくさんある用語の中でも、特に混同しがちなカタカナ語である
- マナー
- ルール
- エチケット
- モラル
の意味について、あらためて考えてみましょう。
マナーは「社会で人びとが快適に過ごすための振る舞い」
マナーとは「社会で人びとが快適に過ごすための振る舞い」を指します。
ラテン語で「人の手による」や「手の扱い方」という意味の「manuarius」が語源とされるとおり、対人コミュニケーションが念頭に置かれているといえるでしょう。似た言葉に「礼儀作法」がありますが、こちらは相手に敬意を表す振る舞いが中心であり、マナーのほうがより広い意味の言葉として使われます。
たとえば、ビジネスマナーには、名刺は両手で差し出したり受け取ったりすること、自分と同じ会社の人には敬称をつけないことなどがあります。テーブルマナーには、西洋料理ではカトラリー(ナイフやフォークなど)は外側のものから使うこと、和食では適切な箸の持ち方や使い方などがあります。犬の散歩では、リード(引き紐)をつけて歩き、糞は拾って帰るのがマナーです。
このように、マナーは社会や集団で人びとが快適に過ごすためのものであり、同じ社会に属するほとんどの人にとって客観的なものです。ということは、異なる国や地域、つまり、異なる社会では、必ずしも同じマナーが通用するとは限りません。たとえば、日本ではお皿やお椀を手で持ち上げ、口元に近づけて食べることは普通ですが、多くの国ではテーブルに置いたままで食べます。
さらに、時代に応じて社会が変われば、マナーも変わります。昔は、上司が退社しないと部下も帰らなかったり、飲み会などで上座(上役が座る位置)や下座(部下が座る位置)を意識したりするのが当たり前でした。上司が部下に対して身の上話を踏み込んで聞いたりすることもよくありましたが、いまではほとんどないばかりか、むしろハラスメントに該当する場合さえあります。コロナ禍でオンライン会議が一般的になったことで、そのための新たなマナーも生まれています。
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ルールは「社会を保つために人びとが守るべき決まりごと」
ルールとは「社会を保つために人びとが守るべき決まりごと」を指します。
ラテン語で「まっすぐな棒」や「木の棒」という意味の「regula」が語源とされます。英語の「regular」や「regulation」と似た言葉ですが、実は同じ語源です。明文化された規則や規約のことであり、国が定める法律や、都道府県が定める条例が代表的です。身近なところでは、スポーツやゲームには必ずルールがありますし、会社の就業規則や休業規則、交通ルール、ゴミ出しのルールなど、さまざまなルールの下で社会が営まれています。
マナーとの共通点は、同じ社会に属する人にとって客観的なものであることです。また、社会によって、時代によって変わる可能性がある点も同様です。一方、マナーとの違いは、明文化されているかどうか、罰則があるかどうかです。ルールは基本的に明文化されており、破った場合は罰則が課されるケースがほとんどです。
たとえば、刑法に違反すれば、懲役や罰金などが課されます。球技でファウルをすれば、相手方に有利なかたちでボールが渡ったり、酷い場合は退場や出場停止などの処分が課されたりします。一方、マナーに違反した場合、眉をひそめられたり、注意を受けたりすることはあっても、罰則が課されることはないでしょう。
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エチケットは「個人間で相手を不快にしないための振る舞い」
エチケットとは「個人間で相手を不快にしないための振る舞い」を指します。
フランス語で「貼りつける」という意味の「estiquer」が語源とされます。この意味から転じて、宮廷に立ち入る際に守るべきことを書いて貼りつけた札やその作法を指すようになりました。ワインの表面に貼ってあるシールラベルのこと「エチケット」と呼ぶことをご存知の方もいるでしょう。上記の「貼りつけた札」という意味から、ワインのラベルもエチケットと呼ぶようになったそうです。
日本では、場に適した服装や身だしなみにする、電車やバスの中では大声でしゃべらない、咳やくしゃみをするときはハンカチで口を押さえる、訪問先では玄関で脱いだ靴を揃える、音を立てて食事をしないなどがエチケットに該当します。
エチケットはマナーと似ていますが、マナーはより客観的であるのに対し、エチケットは個人間や少人数の中で相手を不快にしないという、より主観的な振る舞いである点に違いがあります。そのため、マナーは同じ社会に属するほとんどの人が合意しており、人による考え方の違いは少ない一方、エチケットは必ずしもそうではなく、たとえばその人の服装が場に適しているかどうかの感じ方は人それぞれであったり、音を立てて食事をしている人がいても、不快に思う人もいれば、不快に思わない人もいます。
モラルは「個人的な価値観による良し悪しの判断」
モラルとは「個人的な価値観による良し悪しの判断」を指します。
ラテン語で「個人の気質」を意味する「mos」や、「風習」や「習俗」を意味する「moris」が語源とされます。日本語の中では「モラルが高い(低い)」「モラルに欠ける」「モラルに反する」といった表現で使われることが多い言葉です。「道徳(観)」や「倫理(観)」が類似の言葉として挙げられるでしょう。
マナーやエチケットとの違いは、行動(振る舞い)には現れず、心の中での主観的な判断である点です。しかし、他人の行動に対して「高い(低い)」「欠ける」「反する」といった判断を下し、時には注意をしたり非難をしたりという行動に現れることがあります。
近年よく聞かれる言葉として、モラルとハラスメントを合わせた「モラルハラスメント(モラハラ)」があります。モラルを理由とした精神的な苦痛や嫌がらせのことであり、フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した言葉(「le harcèlement moral」)とされます。
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まとめ
以上、マナー、ルール、エチケット、モラルという行儀や作法に関する用語の意味を整理しました。
混乱しがちな言葉も、語源や具体例、それぞれとの比較を通して考えてみると、いっそうクリアに理解できたのではないでしょうか。マナーやルールは客観的なもの、エチケットやモラルは主観的なものという区別も、ぜひ押さえておきたいところです。
みなさんのご参考になれば幸いです。